『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
あなたはサンタ
サンタさんは誰からプレゼントをもらえるんだろう。
子どもの時、そう考えてせめてお礼の手紙を書いた。
でも、お礼の言葉を書きながら、足りないんだよなあと思っていた。してもらったことのお返しじゃなくて、そうじゃなくて、私が子どもってだけでプレゼントをもらえるように、サンタさんにもただギフトが贈られてほしい。
ギブ&テイクじゃなくて、ただ、授けられてほしい。
今年、たくさんの人にあたたかな気持ちをいただいた。
せんななひゃくろくじゅうえん、といつも思う。
1760円。
そのお金を得るのにかかる時間や、そのお金で買えるものたちのことを考える。
決して簡単に出せる金額ではない。
だけど7月18日、初めて書いたその本が店頭に並ぶと、次々と「買ったよ!」と写真付きでLINEが送られてきた。その夜にはもう長い長い感想を送ってくれた。「すぐ読み終えたけど、伝えたい気持ちをまとめるのに時間がかかった」と、数か月経ってからメールを送ってくれる人もいた。
私になんの義理もない見知らぬ人が、SNSで感想をあげてくださった。DMで「こんなの送り付けてすみません」と恥ずかしがりながら、言葉をかけてくれた人もいた。
そのたびに何が返せるのだろうと、途方にくれた。「ありがとう」じゃ足りないのに、感謝の言葉が「ありがとう」しかないのがもどかしかった。
「清はすごいよ」と書いてあった。そこに「私なんか」と書いてあることも時々あった。
そんなこと、絶対にない。私はあなたをサンタだと思っているのに、「私なんか」では絶対にない。
「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」で、いつまでも忘れられない言葉がある。文藝賞優秀作をとった佐佐木陸さんのインタビュー。
「自分と同じように沈黙の中で書き続けている人がいることを、僕は知ってるよって伝えたい」
私も知っている。
仕事に行き、子育てをし、ご飯を作って洗濯機を回して、その日々の中で私にギフトを授けてくれたあなたがいることを。そんなあなたに、誰に告げることもない、小さな願いや夢があることを。あなたの中だけにある書き記すことのない「言葉」がたしかにあることを。
何の権威もない私だけれど、私はあなたを表彰します。
あなたこそ、すごい人なんだ。
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夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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