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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2025.02.12 公開 ポスト

『オタクの断捨離』で学んだ「推しグッズは捨てなくてもいいがゴミは捨てた方がいい」カレー沢薫

現代人のスマホ依存が深刻化し、成人の約半分が1日にスマホを3時間以上見ているらしい。

それを「深刻か?」と感じている時点でかなり深刻だとは思うのだが、実際私のスマホ使用時間は1日「13時間」なので、私のスマホ時間の切り落とし部分程度の使用時間で依存などと言われても困る。

 

しかし、1日が24時間だと仮定すると、内睡眠8時間でスマホを13時間も使えているのはなかなかのものなのではないか。

ついに自分が覇権を取れるジャンルを見つけたと思い、ウマ娘6時間、X5時間、その他2時間のスクショと共に「対戦相手」を募集したところ、普通に何人か挑みかかってきたので、やはりこの国のスマホ依存は深刻だし、なぜか時間が長い方が格上と思っている点も終わっている。

しかし対戦者たちは、休みの日などの特別使いすぎた日を提示しているのに対し私は「週平均13時間」であることはちゃんと主張しておきたい。

睡眠を8時間取るという時点で1日の時間をこれ以上伸ばすのは難しい、しかし陸上だって短距離もあれば長距離もある、私は「平均の部」で戦っていきたいと思う。

しかしアスリートに故障がつきものなように、スマホという競技も頂上を目指すとなれば代償は大きく、私のように日常生活がままならなくなっている者も多い。

料理の道具で何故か人を刺してみたりと、我々人間は生活を便利にするために作られた物で生活を破綻させがちなところがあるし、米や麦芽を発酵させた愉快な飲み物を飲みすぎて大変なことになったりと、度が過ぎると愉快だったことが愉快じゃなくなるどころか新たな問題を発生させがちなところがある。

人は水を飲まないと死ぬが、飲みすぎたり給水車で轢くと死ぬ。

同じようにストレス解消手段の一つであったはずの推し活ものめり込みすぎて疲れが生じ却ってストレスになってしまったという話もある。

しかし、食というジャンルを追求したことでデブという問題が生じ、それを解決する「ダイエット」という新たなドル箱ジャンルが生まれているのだ。

推し活も隆盛を極め、最近では推し活によって生じた問題を解決するジャンルも増えつつあるような気がするし、私も関わることがあった。

そんなわけで先日『オタクの断捨離』という本を出した。

私のように「JPEGより重いグッズは持たない」という信念で活動しているオタクは少数派であり、推しができれば推しの関連グッズを持ちたいし、集めたいというのが人情である。

また企業側も推し活ブームにより推し活は金になるし、人気者が印刷されたアクリル片が無限に売れるということに気づいてしまったため、グッズ類を際限なく作るようになってきた。

その結果、物が増えすぎて物理的に居心地が悪くなりつつあるオタクの家を断捨離しようというテーマだ。

もちろん私が断捨離させる訳ではない、そもそも私が断捨離の本を出すというのは、童貞が48手解説本を出すよりも怒られる。

断捨離の第一人者である先生主導の本であり、バランスを取るために片付けない界の重鎮である私が帯同しているという構成だ。

先生曰く、断捨離の目的は整理整頓ではなく、片付けることにより快適でご機嫌な生活を手に入れることだそうだ。

しかし、そもそもオタクは自分の部屋と生活をご機嫌にしたくて推しのグッズ大量に買って並べているのだ。

つまりオタクと断捨離の相性は最高に悪い、企画の段階で詰んでいると言っても過言ではない。

推し活への情熱がなくなった、または推しがお野菜やスプリングを買って活動休止になったなど、諸般の理由で推し卒してグッズも処分したいというならわかるのだが、出てくるのは大体現役のオタクである。

こんな奴らに大事な推しの物を捨てさせることができるのか。

結論から言うとガチで全く捨てない奴もいるし「さらに増やそう」という結論に至った奴さえいる。

断捨離本としては、本当に契約満了で離婚する契約結婚恋愛漫画ぐらいあってはならない展開だが、これはオタクの断捨離なのだ。

そもそも異なる信念のぶつかり合いである、断捨離の方を倒したって全然いいのである。

ただし、追加取材をしてみると、先生の助言を再考し、自らの意思で整理を始めたオタクも結構多いのである。

実際私も本を描いている最中は全く自分の部屋を片付ける気はなく、最後まで「何故俺が呼ばれたのか」という疑問が拭えなかったし「何故こいつがいるのか」と思われていただろう。

物の置き場以前に自分の身の置き場がなかったが、前にも書いた通り家に子猫がやってきていなくなったのを契機に掃除を始め、明日死ぬ人間のように部屋が片付いた。

やはり断捨離とはまず心の問題なのだ、まず自分が片付けることに必要性を感じ「納得」していなければやる気も起きないし、納得もしてないのに物だけ捨てたら、おそらく後で後悔するだろう。

整理整頓のテクニックを紹介する本ではないし、むしろさらに増やす気になってしまうかもしれないが、グッズ類の処遇について考える一助にはなるのではないと思う。

ちなみに私が部屋を片付けた時に捨てたのは99%ゴミである。

推しのグッズは無理に捨てることはない、ただゴミは捨てた方がいい、それだけは言える。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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