誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽をモチーフに、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに言葉を綴っていただきます。
誰かが無造作に決めたタイムゾーン、ルールは前例のミルフィーユで、退屈寄りの違和感だとか
時間はゆっくりと流れるらしいけれど、明確だった意志や希望は振り返れば跡形もなく、虚しく柔らかい
時には僕が君の青春の思い出に寄り添って、過ごしたこともない黄金期の感触の片鱗を共に感じたり
寝物語や枕越しのうわ言で呟き続けた記憶の数々を、昨夜は少しだけ実写で再生出来たのかな
90年代の渋谷は排気ガスで汚れながらも、空気は凛と張り詰めていた気がして
電波や過剰な情報が僕の目を濁らせたのか、それとも歳をとりすぎただけなのか、答えは多分些細なこと
あの頃は滴る汗も拭わずでも爽やかでいられて、体力は無限に湧き上がるのに心だけは不安定
昼夜逆転の生活は追いかけてくる太陽に世間を映すかのように、あらゆる規制の網の目を抜けて隠れ続けた
地下のフロアで時にモグラみたいにうずくまったり、無機質なビートとメランコリックなピアノの音色に心ごと捕まって、ひたすら朝が遠ざかることを祈りながら肉体の可能性を震わせたりして
もう一度戻りたいようで、二度とは帰りたくない日々、いまを肯定して生きるなんて、あの日の僕が聞いたら大きな声で嘲笑うのだろう
カオスだとか末期的とか、あらゆるネガティブな言葉たちをアクセサリーにして、闇に溺れるのも心地よい
リズムとベースの隙間、奈落の底に差し込む一瞬の光の美しさ、魅力と神々しさは一生忘れることはない
あの光の断片をたずさえながら、かつて七色だった世界を漆黒に塗りつぶした時代を君と生きてゆく
失われた躍動の奴隷だった僕の誇らしい古傷を、君は愛おしく口づけて二人だけで踊り続けるから
MISIA『The Glory Day』(1998年、アリスタジャパン)収録
渋谷で君を待つ間に
誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。
- バックナンバー
-
- あの光の断片をたずさえながら - MIS...
- ゆっくりと二人の境目が薄らいで - 坂本...
- 遠回りをしても、近道を選んでも - 藤井...
- ただ言葉を紡いでいたい - カルメン・マ...
- 純真無垢なあの感触を抱けることを想像して...
- ゾンビを何度も生き返らせて - Chap...
- 心だけは処女航海のイメージで - Suc...
- それでも新しく生まれ変わるのならば - ...
- 僕はイニシャルの導きだけを頼りに - M...
- 目も眩みそうな優しさに魅了されて - H...
- 都会でしか生きられないと思い込んでいた僕...
- 車窓から眺める朝焼けは東京を美しく照らし...
- 眠っている宝物を見つけ出すまでは - サ...
- あるはずのない楽園を追い求めるばかりに ...
- 出来ることなら永遠に美しく未完成のままで...
- 長く暮らしたこの街を離れる君に - 玉置...
- 少しも傷つかずにぼんやりと、平常心で居ら...
- ラッキーはスイートだけど時に苦い - I...
- 積み重なる経験値は幻のように - 山田タ...
- 未だ見ぬ“向こう側”へと繋がるイメージで...
- もっと見る