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山野海の渡世日記

2024.12.25 公開 ポスト

わっしょいわっしょい!山野海(女優、劇作家、脚本家)

わっしょいわっしょい!

11月後半から、ありがたいことに仕事が重なり、

この1ヶ月ずっと心の中で「わっしょい! わっしょい!」と掛け声かけて

日々の仕事に挑んでいる。

 

仲良し後輩が先日言っていた。

ゲッターズ飯田さんによると、今年の年末忙しくしている人は

来年も仕事で忙しくなると。

それを信じて日々、見えない神輿を担ぎながらわっしょいわっしょい言っている。

 

さて、12月の頭にはスペシャルドラマと、別のドラマを同時期に撮影していた。

スペシャルドラマは会社の社長役。

もう一つはラブホテルの支配人のおばさん役。

最初に言っておきます。

どちらも素晴らしく面白いドラマです。

スペシャルドラマの撮影は順調に終わり、もう一つのドラマも残すところあと一日。

長尺のセリフがいくつもあり、覚えられるのかと少し不安に思ったが

そこは大丈夫なようで、自分の頭がまだしっかりしていることが分かり

ご機嫌で残りの一日を過ごしていた。

そして、深夜も深くなったころ、ホテルのフロントでの撮影があった。

撮影場所は本物のシティホテルをお借りしており、フロントには本物のお客様も来る。

もちろんお客様が来ると、撮影は中断して私は奥に行き本物のホテルの受付の方と変わる。

撮影したのは休日の深夜で、確かにお客さんがいっぱい来るだろう時間帯。

もちろん場所をお借りしているのだから、お客様が来たら撮影を中断するのは当たり前。

逆に我々撮影隊がいて、お客様に申し訳ないなあと思っていた。

で、話を戻すと、私の役はラブホテルの支配人のおばさん。

衣装ももちろんそれ風に、白いブラウスに白黒チェックのベストと黒いパンツ。

もうね、誰がどう見ても本物だ。こういうおばさん深夜のフロントにいそうだもん。

てことで、はい。間違えられました。

ホテルに来た本物のカップルのお客様に。

フロントでもらったカードキーを私に見せながら

「すいません。これ、何階でしたっけ?」

私、途端に挙動不審。だって私は偽物だ。

でも、偽物だとお客様が気づいたら、きっと嫌な気持ちがするだろう。

咄嗟に私はお客様の持っているカードキーを見た。

部屋番号が小さく書いてあった。

私は挙動不審をなのがバレないように、一度大きく深呼吸をしながら

改めてお客様にお応えした。

「○階の○号室でございます」

カップルのお客様は笑顔でエレベーターに消えていった。

良かった。とにかく無事にお客様をお部屋にご案内できた。

ま、偽物のホテル支配人だけれども。

 

そして、こちらのドラマも無事にオールアップしその後は作家業。

締切間近の脚本を2本抱えており、そこからまたいわゆる修羅場。

時間との勝負であるし、だからといって、丁寧に書きたいし

そんな時の私は、眉間に皺寄せ鬼の形相。

いつもは甘えてくる犬猫さえ、全く近付いてこない。

だが20日を過ぎる頃にはそれも終り、やっと犬猫も落ち着いた。

 

 

ここで年末はゆっくりかしらと思っていたら大間違いで

そこから来年何作か決まっているドラマや映画の怒涛の衣装合わせ。

衣装合わせというのは文字通り、その役に合った衣装を

衣装部さんが何着も用意してくださり、そこから決めていく。

それだけでなく、監督はじめスタッフさんともよろしくお願いしますのご挨拶。

そしてこれも重要なことなのだが、

この時に監督やプロデューサーと初めて自分の頂いた役についてお話しをする。

自分が思っていた役作りと脚本家や監督やプロデューサーが考えていた私の役を

話あって擦り合わせていくのだ。

一番緊張するところでもあるし、楽しい時間でもある。

で、つい先日、いくつかある衣装合わせのうちの一つにマネージャーと共に行ってきた。

監督スタッフが錚々たるメンバーで、背筋が伸び切ってまずはご挨拶。

衣装合わせをする前に、監督とプロデューサーを前に今回の役のすり合わせ。

いくつかのポイントを監督からお聞きしたり、私からも提案させていただいた。

さて、これから衣装を着替えるかという段になって監督から一言。

「今回の海さんの役はとにかく食いしん坊だから」

く、食いしん坊! 来年還暦で食いしん坊。やったー!!

途端に楽しく嬉しくなり、私の心は上がった。

だって、60で食いしん坊の役はきっと私にしかできないはず。

これで調子に乗った私は、ウキウキと衣装部さんに用意していただいた衣装に着替え

今回の役に合いそうな自前のメガネをいくつか監督に見てもらい、提案させていただいた。

そして、この使い古した四角い茶色のメガネをかけてみた。

メガネをかけた私の顔を監督が見た途端、監督の眉間に皺が寄った。

「え? やっちゃった? 役に全然合わなかったのか!」と私は思った。

しばらくすると監督がいきなり笑い出した。

どうして急に笑い出したんだろうと、自分の姿を近くにあった鏡で見た。

えっとですね、結局ね、その四角い茶色のメガネをかけた私。

大木凡人さんにそっくりだったの。

修正一切なしの山野海。

私はすぐに監督に言った。

「凡人感出ちゃってますね」

監督笑いながら

「うん。出ちゃってるから、そのメガネはやめよう」

食いしん坊の役で大木凡人さん似では、いくらなんでもキャラが立ちすぎだ。

結局全く違うメガネになった。

 

そんなこんなの年末

まだまだありがたい事に仕事は続いてます。

来年も、トップギア全開で走り抜けます。

 

みなさま、今年もお読みいただきありがとうございました。

皆様にとって、来年も最高の年になりますように!

 

あ! 忘れてた!

その前にメリークリスマス!

素敵なクリスマスをお過ごしください。

 

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山野海の渡世日記

4歳(1969年)から子役としてデビュー後、バイプレーヤーとして生き延びてきた山野海。70年代からの熱き舞台カルチャーを幼心にも全身で受けてきた軌跡と、現在とを綴る。

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山野海 女優、劇作家、脚本家

1965年生まれ。東京新橋で生まれ育ち、映画女優の祖母の勧めで児童劇団に入り、4歳から子役として活動。19歳で小劇場の世界へ。1999年、劇団ふくふくやを立ち上げ、全公演に出演。作家「竹田新」としてふくふくや全作品の脚本を手がける。好評の書き下ろし脚本『最高のおもてなし!』『向こうの果て』は小説としても書籍化(ともに幻冬舎)。

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