
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第41回 井上荒野『しずかなパレード』

皆さん、こんにちは。トレードよりもパレードが好きなアルパカ内田です。
人も羨むような幸福な生活は、砂上の楼閣だったのか。東京出身で佐世保の老舗和菓子店の若女将となった妻が突然、失踪する。彼女はいったいどこへ消えたのか? 残された夫の絶望と悔恨。幼くして母に捨てられた娘の懊悩と悲哀。困惑する家族に、地元アーケード街の名物だった「カンフーマン」との出会いや、妻と愛人関係にあった男への疑惑が絡んでいく。抜群の引力で紡がれた展開からまったく目が離せない。
閉鎖的な地方都市で、登場人物それぞれが抱えた切実な事情。表と裏の顔を持つ人間たち。人は静謐に生きることを希求しても、内なる激情は決して隠せない。妻が感じていた純粋な感情が許しがたい嫌悪となる過程や、安否を気づかいながらも、むしろ妻の死を願うようになる夫の本音など、赤裸々な情景描写が実にスリリングで胸に突き刺さる。
キーパーソンが行方不明という異常事態のまま流れていく時間。それでも残された人たちの暮らしは変化しながら続いていく。しかし不穏なムードと違和感が膨らみ続け、得体の知れない「なにか」からの支配は消えない。重たすぎる息苦しさを抱え、まさに強烈な「不在」によって眼前の世界が歪んでいくのだ。
そして12年後、思いもよらない証言者から真相を知らされることになる。なんたる運命か。この結末には、きっと誰もが言葉を失うことだろう。導入からラストに至るまで油断大敵。読む者の心を存分にかき乱す極上のサスペンスだ。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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