若者たちの間で広がる「タイパ」という価値観について、わかりやすく論じた話題のロングセラー『タイパの経済学』。膨大な情報をもとに書かれた本書は、どのようにして生まれたのでしょうか? 本書の著者で、ニッセイ基礎研究所研究員の廣瀬涼さんに、ご自身がふだんから実践しているインプット/アウトプットのコツを教えていただきました。
* * *
「言語化」することで理解が深まる
──廣瀬さんのご専門について、簡単に教えてください。
私の専門は、現代消費文化論です。世の中にあるさまざまな事象を、消費という視点から読み解く研究です。
代表的な研究で言うと、私の名前で調べてすぐに出てくるのが「タピオカ」です。あとは、ここ数年で流行った「ぴえん」という言葉についての研究も、たぶん私の名前が最初に出てくると思います。
若者たちの間でどうしてそれが流行っているのか、今流行りの言葉で言えば「言語化」するのが、私の仕事かなと思っています。
──情報収集が重要になると思うのですが、ふだんインプットはどのようにしているのでしょうか。
大学院時代に学んだ、社会学の影響を強く受けている面があります。私の研究のほとんどには、社会学、とくに消費の研究が活かされていますし、古典的な社会学から世の中の事象を見ていたりもします。
また、インタビューを通して、若者たちが実際にどのように考えているのかを聞き出すことも大事だと考えています。
一方で、私は「SNS漬け」の生活を送っていて、つねにSNSから情報を浴びています。それこそ、1日16時間くらいSNSを見ている日もあるくらいです。
仕事をしているときも、つねにモニターにコンテンツを流していますし、寝ているときもYoutubeやNetflixをずっと流しています。それくらい、コンテンツを24時間、浴び続けているんです。
研究領域にも「現代」という言葉がついていますが、つねに新しいものを追いかけていて、それが自分にとっての楽しさでもあります。
みなさんに当てはめるなら、自分の気になることや興味のあることを深掘りすること、そして言語化することがすごく大事だと思います。
『タイパの経済学』を書いたときも、ふだん会社でレポートを書くときも、自分の母親が読んでわかるレベル感で書くことを意識しています。誰が読んでもわかるような文章にすることで、自分の理解にもつながるからです。
これは営業だろうが、企画だろうが、いろんな業務で使えると思います。自分が売りたいもの、企画したいものを、どれだけ自分で理解しているか。それってすごく大事なことだと思うんです。
理解度を深めるには、言語化することが重要です。そして、言語化するためには情報が必要です。それは本かもしれないし、論文かもしれません。
いずれにしても、自分にとって大事なものを説明するために情報を得ることが、もっとも大事かなと思います。
本は積んでおいて一気に処理する
──廣瀬さんの読書法についても教えてもらえますか。
本を執筆するときは、まず「これくらいまでには書き始めたいな」という時期を決めます。そして、その時期が来るまでに、気になった本は片っ端から買うようにしています。今も新しい本を書いているのですが、そのために40~50冊の本を買いました。
買った本はとりあえず積んでおいて、書き始める1週間くらい前に一気にインプットします。一気に読む、一気に処理する。それが、僕の読書法といえると思います。
──他に、何か工夫していることはありますか?
メモを取ることも大事だと思っています。携帯のメモとは別に、忘れたら困るなというものに関しては、紙にも書くようにしています。アイデアが逃げてしまうのが、一番怖いですから。
研究者の方たちと飲むことがよくあるのですが、そのときの会話から気づきを得ることもあります。すぐにメモしたくなるのですが、飲んでいるときに携帯をいじっていると、ちょっと失礼な感じがしますよね。
なので、「それ、いいですね。ちょっとメモ取ろうかな」と大きめの声で言ったり(笑)、あるいは、事前に「メモって取ったりしますよね」と聞いたりして、心証が悪くならないように心がけています。
──最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。
『タイパの経済学』は、僕にとってすごく大事な本です。本屋さんの売り場に並んでいるのを見て、涙が出てしまったくらい嬉しかったんです。それくらい、愛情をこめて書きました。
先ほどお伝えしたように、誰が読んでも理解できるという点を心がけたので、専門的な部分にはあえて触れていません。なので、研究書としては読みごたえがないという声があったのも確かです。
その一方で、「私たちが日々、感じていることををうまく言語化してくれて、すごく気持ちがよかった」といった温かい言葉もたくさんいただきました。
「自分の消費行動って、ふだんこういう感じなのかな」とか、「自分の消費について肯定してもらった」という感想をいただくこともありました。評価がきれいに分かれるので、それはそれで面白いなと感じています。
『タイパの経済学』は、みなさんの身近な消費について、言語化につとめた本です。ご自身の経験と照らし合わせながら、楽しんで読んでもらえたら幸いです。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】廣瀬涼と語る「『タイパの経済学』から学ぶ関係的価値と交流的価値」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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