体力も気力も70代とは全然違う「80歳」の壁。その壁をラクして超えて、寿命をのばす――その秘訣がつまった『80歳の壁』は、2022年の年間ベストセラーにもなりました。そんな「壁シリーズ」の最新刊『女80歳の壁』が出版されました。
「夫の世話・介護からくるストレスや負荷」「骨粗しょう症による骨折で歩けなくなる」など、ぶ厚い障害を乗り超え、高齢期を楽しみ尽くすための生活習慣を詳細に解説した一冊。本書から、一部をご紹介します。
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大往生 スタートラインは 60代
前項の‟人間の医療と尊厳”の問題は、そのまま大往生にもつながります。
大往生も終末期医療も、死ぬ間際の話ではなく、60代ぐらいから始まっていると思うからです。「今後はどう生きるか」を選択するのが60代だと思うのです。
寿命は多少短くなるかもしれないが、我慢をせず、納得しながら生きるか?
寿命は少し延びるかもしれないが、あれこれ我慢しながら生きるか?
“腹をくくる”という言い方がしっくりくるかもしれませんね。
60代で腹をくくる――。
早い人なら40代、50代で腹をくくってもいいかもしれません。70代なら迷わず、80代ならさっさと腹をくくるべきです。
と言われても、自分の命に関わることなので、容易には決断できませんよね。
なので、長年、高齢者医療に携わった者からのアドバイスを記しておきます。
例えば、40~50代の場合、「医者の言うことを聞いても、確率的にわずかに長生きできるかもしれない」という程度です。よくて4~5年の違いでしょう。でもこの年代は子供のいる人も多いので「医師の指示に従う」という選択をしがちです。私も、子供が成人するまでは元気に働くのが親の責任、と思っていましたから。いまでは娘たちも結婚し、お役御免になったので、好きに生きています(笑)。
60代は、「医療的なケア」より「精神的な安定」のほうが、長生きの確率は高くなると思います。我慢してストレス状態で生きるより、やりたいことをして好きに生きたほうが病気になりにくい。病気になっても治りやすいのです。
70~80代は、医者の言うことを聞いても、寿命は変わりません。よくても数か月から1~2年の違いでしょう。でも、この間に元気でいられる保証はありません。病院のベッドに寝たきり、ということもあり得るわけです。
長生きは ‟正しい”よりも 楽しいを
前にもお話ししましたが、日本は「がんで死ぬ国」です。
がんを撃退するには、免疫力を上げなければなりません。それなのに、わざわざ免疫力を下げるような暮らしをしているのです。
肉はダメ、塩分はダメ、お酒もたばこもダメ、と楽しみが奪われたら、免疫力は落ちるばかり。結果的に、がんになりやすい体になってしまいます。
肉食も、味の濃い食事も、お酒もたばこも、心臓病のリスクを上げる、という“負の一面”があります。でも、全面的に悪いわけではありません。幸福感を高めて免疫力を上げるという“正の一面”もあるのです。
つまり、どちらを選択しながら生きるのか、という問題です。
極端に言えば、「医者の指示を聞いてがんで死ぬ」か、「好きに生きて心臓病で死ぬ」か、という問題でもあるのです。
あるいは、「医者の言うことを聞いて、わずかに長生きする」か、「好きに生きて、わずかに早死にする」か、ということでもあります。
本当にそうなるかは、わかりません。なぜなら、日本では、大規模比較調査をしたことがないからです。「かもしれない」というレベルの話でしかないのです。
医者は正しいことを言う、と思うのは早計です。もちろん、あえてウソを言ってるわけでもありません。ただ"不完全な情報”を信じて医療を行っているにすぎないのです。それは心に留めておいていいと思います。
どちらを選ぶにしても、不完全な情報しかないのですから、自分で決めるしかありません。言い方は悪いですが‟一か八か”です。
それなら「好きに生きるほうがいいのでは?」というのが私の提案です。私が正しいとは言いません。ただ、私の話に分があるとするなら、高齢者医療の現場に35年もいることでしょう。経験上から言うと、節制してしょぼくれて生きている人より、好きに生きている人のほうが、元気に長生きしているのです。
死の瞬間 苦しくはない 安らかだ
日本人ほど‟健康オタク”の多い国は、世界にも例がありません。「死」から目を背けているため、死をひどく恐れてしまっているからだと思います。
そこでひとつ、死について、知っておいてほしいことがあります。
それは、死ぬ瞬間は苦しくない、ということです。
人間は、最期の段階になると意識が低下して、眠りに落ちるように死んでいきます。意識がないので、痛くも苦しくもないのです。
がんの人が、苦痛に顔をゆがめて死んでいく、という話をきいたことがあるでしょう。たしかに、痛くて苦しいがんもあります。がんのできた場所が悪く、神経に触れていたりすると痛いし、気道を押していたりすると苦しくなります。
しかし、すべてのがんが、痛くて苦しいわけではありません。
そして、痛みは和らげることができます。例えば、医療用のモルヒネを使うことで痛みはほぼ感じなくなります。量を増やすことが可能なので、痛みが強い場合も大丈夫です。また、ブロック注射も痛みには有効です。
私の勤めていた高齢者専門の浴風会病院では、亡くなった方を年間100例くらい解剖させていただいていました。すると、85歳以上の方のほぼ全員にがんが見つかります。ですが、生前に「自分ががんだ」と知っていた人は、その3分の1ほどです。残りの3分の2は、がんを患っていることを知らずに亡くなっていくわけです。
つまり、痛みや苦しさを知らずに死んでいくのです。
まさに「知らぬが仏」ですよね。がんとわかってしまったら、ただ苦しむだけの治療を受けることになっていたかもしれません。もちろん「治療は受けない」と選択すれば、その必要はありません。
でも「受けるべきか、受けないべきか」と迷いが生じますし、受けない選択をしても痛みや苦しさがでたら「ああ、やっぱり受けたほうがよかった」と後悔が生まれます。なので、知らずに死んでいけるなら、それが最高だと思います。
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