12月5日(木)、紀伊國屋ホールにてTHE RAMPAGEのパフォーマー・岩谷翔吾初の書き下ろし小説『選択』(原案・横浜流星)の刊行記念イベント「僕たちが物語に託すこと」が開催された。ゲストは11月29日に公開された映画『正体』が大ヒット中の映画監督・藤井道人で、MCは同じくTHE RAMPAGEのパフォーマー・山本彰吾が担当。3人はプライベートでも交流があり、“飲み仲間”ならではラフな話題から共通の友人である横浜流星のエピソードも続々。ここでしか聞けないレアなクロストークを展開してくれた。
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プライベートでも仲のいい3人
「今日は横浜流星の代理で来ました」。
そんな藤井監督の砕けた挨拶でスタートしたトークイベントの最初の話題は「なぜこの3人になったのか」。実は3人は何年も前から「シンプルに飲み仲間」(藤井)で、共通の知り合いである横浜流星は岩谷の高校の同級生。しかも藤井監督は8年ほど前にTHE RAMPAGEのワークショップで演技指導もしており昔から縁があった。
また岩谷は『正体』の原作者の染井為人とも仲が良く「映画の試写会も(染井と)一緒に行かせていただいたんですけど、めちゃめちゃ面白くて3回泣きました」と絶賛。試写を観た夜には2人で藤井監督に連絡をして合流し「一緒に飲ませてもらった」という。山本も「僕も泣きました」とベタぼめ。「でもまさかこの距離感で、こんな風に3人で話をする日がくるとは思わなかった」と言うと「居酒屋でもいつもこんな感じだけどね」と藤井が返す場面も。
ちなみに今回のトークイベントには横浜流星も本気で来たがっていたのだが、大河ドラマの撮影でやむなく断念。岩谷と藤井監督に「本当に悔しい。行きたかった」という“長文メール” が送られてきたそう。「そりゃ、来るのは無理でしょ(笑)」(岩谷)と笑いながらも「『選択』は流星と2人ですごい愛を持って一緒に育てた」と語る。
「流星からのお題にハードル高っ!」
「この作品は4年をかけて出来上がったんですけど、最初に案を出したのは流星。ある日、彼から被告人として証言台に立っている男と裁判官が同級生だったっていう、アメリカのYouTube動画が送られてきて『これがやりたい!』って。その被告人はその場で崩れ落ちるんですけど、崩れ落ちるまでのプロセスを描きたいってお題を一個出してきたんです。さらに『最後、俺はどこで間違えたのかな』ってセリフを言わせたい。泣くでもなく、怒るでもなく、笑うでもなく描きたいって言われて、ハードル高っ! っていうのが最初の印象でした(笑)」(岩谷)。
そこから2人でディスカッションを繰り返し、『選択』を書いていったのだが「いろいろ話している時は、お互いワクワクするような学生ノリの延長でやっていたので、実はカッコつけて言える話があまりないんです」と、ちょっと恐縮気味の岩谷。
だが藤井監督が「『選択』は映像が見える感じがあった。僕の好きな要素もいっぱい入っていて、こういう芝居で撮りたいなとか、ビジョンが見えてきて楽しく読ませもらいました」と率直な感想を述べると、「本当に僕、藤井さんの作品にダイレクトに影響されて作ったのが『選択』なので嬉しいです」と顔をほころばせた。
『選択』はドラマよりやっぱり映画
そして、ここからは「藤井監督が『選択』を撮るなら」という話題へ。
「やっぱラストシーン。あのラストシーンを撮るなら、光の入るところと出るところとか、どんな想いを観客に渡したくて撮るのかなっていうのは結構、考えながら読んだ」「あとは誰がこの役をやったら面白いかなとか。まぁ、主人公の亮は一応、流星と思って読んでましたけど」と監督のイメージはかなり具体的。
そこで、また横浜の話になり「流星“監督”のコンテでは冒頭のシーンは亮の背中越しにして観客も一緒に導入というか。あえて描ききらない感じでいきたいって長文メールをもらいました」と岩谷。すると藤井監督も「僕にもいろいろ聞いてきた。もう大河ドラマに集中しなさいよって思うぐらい(笑)」。さらに「この作品はドラマより映画のほうがいいですかね?」と岩谷が聞くと「ドラマだと長いから、主人公以外の人のエピソードを増やしていくことになると思う。でも流星は『いや、映画っしょ』って言いそう。キャスティングもめちゃめちゃ口出して考えてきそうだし(笑)」(藤井)といったやりとりも。3人で話しているが、互いに暗黙の了解で、そこにいない“横浜流星”を交え4人で語り合っている。そんな印象を受けた。
その後は脚本を書く時に大切にしていることや言葉選びのこだわり、伏線の張り方など、分野は違えどクリエイターならではの目線や視点について盛り上がる3人。マニアックな話も飛び出したが、モノづくりをする人間の苦労や工夫が垣間見えるかなり貴重な話も。話題は尽きず「居酒屋で話してる時と同じノリになってる(笑)」(藤井)と笑い、会場もすっかりリラックスした雰囲気に。
岩谷の推しは蛇沼と美雨
後半は事前に集めた観客の質問をセレクトして答えるQ&Aタイムへ。
興味深かったのは「『選択』の中で一番、思い入れが強い登場人物は?」という質問で、藤井監督と山本は主人公の亮と、亮と関わっていく幼なじみの匡平を挙げたのが、作者の岩谷は意外にもヒール役のインテリヤクザ・蛇沼と紅一点キャラクターの美雨。「蛇沼は悪いヤツの姑息な部分をフォーカスした役なんですけど、描くのが楽しくて楽しくて。楽しいからどんどん分量が増えちゃって、流星から『長い』って言われました(笑)。美雨は唯一の女性キャラクターで最初は登場してなかったんです。でもどこかのタイミングで、やっぱ愛を知らなかった男が愛を知るってテーマにしたいよねって流星と話しまして。暗いストーリーの中の癒しというか、マイナスイオンを届けてくれる存在になったので、美雨だけは読者に嫌われて欲しくないって思いながら書きました」。
また、「ダブルしょうご(岩谷翔吾&山本彰吾)を藤井作品でキャスティングするなら、どんな役柄を当てたいか」という質問には「アンダーグラウンドな役柄」(藤井)と回答。
「だって(岩谷の)その襟足、なかなかいないよ(笑)。それか2人で恋愛モノとか。ダブル主演で」と藤井監督の話に観客も興味津々。
ただ、岩谷と山本が“深い仲”なのは確かで『「週8でメシを食いにいくぐらいなので『選択』でも、山彰さんのエッセンスは随所に散りばめられている。山彰さんがいつも言っている『高い度数のお酒を飲まない限りは休肝日』って言葉は、実際に文章で書いています」(岩谷)とのこと。
また「横浜流星さん原案でも、これはちょっと……だった箇所はありますか」という質問には
藤井監督も「いやいや流星、さすがにそれはダサいぜってやつがあったら聞きたい」と興味津々。
すると岩谷曰く「これはテレビでも言ったけど、表紙の出来上がったあとに流星から電話がかかってきて、『選択』にサブタイトルとつけたいんだって言われた時。ちょっと待ってくれ、もう表紙できてるぞって(笑)」。それを聞いた藤井監督が「多分、流星は“出版”の意味がわかってない(笑)」のつぶやきにまた笑いが起こる。
今後はドロッとした大人の恋愛の話も
1時間半のイベント時間はあっという間に過ぎ、最後はそれぞれ今日の感想を。
「今日は司会って言えるほどの司会もしてないですけど、楽しくお話できてよかったです。
どういった経緯で物語が作られ皆さんの手に届くのかとか、普段聞けないことだったり、もう一回見返したくなるような話もたくさん出てきましたけど、『選択』が皆さんの今後の人生を彩るひとつになればいいなと思います」(山本)。
「冒頭でも言いましたが、今日は横浜代理できました(笑)。文字を書くのは難しいし、大変だし、孤独だし、ちゃんと世に出すまでいく人ってひと握りなので、翔吾くんは本当に素晴らしいと思う。次の小説も楽しみにしていますし、僕は映像しかできることがないけど、何でも協力しますのでお互い頑張っていきましょう」(藤井)。
「『選択』は4年かけて、いろんな想いで一文一文魂を込めて書きました。でも皆さんが受け取ってくださるものがすべてなので、あまり多くは語らずにいきます。今後はめっちゃ恋愛の話も書いてみたいと思っていて、でも僕はキラキラしたものは得意じゃないので、ちょっとドロッとした大人の恋愛もいいかなと。あと流星からも『次はこれをやりたい』ってお題がすでにきていまして。僕も流星もエンタメ出身の2人なので、これからも皆さんがワクワクするような作品を作っていけるよう頑張っていきます」(岩谷)。
撮影/松原裕之 構成/若松正子
選択
大切な人たちを守りたくて、俺はこの道を選んだ。君がいたから、僕はこの道に進んだ―ー。岩谷翔吾と横浜流星、同級生の二人が心血を注ぎ、膨大なやりとりを経て紡いだ衝撃作。