
「大阪大学医学部を定年退官して隠居の道に入った仲野教授が、毎日、ワクワク興奮しています。秘密は家庭菜園。いったい家庭菜園の何がそんなに? 家庭菜園をやっている人、始めたい人、家庭菜園どうでもいい人、定年後の生き方を考えている人に贈る、おもろくて役に立つエッセイ」……。
「幻冬舎plus」で好評連載中の『知的菜産の技術』。本連載の著者で、大の読書家としても知られる仲野徹さんが、「生涯でいちばん大きな影響を受けた本」について語ります。
* * *
今読んでも面白い『道は開ける』
──先生の人生に影響を与えた本を教えていただけますか。
昨年、読売新聞の「私を作った書物たち」に出たときは、次の4冊を取り上げました。
1冊めは、柳田邦男の『マッハの恐怖』です。中学生か高校生のころだったと思うのですが、本格的なノンフィクションを読んだ、初めての体験だったと思います。
日本で航空機事故が3回連続して起こったことがあって、その原因をさぐるという内容です。それまでノンフィクションという存在があることすら知らなかったのですが、「こんなに面白いジャンルがあるんやな」と思ったのをよく覚えています。
2冊めはちょっと専門的な本ですが、H・F・ジャドソンの『分子生物学の夜明け』です。
学問というのは、わりとズルズルとできていくことが多いのですが、量子力学と分子生物学だけは、特定の人の発想によってうんと進んだ学問なんです。そんな分子生物学が、どのようにして生まれたかを書いています。
この本を読んで、「研究って本当に面白いもんやな」「自分もいつかこういう研究をしたいな」と思いました。当時は内科の医者をしていたのですが、この本が研究の道へと進む原動力のひとつになったと思います。
3冊めは、デール・カーネギーの『道は開ける』です。
──あまりに王道なので、ちょっと意外でした。
私は京都大学で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑先生の研究室にいたのですが、非常に厳しい先生で、涙、涙の生活を送っていました(笑)。それで、当時は人生論みたいな本を読み続けていたんです。
その中でも一番よかったのが、『道は開ける』でした。これはもう永遠のベストセラーですね。今、読み直してみても、やっぱり面白いです。
人生論の本はたくさん読みましたが、ほとんどのことはカーネギーの本に書かれているんです。つらいときは最悪のことを考えてみましょうとか、悩みは持ち越さないようにしましょうとか、どの本を見ても同じようなことが書かれている。それだったら『道は開ける』でいいか、という感じですね。
『キッパリ!』のおかげで人生が広がった
4冊めは、超ベストセラーになった、上大岡トメさんの『キッパリ!』です。多くの大学の先生は、影響を受けた本を聞かれると、ゲーテの『ファウスト』といった高尚な本を挙げるものですが、私はいつもこの本を挙げることにしています。
──『キッパリ!』は幻冬舎から出ている本ですが、先生があちこちでご紹介してくださったおかげで、何回も重版になっています。
40代の後半くらいに、ちょっとたそがれていた時期があったんです。仕事は非常に順調だったんですけど、もう友だちも増えそうにないし、このままズルズルと定年まで行くんかなと思っていたら、なんだか悲しくなってきたんですね。そんなとき、この『キッパリ!』を読んだんです。
この本が言っているのは、「生活習慣を変えてみましょう」ということです。ラジオ体操をしましょうとか、空を見上げてみましょうとか、1日10回「ありがとう」を言いましょうとか。今、挙げた習慣はいまだにぜんぶ実践しています。
でも、1日10回「ありがとう」を言うのって、なかなか難しいんですよ。だから、コンビニに行ったら「ありがとう、ありがとう、ありがとう」と3回くらい言って店を出ます。きっと近所のコンビニでは、「ありがとうおじさん」って呼ばれているんじゃないかって(笑)。
どれも小さな習慣なのですが、小さな習慣を変えることによって、自分って変われるんだなと思いました。この本を読んでから、義太夫を習い始めたりとか、いろんな新しいことをするようになって、人生がすごく広がったような気がします。
──先生は「新書大賞」の選考もなさっています。いわゆる古典的名著の中で、おすすめの新書を教えていただけますか。
今、幻冬舎のサイトで『知的菜産の技術』というエッセイを書かせてもらっています。このタイトルのもとになった、梅棹忠夫の『知的生産の技術』を挙げたいと思います。私が高校生のころに流行った本で、まわりのみんなが読んでいました。
数年前、「はじめての岩波新書」というキャンペーンが行なわれたとき、私の書いた「私にとって梅棹忠夫はアイドルのような人だ」というコメントが、『知的生産の技術』の帯に使われたこともあります。これは私にとって、自慢中の自慢ですね。
ただ、内容的にはちょっと古いんですよね。コンピュータができる前の話ですから、B6判のカードにアイデアを書きましょうとか、カナタイプ(ひらがな・カタカナで印字するタイプライター)を使いましょうとか。
でも、この本に書かれている精神は、今でも通用すると思うんです。実際、岩波書店の人に尋ねてみたら、今でも売れ続けているそうです。
内容が古くなったとしても、このような本こそが本当の名著なのだと思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】仲野徹と語る「『知的菜産の技術』から学ぶ人生を彩る趣味」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら
連載『知的菜産の技術』はこちら
武器になる教養30min.by 幻冬舎新書

AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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