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ある日、逗子へアジフライを食べに ~おとなのこたび~

2024.12.21 公開 ポスト

旅友から学ぶ、意外な必携品大平一枝

 最近の旅に欠かせないもの、それは三叉コンセントである。トリプルタップとも言うひとつのコンセントに三個口ついた、あれだ。

 スマホ、パソコン、ドライヤー。同行者がいるときはとくに欠かせない。相手が旅にどんな電化製品を持ち歩くのか。また、宿にコンセントがいくつあるかは事前に把握しにくいもの。
 スマホが欠かせない今、どんな旅でも、これは絶対あったほうがいい。

 旅の必需品というのは人によって異なり、興味深いもの。そう実感した最初の出来事は、友人のカメラマンと仕事で行ったフランスのホテルだった。

 予算が厳しく、びっちり朝から晩まで取材撮影があった。ホテルは狭くて古い。私はひとり、三日遅れてパリで合流した。先遣隊のスタッフの顔はだれも、すでに疲労の色が滲んでいた。

 夜中にホテルに到着し、とりあえず「あしたからよろしく」と、カメラマンの友人女性のドアの隙間にメモを入れた。もし横になっていてノックで起こしたら申し訳ないと思ったからだ。
 すると、かちゃりとドアが開き、彼女は微笑みながら言った。

「コーヒー飲む?」

 日本のビジネスホテルと違い、ポットもインスタントコーヒーもない。え、どこで? と不思議に思いながら部屋に入ると、彼女は変圧器と携帯湯沸かし器をコンセントに挿しこんだ。手のひらサイズのアルミの小鍋にコイルヒーターが付いたもので、旅や出張には必ず持ち歩いているという。
 鍋部分にミネラルウォーターを注ぎ、ペーパードリップコーヒーを持参してきたアウトドア用マグに手際よくセットした。

 海外暮らしの長い彼女らしい旅道具だなあと、見惚れた。

「夜遅くにコーヒーやカップラーメンの用のお湯をフロントまで貰いに行くの、面倒でしょ。鍋でインスタントラーメンも作れる。これがあるとすごく楽だよ」

 部屋に広がる香しい香り、たちのぼる湯気に長旅の緊張がゆるりとほどけた。

 いつも朗らかで、愚痴や弱音を吐かない。ハードな撮影を、一杯のセルフコーヒーで癒やし、自分を整えながら慣れない旅先でも頑張る彼女の秘密を垣間見た気がした。

 もうひとり、印象的な旅道具を持参した人がいる。

 あれも出張だった。真夏の京都へ一泊。帰りの新幹線で、たまたまある男性スタッフの横に座った編集者が、品川に着くなり目を丸くして教えてくれた。

 京都を出ると、隣の彼が、おもむろにこぶりな保冷バッグを座席テーブルの上に乗せた。中には、コンビニで買ったかちわり氷と、チューハイの缶が4本。品川まで、冷えた状態で仕事終わりのひとり打ち上げを楽しんでいたらしい。
 勧められたが彼女はあまり飲めないので、おしゃべりにつきあったとのこと。

「保冷バッグだけ持参して、氷を買って冷やすって、携帯冷蔵庫のようなものじゃないですか。あのアイデアには脱帽しました」

 旅は、家に帰るまでが旅だ。最後まで楽しく、快適にという思いの強い人なのだろう。仕事でなく、遊びだったら往路も含め、もっと缶の本数は増えていたかもしれない。

 そう、この必需品も忘れてはいけない。旅の同行者から教わって以来、私も欠かさない、個包装のフェイスパックである。

 試供品やバラマキ土産でもらうフェイスパックは、ひとつやふたつ家にあるものだ。あれの使いどきがわからずにいたが、旅先こそ最適だ。
 ホテルは、肌が乾燥しやすい。また、旅の夜は食事と入浴を終えればやることがない。だからじっくり顔のお手入れができる。ゆったり肌をケアしながら、自分を養生している気持ちになれる。

 同行者の分も持っていくと、大変喜ばれる。私がそうだった。たった一枚が旅先でもたらす喜びは、予想外に大きい。

ケーブルや充電器を収納できるクッション入りガジェットポーチを使用。3COINSで300円のお品

 

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ある日、逗子へアジフライを食べに ~おとなのこたび~

早朝の喫茶店や、思い立って日帰りで出かけた海のまち、器を求めて少し遠くまで足を延ばした日曜日。「いつも」のちょっと外に出かけることは、人生を豊かにしてくれる。そんな記憶を綴った珠玉の旅エッセイ。

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大平一枝

文筆家。長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に「東京の台所」シリーズや『人生フルーツサンド』『こんなふうに、暮らしと人を書いてきた』『そこに定食屋があるかぎり』など。「東京の台所2」(朝日新聞デジタル&w)、「自分の味の見つけかた」(ウェブ平凡)、「遠回りの読書」(サンデー毎日)など各種媒体での連載多数。

HP:https://kurashi-no-gara.com/

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