
なぜ日本銀行は異常な円安を止められなかったのか? その結果、日本経済と国民生活にどのような影響をもたらしたのか? 経済学者の野口悠紀雄さんが、日本経済の抱える根本的な課題に迫る幻冬舎新書『日銀の限界』より、一部を抜粋してお届けします。
日本の留学生数は2004年をピークに、その後は減少
日本人の海外留学生(主として、長期留学生)数は、1980年代には1万人台だった。1990年代に急増し、2004年に8万人を突破して、最高になった。
しかし、その後、日本経済の衰退とともに減少し、2009年頃からは、5万~6万人程度と、2004年頃の63~75%程度の水準にまで減少している(文部科学省「外国人留学生在籍状況調査」及び「日本人の海外留学者数」等について。2024年5月)。
これは、20歳台の人口が減ったためでもある(※)。ただ、それだけでは説明できない。
そして、コロナ禍で4万人台に減少した。2021年には4万1612人で、最も多かった時代の約半分になっている。円安が進むと、減少傾向に拍車がかかるだろう。
※2020年の人口ピラミッドを見ると、40歳台後半では1歳当たり人口(男女計)が197万人程度であるのに対して、20歳台後半では128万人程度と、6割5分程度に減少している。本文で述べたように、2004年頃からコロナ直前までの期間の留学生数の減少率は、これよりかなり大きい。
韓国の留学生数は、日本の3.7倍
留学問題についてのアメリカの調査・研究機関であるInstitute of International Educationが公表するOpen Doorsという資料に、アメリカへの留学生数の国別の数字がある。
気になるのは、日本と韓国の比較だ。2022年の数字を見ると、日本が1万3447人に対して、韓国は4万9755人と、3.7倍だ。人口一人当たりで見れば、差はもっと大きくなる。
韓国の国内には質の高い大学がないから留学するのか? まったく逆だ。
世界の大学ランキングがいくつか作られているが、上位100位までに入る大学数は、日本より韓国のほうが多い。
日本人の学生の多くは、大学を卒業してからは勉強しようとしないから、こうしたことになる。
韓国の目覚ましい経済発展の背後に、人的能力の向上があることは間違いない。それが、このような差に表れている。
企業が専門知識を評価するかどうかが基本的問題
留学すれば、国際感覚が身につくと言われる。しかし、結果としてそうなるのであって、国際感覚を身につけるのが留学の目的ではない。国際感覚は留学以外の方法によって、いくらでも身につけることができる。
だから、海外生活の体験をしたいとか、外国語の勉強のために留学するのは、時間の無駄だ。
多額の費用と時間を使って留学するのだから、本格的に勉強すべきだ。言うまでもないことだが、留学の目的は、専門分野の知識を学ぶことだ。できれば、大学院に留学する。そして、学位の取得を目指すべきだ。修士号は1年間で取れる。だから、日本で取得するより、時間を節約できる。
しかし、これに関して最も大きな問題は、本格的に勉強して学位をとっても、日本の企業は、それを評価してくれないことだ。給与面で同年齢の人たちと差がつくわけでもない。だから、体験留学が多くなって、本格的な留学にならない。
円安になったいまこそ、留学に関するこうした本質的問題を考え直すべきだ。
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この続きはは幻冬舎新書『日銀の限界』でお楽しみください。