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どこでもいいからどこかへ行きたい

2024.12.28 公開 ポスト

「若い頃には戻りたくない」“実家時代“が人生で一番の悪夢pha

家から出たらそれは旅――。ふらふらと移動することをすすめる、phaさん著『どこでもいいからどこかへ行きたい』は、旅をぐっと身近に感じることができる一冊。読むことで旅する気持ちを味わうもよし、読みながら旅するもよし。年末年始のお供にどうぞ。

昔住んでた場所に行ってみる

引っ越しをするのが結構好きで、2、3年に一度くらい引っ越しをしているのだけど、その原因は自分が同じ場所で生活し続けるのにすぐ飽きてしまう性質だからだと思う。

大体同じ場所に半年以上住んでいると、「うおおおお、この家はつらい、こんなとこに住んでるからいろいろうまくいかないんだ、やっぱり前に住んでいた家のほうがよかった、引っ越したい……」という気分にいつもなってくるのだ。

それで別の場所に引っ越すと「引っ越してよかった!」と最初は思うのだけど、その状態も半年くらいしかもたなくて、しばらくするとまた「うおおおお、引っ越したい……」が始まる。

そういう場合の「この家やこの場所はだめだ」という気持ちが思い込みや勘違いだというのはもう長年の経験でわかっている。

大体どんなに嫌になって引っ越した場所でも、引っ越したあとでは「あそこはそんなに悪い場所じゃなかったな。いや、結構よい場所だったのでは」と思い出すからだ。

昔住んでいた大阪も京都も町田も日本橋も練馬も、今はどれもわりと懐かしくよい場所だったなと思うけれど、住んでいる当時はすごくその場所が嫌で一刻も早く引っ越したくて、人生がうまくいかないのは全てその土地のせいだ、くらいに思っていた。

どんな場所も、引っ越すと懐かしく思える。だから昔住んでいた場所に行くのは好きだ。

昔住んでいた家の近くに用もなく行って、昔よく行った店に行ったり、昔よく歩いた道をぶらぶらするのは楽しい。歩いていると住んでいたその当時の記憶がいろいろと蘇ってくる。

昔よく行った公園や喫茶店でぼーっとしていると、一瞬自分はまだここに住んでるんじゃないかという気分になってきたりする。でも、すぐに自分はもう別の場所に住んでるのだということを思い出す。

でもやっぱりちょっと気を抜くと、いつの間にか前の家に帰る道を歩いていたりする。だめだ。そこにはもう帰る家はないのに。もうあの場所は失われてしまったのだ。わざとそんなことを考えてちょっと寂しい気分になってみるのが好きだ。

昔の記憶が蘇るという点で、一番恐ろしいのは生まれてから18歳までを過ごした実家だ。
 

実家の布団に横たわって昔よく見た天井を見上げていると、18歳で実家を出てそのあといろいろあって今に至ったというのは全部夢か妄想で、実は自分はまだ中学生くらいで今もずっと実家に住んでいるのではないかという想像に囚われてしまう。

それは嫌だ。またあんな暗い頃に戻るなんて。あの自意識ばかりが過剰で、友達もおらず人生の先行きが全く見えなかった頃に戻るなんて。

若い頃になんて戻りたくない。実家を出たあと、失恋して号泣しながら自転車で全力疾走したり、自分を振った相手に長文の気持ち悪いメールを送ったり、稚拙な小説を書いて得意気に人に見せたり、ネットに匿名で下衆な書き込みをしたのが友達にバレたり、あんな恥ずかしいことをまたこれから体験しなおさなくてはいけないなんて、嫌だ。

起き上がって鏡に向かい、どう見ても10代ではない自分の老けた顔を見て、今までの年月が全て妄想ではなく現実であったことを確認して安心したりするのだ。

心臓に悪いので実家にはできるだけ泊まらないようにしている。

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関連書籍

pha『どこでもいいからどこかへ行きたい』

家にいるのが嫌になったら、突発的に旅に出る。カプセルホテル、サウナ、ネットカフェ、泊まる場所はどこでもいい。時間のかかる高速バスと鈍行列車が好きだ。名物は食べない。景色も見ない。でも、場所が変われば、考え方が変わる。気持ちが変わる。大事なのは、日常から距離をとること。生き方をラクにする、ふらふらと移動することのススメ。

pha『できないことは、がんばらない』

他の人はできるのに、どうして自分だけできないことが多いのだろう? 「会話がわからない」「服がわからない」「居酒屋が怖い」「つい人に合わせてしまう」「何も決められない」「今についていけない」――。でも、この「できなさ」が、自分らしさを作っている。小さな傷の集大成こそ人生だ。不器用な自分を愛し、できないままで生きていこう。

pha『パーティーが終わって、中年が始まる』

定職に就かず、家族を持たず、 不完全なまま逃げ切りたい―― 元「日本一有名なニート」がまさかの中年クライシス!? 赤裸々に綴る衰退のスケッチ 「全てのものが移り変わっていってほしいと思っていた二十代や三十代の頃、怖いものは何もなかった。 何も大切なものはなくて、とにかく変化だけがほしかった。 この現状をぐちゃぐちゃにかき回してくれる何かをいつも求めていた。 喪失感さえ、娯楽のひとつとしか思っていなかった。」――本文より 若さの魔法がとけて、一回きりの人生の本番と向き合う日々を綴る。

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どこでもいいからどこかへ行きたい

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pha

1978年生まれ。大阪府出身。京都大学卒業後、就職したものの働きたくなくて社内ニートになる。2007年に退職して上京。定職につかず「ニート」を名乗りつつ、ネットの仲間を集めてシェアハウスを作る。2019年にシェアハウスを解散して、一人暮らしに。著書は『持たない幸福論』『がんばらない練習』『どこでもいいからどこかへ行きたい』(いずれも幻冬舎)、『しないことリスト』(大和書房)、『人生の土台となる読書 』(ダイヤモンド社)など多数。現在は、文筆活動を行いながら、東京・高円寺の書店、蟹ブックスでスタッフとして勤務している。Xアカウント:@pha

 

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