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日銀の限界

2025.02.23 公開 ポスト

騒音、ポイ捨て…円安で増えた「質の悪い旅行者」対策に「観光税」の導入を!野口悠紀雄

なぜ日本銀行は異常な円安を止められなかったのか? その結果、日本経済と国民生活にどのような影響をもたらしたのか? 経済学者の野口悠紀雄さんが、日本経済の抱える根本的な課題に迫る幻冬舎新書『日銀の限界』より、一部を抜粋してお届けします。

外国人旅行者の利用増加で、公共サービスがパンク

オーバーツーリズム問題は深刻だ。

静かな住宅地で夜中まで飲酒して騒ぐ、個人の敷地に無断で入り込む、写真を撮ろうと信号を無視して道路に出る、街を歩く女性にしつこく絡む、等々。これまで無名だった場所が、SNSで紹介されたことから突如として世界的に有名な観光地になってしまい、住民の日常生活が乱されて、厳しい対策を取らざるを得なくなった例もある。

こうした被害を受けている方々は、まったくお気の毒だ。

以下では、オーバーツーリズム問題のうち、外国人旅行客による公共サービスや施設の過剰利用、不適切利用という問題を取り上げたい。

京都など外国人旅行客が集中する観光地では、道路は混んで、地元の人はバスにもタクシーにも乗れず、通勤や買い物などの移動に支障をきたしているという。

ゴミの不法投棄(ポイ捨て)も増えるので、処理が大変だ。地方自治体のゴミ処理費用も増える。

これまで地域住民の利用を想定して作られていた公共サービスが、外国人旅行者の利用増加によってパンクしているのだ。

トイレの不適切利用に、コンビニエンスストアが悲鳴

観光地のトイレの問題も深刻だ。JR鎌倉駅近くのコンビニエンスストアでは、トイレ待ちの行列が店外まで伸び、買い物客の入店を妨げることもあるという(朝日新聞「コンビニはトイレを貸すべき? 観光地・鎌倉でマナー違反続き利用制限」2024年7月18日)。

利用者が増えているだけでなく、マナーも極めて悪い。使い捨てカイロやカップ酒のプラスチック製のふたがトイレに流されることも度々という。

便器が詰まるたびに修理を余儀なくされ、清掃に追われて、店員が他の業務に手が回らなくなった。水道代が月約10万円にのぼったこともあったという。

銭洗弁財天ぜにあらいべんざいてん」のトイレでは「アイスキャンディーやだんごのスティックをトイレに流すと故障の原因になります」と、日本語だけではなく、韓国語や中国語も併記して注意を呼びかけている、という。

円安のため、質の悪い旅行者が増えた

外国人旅行者数は、2013年から急激に増加しているが、2024年になってからの急激な円安で、それが加速した。1ドル=160円近くになって、外国人の目から見れば、日本への旅行は極めて安くなってしまったのだ。

現在の日本には、外国人観光客が過剰だ。数が多すぎるだけでなく、費用が安くなったために、質の悪い旅行者が増えている。先に述べたような問題を起こしているのは、質の悪い旅行者だ。

 

24年の初めから、為替レートは急激に円安になった。これによって外国人旅行客数が増えたのだ。ただし、コロナ以前の1ドル=110円程度の為替レートでも、外国人観光客は多く、オーバーツーリズムが問題となっていた。

したがって、今後仮に本格的な円高への転換が進むとしても、それだけで問題が解決できるとは思えない。オーバーツーリズム、なかんずく外国人旅行客による日本の公共インフラの使用問題について、抜本的な対策を講じることが必要だ。

公共施設の利用に対して、観光税を導入せよ

公衆トイレなどの公共的な施設の設置と維持には、コストがかかる。その負担は、日本人が負っている。そして、外国人旅行客は、負担なしでそれらの施設を使っている。

地域住民の税金でまかなわれている社会基盤が、外国人観光客によって過剰に利用されているのだ。いわば、「ただ乗りの利用」を認めていることになる。

その反面で、サービス供給の費用を負担している日本人が使えなくなる。こうした費用を、民間の営業主体であるコンビニが負担するのは、さらにおかしい。

 

だから特別な税を作って外国人旅行客に課税し、それを公共施設の設置と維持のための財源とすることが必要だ。トイレの場合について言えば、コンビニが対応するのではなく、公衆トイレを増設するのだ。

オーバーツーリズムの問題に悩んでいるのは、日本だけではない。そして、それへの対策として、世界のいくつかの都市や地域で、「観光税」が導入、あるいは検討されている。これは、宿泊料金や航空運賃に上乗せする形で徴収される。

現在、世界の約60カ国や地域で観光税が導入されている。ベネチアの入島税やバルセロナの観光税はよく知られている。

日本では、2019年以降、日本から出国する旅客から、出国1回につき1000円を「国際観光旅客税(出国税)」として徴収している。航空会社がチケット代金に上乗せして、国に納付する。国税庁の説明によれば、これは、「観光先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保するため」のものだ。沖縄県は、2026年度をめどに観光税を導入する考えを示している。

日本でも、主要な大都市では「宿泊税」を導入している。京都市は、2026年をめどに宿泊税を引き上げる方針だ。

 

これらとは別に、以上で述べたような対策の費用に充てるための財源として、「観光税」を創設することが考えられる。それは、単に、公共サービスの対価というだけのものではない。来日することのコストを高め、質の低い旅行者をカットするという意味もある。つまり、これによって質の高い旅行者を選別するのだ。

なお、大阪府の吉村洋文知事は、24年の3月6日、外国人観光客に対して、「宿泊税」以外に、観光資源の保護などを目的に負担してもらう「徴収金」の導入の可否を検討する意向を表明した。

*   *   *

この続きはは幻冬舎新書『日銀の限界』でお楽しみください。

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日銀の限界

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野口悠紀雄

1940年、東京に生まれる。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専攻は日本経済論。近著に『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社、岡倉天心賞)、『2040年の日本』(幻冬舎新書)、『超「超」勉強法』(プレジデント社)、『日銀の責任』(PHP新書)、『プア・ジャパン』(朝日新書)ほか多数。

・Twitter @yukionoguchi10
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