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人生の勝者は捨てている

2025.01.07 公開 ポスト

数多の人を救ってきた心理学者が教える“幸せの感じ方”と“不満の原因”加藤諦三(社会心理学者)

「テレフォン人生相談」の回答者として活躍されていた、加藤諦三さんの新刊『人生の勝者は捨てている』が好評発売中です。本書から一部を再編集してご紹介します。

*   *   *

心の成長があれば、どこにいても幸せを感じられる

消費社会の幸せとは、それ以前の時代が言う意味での幸せではない。

日常生活の虚しさを紛らわすためのお金。現実の虚しさを埋めるための名誉。
そしてさらに恐ろしいのは、消費社会のある水準に達していない人を不幸に追いやる傾向である。
自分は何も不自由はないのに、消費社会だからこそすべての人が不満になる。

消費社会の中でブランド品を持って幸せになろうとする人は、水に手を入れて水をつかもうとしているような人である。水に映った逆さ富士は美しいけれどつかめない。

なじみの「おそば屋さん」をつくりなさい。
美味しいなー。
その体感が幸せ。

高級料理を食べなくていい。高級なワイン、豪華なステーキはいらない。
ふれあいがあれば、大根下ろしでサンマを食べて心が癒される。

肉ジャガを食べて安らぎが得られる。
これが心の夕餉。

心の成長があれば、どこにいても幸せを感じることができる。

ひなたぼっこをする、昼寝をしよう。
お風呂に入る。
ゆっくりと深呼吸をしよう。
幸せは体感。

「足るを知る」人は、当たり前のことに感謝する

金融界の成功者たちは、実は心の底のそのまた底では愛を求めている。
無意識の領域での愛情飢餓感から、大富豪が時々道に迷った言葉を言う。

あるお金持ちが言ったという「女の心はお金で買える」という言葉は、何を意味するか。
実は心の底での愛を求めた叫びの言葉なのである。無意識ではお金ではなく愛を求めている。意識下では「女の心はお金で買える」と言うが、無意識では逆である。

自己喪失していない女性の心は、ダイヤモンドも、すごい高級車も、大きな別荘もいらない。
実は富を誇示している人たちが、最も愛情飢餓感に悩んでいる人たちなのである。

消費社会でお金持ちになりたいと思う人は、本当の幸せを知らない人。

人は満足するとやさしい気持ちになる。だから欲張りにはやさしさがないのである。
あっちにもこっちにも手を出す欲張りは何も手に入らない。本当に好きなものがない。
欲張りな人は、自分自身のためのエネルギーがない。

「足るを知る」人は、当たり前のことに感謝をする。

幸せにとって大切なのは、欲張りであるか否か

いつも悩んでいる人は、なぜそうなったか? あまりにも欲張りで、すべての悩みがなくなるような力を求めたからである。人間に生まれてすべての悩みがなくなるようなことはない。
彼らは自己実現を忘れて、欲張りで、突っ張って、「今ここにある」幸せを感じることができない。

「今日一日風邪を引かなかった」という、今ここにある満足が持てない人は、もし大きな成功をしても満足しない。もっと大きな成功が欲しくなる。
いろいろと恵まれていても「もっと恵まれた環境、もっと恵まれた環境」ときりがないほど望む人がいる。

すべて自分にとってよくなければ気が済まない。全部がよくなければ、気が済まない。陽が当たらないのが我慢できない。

私はこれを神経症的欲張りと言っている。すべての悩みがなくなることを求めている人である。不幸を受け入れられない人である。
神経症的欲張りとは強迫的になっている人のことである。欲張りになるまいと思っても、欲張りにならないではいられない。

「もっと、もっと」と思うまいと思っても、「もっと、もっと」欲しい。
そうした欲張りな人は悲観主義者になる。どんなに色々な面白いことができても、それで満足しない。

意識下では「もっと、もっと」欲しいが、無意識にあるのは虚無感である。
もし「本当の自分」に気がつき、つまり無意識の虚無感に気がつき、それを認めれば、その人は変わる。

つまり幸せにとって大切なのは、客観的に何かを持っているか、持っていないかではなく、欲張りなパーソナリティーであるか、欲張りではないパーソナリティーかである。

欲張りならコップに半分水がなければ、半分ないと不満になる。欲張りでなければ、半分もあると満足する。
欲張りなパーソナリティーは「あれも、これも」である。周囲の人から見れば、その要求はあまりにも欲張りでしかない。しかし本人から見れば、その要求が通らなければ不公平に扱われているのである。「私は被害を受けた」のである。

人生において、悩まなくてすむようになれる魔法はない

カレン・ホルナイは自分に対する怒りは主に3つの方法で外化されるという(*1)。

先ずイライラ。次に増大する従順と怯え。最後に身体の不調である。

カレン・ホルナイはこれらの症状は自分に対する怒りを意識できると消えるという。
しかしこの疾患を心理的な原因にしないで、外部のことに原因を求める人が多い。

よく悩んでいる人は、「あの本を読んだが、解決策が書いていない」という。
そういう人は、自分を意識することを拒否して、悩んでいる症状が消えることを求めている人である。

「どうしたらよいか、解決策が書いていない」と著作を批判する人もいる。
人生に、悩まない方法があると思うこと自体が神経症者の証拠である。

神経症者は人生に魔法の杖を要求している。しかし魔法の杖をくれるのはカルト集団や政治的過激集団等だけである。
魔法の杖を求める人は、現実を認めないで、解決する方法を教えろといっている。そんなことを教えられるのはまともな人たちにはいない。

苦しまないで救済を求める気持ちはわかるが、それはスポーツで練習をしないで上達を求めるようなものである。
自分が防衛的価値観、防衛的態度では、人生の問題の解決はできない。解決があるように見えても、それは神経症的解決でしかない。
防衛的態度を改めようとしないで、よく「この本には解決策が書いていない」という。

そういう人は、成長を拒否している。成長を拒否して救われることを求めても無理である。
解決策が書いていないという人は、勇気がなくても生きられる方法を求めている。そんな方法はない。

自分の偉大さを見せつけようとしている限り、不満は尽きない

政治的に極端な態度と自我防衛の関連を示している論文もある(*2)。
この論文は同時に自我防衛は、有害な薬物やアルコールの問題とも関連すると書いている。

現実に直面しないで、自我防衛しようとする時に薬物やアルコールに頼るようになるのは自然の流れであろう。

現実は、必ずしも人間の本能の要求を満たすものではない。
現実は、必ずしも私たちの存在を肯定してくれるものではない。あなたは生きる価値があるというように自分の存在を肯定してくれるものではない。

そこで現実を否認することで、自分の価値を守ろうとする。

他人のために水を運んでいるのに、それを他人に認めてもらえない悔しさ、苦しみ。
自我の確認を他人の承認に頼っている以上、不満の解決策はない。

子どもを助けるため、自分の体力で頑張って水を運ぶようになれば、悔しさ、苦しみはない。

いつも心理的に他人に依存している人は、たとえ世界中どこにいても、何をしていても、生きるのは辛い。

自分の偉大さを人に見せようとしている限り、自分が自分の偉大さに気がつくことはない
人に見せるためではない仕事を始めた時、人は自分の偉大さに気がつく。

註)
*1 Karen Horney, Our Inner Conflicts, W. W. Norton & Company, 1945, p.120.
*2 Hope R. Conte and Robert Plutchik, Ego Defenses, John Wiley, 1995, p.19.

関連書籍

加藤諦三『人生の勝者は捨てている』

「会社」「家族」「人間関係」……イヤなものは捨てていい 笑顔・自信・真の友、「捨てる」だけで、こんなに幸せが増える 健康で幸せに生きるたった一つの方法は「捨てる」こと。人生の真の勝者とは、地位や名誉を得た人ではなく、際限なき欲望や世間体、嫌いな人とのかかわりを捨てられた人である。それができれば、笑顔が増えて自信もつき、人生は好転していく。本書では、「やりたいことの優先順位をつける」「自分の心のうちを紙にどんどん書いてみる」など、捨てられない人のための具体的な心の整理法を紹介する。「他人よりも先に自分が幸せになるための努力をしなさい」をはじめ、著者の厳しくも優しい助言があふれる救済の書

加藤諦三『「人生、こんなはずじゃなかった」の嘆き』

自分の人生はもっと幸せなはずだったのに、と嘆く老人は多い。最後に「我が人生に悔いなし」と言えるかどうかは、どれだけの社会的成功を手にしたかで決まるのではない。勝ち組人生を送ってきた人でも、いつまでも自分が「すごい人間だ」と思い込んでいたら「裸の王様」になって孤立し、不満と後悔のうちに死んでいくことになる。人生を最後まで生き抜くのは大変な難事である。普通の暮らしに感謝する。他者との比較をやめ、執着しない――。人生の見方を変え、老いを輝かせて幸福を引き寄せる、高齢者とその家族必読の書。

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人生の勝者は捨てている

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加藤諦三 社会心理学者

1938年、東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修了。元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員。早稲田大学名誉教授。ニッポン放送「テレフォン人生相談」のパーソナリティを半世紀以上にわたり務めている。『「人生、こんなはずじゃなかった」の嘆き』『他人と比較しないだけで幸せになれる』(ともに幻冬舎新書)のほか、著書多数。

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