1. Home
  2. 生き方
  3. 夢みるかかとにご飯つぶ
  4. 【夢ごは日誌】あなたはサンタ

夢みるかかとにご飯つぶ

2024.12.25 公開 ポスト

【夢ごは日誌】あなたはサンタ清繭子

夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

あなたはサンタ

サンタさんは誰からプレゼントをもらえるんだろう。
子どもの時、そう考えてせめてお礼の手紙を書いた。
でも、お礼の言葉を書きながら、足りないんだよなあと思っていた。してもらったことのお返しじゃなくて、そうじゃなくて、私が子どもってだけでプレゼントをもらえるように、サンタさんにもただギフトが贈られてほしい。
ギブ&テイクじゃなくて、ただ、授けられてほしい。

今年、たくさんの人にあたたかな気持ちをいただいた。
せんななひゃくろくじゅうえん、といつも思う。
1760円。
そのお金を得るのにかかる時間や、そのお金で買えるものたちのことを考える。
決して簡単に出せる金額ではない。

だけど7月18日、初めて書いたその本が店頭に並ぶと、次々と「買ったよ!」と写真付きでLINEが送られてきた。その夜にはもう長い長い感想を送ってくれた。「すぐ読み終えたけど、伝えたい気持ちをまとめるのに時間がかかった」と、数か月経ってからメールを送ってくれる人もいた。
私になんの義理もない見知らぬ人が、SNSで感想をあげてくださった。DMで「こんなの送り付けてすみません」と恥ずかしがりながら、言葉をかけてくれた人もいた。

そのたびに何が返せるのだろうと、途方にくれた。「ありがとう」じゃ足りないのに、感謝の言葉が「ありがとう」しかないのがもどかしかった。

「清はすごいよ」と書いてあった。そこに「私なんか」と書いてあることも時々あった。
そんなこと、絶対にない。私はあなたをサンタだと思っているのに、「私なんか」では絶対にない。

「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」で、いつまでも忘れられない言葉がある。文藝賞優秀作をとった佐佐木陸さんのインタビュー。
「自分と同じように沈黙の中で書き続けている人がいることを、僕は知ってるよって伝えたい」
私も知っている。
仕事に行き、子育てをし、ご飯を作って洗濯機を回して、その日々の中で私にギフトを授けてくれたあなたがいることを。そんなあなたに、誰に告げることもない、小さな願いや夢があることを。あなたの中だけにある書き記すことのない「言葉」がたしかにあることを。

何の権威もない私だけれど、私はあなたを表彰します。
あなたこそ、すごい人なんだ。
 

関連書籍

清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』

母になっても、四十になっても、 まだ「何者か」になりたいんだ 私に期待していたいんだ 二児の母、会社をやめ、小説家を目指す。無謀かつ明るい生活。 「好書好日」(朝日新聞ブックサイト)の連載、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題のライターが、エッセイストになるまでのお話。

{ この記事をシェアする }

夢みるかかとにご飯つぶ

好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。

バックナンバー

清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP