『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
食パン一斤と手紙
荷物が届いた。差出人の名前を見て少し驚く。
昨日、会った友人からだ。
小さな段ボール箱を開けると、立派な食パン一斤に深緑の枝とクリスマスの飾り、それから手紙が添えられている。彼女がいつも使う横長のポストカードに年賀状のいつもの字で「ごめんなさい」と書いてあった。
友人とは仕事で定期的に会うけれど、最近はお互いのスケジュールが合わず、数カ月ぶりの再会だった。移動中の電車の中でお互いの近況報告をしあう。そのときに、私が入院したことや、今度手術することなどを話した。
そんなに大変だったことを、知らなくてごめんね、と手紙には書いてあった。「ここのパンを食べるとエネルギーがチャージされる感じがするの」と、私と会った帰り道に買ってすぐ送ってくれたそうだ。
そのパンはぎっしりとしていて、生地の泡立ちにぐわーっと膨らもうとする生命力を感じる。食べると、本当に不思議なほどお腹に力が湧いてきた。
今度またつらい時は言ってね、知っていたいのです。と書いてあった。
ありがたかった。
つらい時、自分の弱さを呪う。痛みは人と比べられないから、自分のつらいと思っている痛みが、じつは大したことはなくて、ただ自分が弱いせいなんじゃないかって、責めてしまう。仕事や小説や育児に向かえない自分を意志が弱い怠け者だと思ってしまう。だから、誰かに伝えることを躊躇してしまう。自分のつらさに自信がないから。それくらいで、と思われるんじゃないかと恐れているから。気を遣わせたり、負担をかけて、迷惑がられたらどうしよう、と。
でも友人は「知っていたいのです」と書いてくれた。
つらい、と言ってもいいのだ。
こわばっていた体がしゅわしゅわとほぐされていくのを感じた。
夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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