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人生の勝者は捨てている

2025.01.02 公開 ポスト

加藤諦三流"心の整理法"と"不安の解消法"加藤諦三(社会心理学者)

「テレフォン人生相談」の回答者として活躍されていた、加藤諦三さんの新刊『人生の勝者は捨てている』が好評発売中です。本書から一部を再編集してご紹介します。

*   *   *

まず、気がついたことを書くことが不安解消の第一歩

毎日が何となく不安である。その上、すべてが億劫。

「自分がこうして億劫でも、誰も助けてくれないんだな、こういう時には誰も本気で自分を助けてくれないんだな」

先ずそこに気がつくことである。

だから「こうして死んでいく前に、ただこうしているのなら、自分の心に抱えていることを書こう」と決心する。
大きなことを書くのでなくてよい。完全な文章を書くのでなくてよい。
自分は何か心に問題を抱えているのだから、その抱えていることを書いてみよう。そういう心の姿勢でよい。

食事がしたくない、「誰かが食事を運んでくれれば食べたのになあ」と書くのでよい。
やっぱり自分は食べたいのだとか、誰かを求めているのだとか。そういうことを書くのでよい。
誰かを求めているのだとか、誰に作ってもらいたいとか。

「梅干しを食べてみたい」と思えば、生きるエネルギーがまだある。
何で梅干しが食べたいと思ったのかも考えてみる。もしかすると、その時には気がついていないかもしれないが、昔梅干しを食べた時に一緒にいた人と心がふれあっていたのかもしれない。

書くのは毎日でなくていい。今日、思った時に、思ったことを書いてみる。

そうしているうちに「悩みの原点」がわかってくる。
ちょっとしたメモ。それで「あーこういうことだったんだ」とわかる。
そうしていれば、ふとした時に自分がわかる。

「どのノートに書こうか」などと思わない。日記にしない。思ったことをそのまんま書く。はっとしたら書く。
「ノートに書きましょう」ではなく、メモでいい。日記にすると書くことが辛くなる。

そうして書いていると「へー、人間が10日でこんなに変わるものか」と気がつくかもしれない。
これをみると「私は結構頑張っている」、そんな風に思えることがあるかもしれない。

自分の気持ちがだらだらしていると、だらだらしてしまっていると思うが、結構よく頑張っていることもある

書き出すことで心に変化が生じる

今の人間関係についても書いてみる。

この人とはどんなことがあっても、別れよう、そう思ったらそう書く。
「この人とは10年先にはどうなっているのかな?」と思ったらそう書く。
この部長とは今は付き合うけれども、部長が「定年退職」してからは、付き合わない。

これらを「神に誓う」と書く。

嫌なことを書いたら「これは、10年頑張ればいいのだ、10年経てばなくなっている」とか書いてみる。
書いた方がすっきりする。

100年経てばみんな死んでいる。

朝起きてもだらだらしている。
朝8時半に起きる。ジュースを飲む。

味が全くない。「10時頃、外出の支度をしよう」と思う。でも「今は何もしなくていいか」と思う。支度しない。
渋谷に行く。歩くことが大事だけれども車を使う。「ヤダなー」と思う。

しかし自分を責めない。
「2時半に渋谷を出る」
そんなどうでもよいことを書くのでよい。

仕事の準備、全くしたくない。
時間を潰しているだけ。それを書く。

それでよい。
書いていることで、心の中に何か変化が起きている。

過去の問題を消化する

『Writing Cure』という本がある。書くことによる治療について色々と書かれている本である(*1)。
書くという行為がカウンセリングやセラピーにもたらす効用について、治療者と被治療者の両方の立場から総合的に解説する学術書である。要するに筆記療法である。

その序章に次のような話を、イアン・マクミランという人が書いている。

以前、子どもと学校に行く途中で牛乳配達人が落としていった買い物メモを拾った。
「パン一斤。いや、やっぱり二つ(One loaf. PS, make it two)」。
この時に書くことで気分がよくなれるということに、筆者は気がついたという。

牛乳配達人はそのメモを落としたのか、捨てていったのかわからない。おそらく捨てていったのだろう。つまり書いたことで、気分が晴れて捨てていった。

何かを「こうしよう」と思う。そう思って書いたけど、やっぱり「ああしよう」と思う。
こう書いて心の整理ができたのである。迷っていることを、迷っているままに書けばよいのだ。

心を整理しようとして書くのではない。書くことで整理ができる。
書くことがその人に力を与えるのである。だから書くことは人に見せる文学作品ではない。

今自分が書いているということの目的をしっかりと意識することである。書いているうちに自分が自分に頼る力を得られるようになるかもしれない。
心の整理をしようと目的にしなくても、書いているうちに自己認識ができるかもしれない。

私も色々な手紙をもらう。次のような手紙をもらうことがある。

「書いてきて、不思議に気持ちが落ち着きました。不思議に書くにつれて落ち着いてきました」

不安を解消するには、時間をかけて好きなものを探すとよい

今日一日、自分の中で気になったことを消化しよう。
うつ病は、気になることを解決しないで、それを積み重ねてきた。
それが続いたので今は何とかいいが、明日が心配である。

何となく不安になる。理由がわからないままに不安が酷くなる。
この不安な感情は何だろう? そう考え、そう書いてみる。

別に、別に、別に。
そう言っても、解決していない。
気づいてみれば、自分の苛立ち。
なぜか?
そう考えてみる。

それは自分だけのスケジュールがないから。解決を焦っているから。安易に今、解決しようとするからその場だけの解決に走る。

だからこれからは時間をかける。

今までは逃げてきた。問題を解決しないで、そこから目を背けて生きてきた。だから訳もなく焦っているのである。
焦るまいと思っても焦る。それは何か重大な感情から目を背けているからである。

不安のくすぶったところにいたら、「永遠に不安なんだなー」、そう気がつくかもしれない。
不安のくすぶったところ、それはどこ?

あの時代、それとも別の時代、○○の時代は?
あの人、それとも別の人?

そしてその人から逃げた。
不安のくすぶったところを出て、別のところに来た。それでその時はよかった。

しかしまた、不安に悩まされている。

環境を変えてもなぜか不安というのは、その人の心が問題だから。
それは好きなものがないから。心に葛藤があるから。
だから時間をかけて好きなものを探す。心の葛藤に直面する。

どうしても好きなものが見つからない時には、心の何に原因があるかを考える
無意識の憎しみに自分が支配されている。無意識の劣等感に自分が支配されている。
自分の症状を分析する中で、自分が見えてくる。

何事も一気にしようとしないことが大切

今いる環境が、チクチクするなら環境を変える。

今いる環境が、本来自分がいるのに適した環境と違っているから、理由がないのにイライラする。
人間関係を変える。職場に行く道を変えてみる。昼飯に行く場所を変えてみる。

そして「何で変えているのか?」を常に意識しておくことである。「何のために」と意識する。

何事もすぐにしようとするから無理が出る。
時間をかけて徐々に変えていく。
整理してみる。

一日1冊本を捨てていく。それは生きる方向性を変えることに通じている

うつ病になるような人は、一気に部屋を整理しようとする。
苦しいからすぐに変えようとする。

とにかく「徐々に」でよいから人間関係を変えてみる。真っ向から反対の人とも接してみる。
もし「あれ?」と思ったら、今の人間関係に問題がある。

今、自分は「生きるか死ぬか」の瀬戸際にいる、それを意識すれば人間環境を変えられる。

註)
*1 Gillie Bolton, Stephanie Howlett, Colin Lago and Jeannie K. Wright, Writing Cures, Routledge, 2004.

関連書籍

加藤諦三『人生の勝者は捨てている』

「会社」「家族」「人間関係」……イヤなものは捨てていい 笑顔・自信・真の友、「捨てる」だけで、こんなに幸せが増える 健康で幸せに生きるたった一つの方法は「捨てる」こと。人生の真の勝者とは、地位や名誉を得た人ではなく、際限なき欲望や世間体、嫌いな人とのかかわりを捨てられた人である。それができれば、笑顔が増えて自信もつき、人生は好転していく。本書では、「やりたいことの優先順位をつける」「自分の心のうちを紙にどんどん書いてみる」など、捨てられない人のための具体的な心の整理法を紹介する。「他人よりも先に自分が幸せになるための努力をしなさい」をはじめ、著者の厳しくも優しい助言があふれる救済の書

加藤諦三『「人生、こんなはずじゃなかった」の嘆き』

自分の人生はもっと幸せなはずだったのに、と嘆く老人は多い。最後に「我が人生に悔いなし」と言えるかどうかは、どれだけの社会的成功を手にしたかで決まるのではない。勝ち組人生を送ってきた人でも、いつまでも自分が「すごい人間だ」と思い込んでいたら「裸の王様」になって孤立し、不満と後悔のうちに死んでいくことになる。人生を最後まで生き抜くのは大変な難事である。普通の暮らしに感謝する。他者との比較をやめ、執着しない――。人生の見方を変え、老いを輝かせて幸福を引き寄せる、高齢者とその家族必読の書。

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人生の勝者は捨てている

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加藤諦三 社会心理学者

1938年、東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修了。元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員。早稲田大学名誉教授。ニッポン放送「テレフォン人生相談」のパーソナリティを半世紀以上にわたり務めている。『「人生、こんなはずじゃなかった」の嘆き』『他人と比較しないだけで幸せになれる』(ともに幻冬舎新書)のほか、著書多数。

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