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  4. 第243回 新宿アルタ

3月10日、新宿でトークライブがありまして。いつもライブの日は、JRの新宿駅東口を出まして、地下通路を通って、アルタの地下へ。そこからエスカレーターで一つ上がるとアルタの裏に出られる階段がございまして。そこから外に出て30秒くらいのところにある、アカシアという洋食屋さんで、大好物の“ロールキャベツシチュー”のお弁当を買って、会場に向かう、という流れ。でもこの日は東口を出た後、地下通路には行かず、そのまま地上へ。

 

というのもその10日前の2025年2月28日に、その45年の歴史に幕をおろした新宿アルタを見たかったのです。閉店当日は地方にいたので、その様子は動画で観ました。店長さんの「サンシャインシティアルタと新宿東口に、また来てくれるかな?」の声に、駆け付けたものすごい数の人たちが「いいとも!」と。寂しさだったり感謝だったり感動だったりで、泣けた。新宿アルタには思い出がたくさんあるんです。

新宿アルタが出来たのが1980年だったのは今回のニュースで知った感じで、私としては思春期、もうそこにアルタはありました。多くの人がそうだったようにやっぱり待ち合わせは“アルタ前”。ただ本当にたくさんの方が待ち合わせしていて、もちろん携帯電話なんてまだなかったですから、そこで出会うのも一苦労。みんなキョロキョロ周りを見渡していた。それもまた楽しかった。

そしてアルタと言えば「笑っていいとも!」。
♪お昼や~すみはウキウキWatching あっちこっちそっちどっち いいとも チャラッチャッチャッチャ ジャン
あの音楽に合わせてアルタ前に集まっている人がちょっと映る。何度映りに行こうと思ったことか。そんな“いいとも”にその20数年後、自分が本当に“映る”なんて想像もしていなかった。初登場は2008年6月。香取慎吾さんの『ドキドキアンケートだんだん減らしまSHOW』にレオタード姿でリボン振り回しながら飛び出していきました。そりゃ緊張しましたよ、めちゃくちゃ。ずっとテレビで観ていたあのステージに自分がいるんですから。観客席とすごく近くて、リボンが6メートルあったものですから、とにかくお客さんに当たらないように、って思ったのは覚えています。その分後ろの出演者の皆様にリボンがいきまくって、ガレッジセールのゴリさんが「この狭いスタジオにそのリボンは合わない!」と避けながらいじってくださったのもありがたかった。ステージ裏に『テレフォンショッキング』のお花がドーンと並べられていたり、とにかく“芸能人”がすぐそばにいる! と思ってずーっとドキドキしたり。何よりメイク室で普通に横にタモリさんがいらしたのも、信じられない光景でした。

あとその『テレフォンショッキング』に自分が呼んでいただけたのも、“人生のすごいことランキング”上位に間違いなく入る出来事。2度ほどお呼ばれしましたが、まずタモリさんに「いとうあさこちゃんです」と呼びこんでいただけたことが、度が過ぎて幸せで。そしてあの何かしらのポスターを持っていって「貼っといてちょうだい」のヤツ。偉そうに2回ともやっていただいたんですよね。1回は自分のDVD、もう1回は山田ジャパンの、たしか『いいえ、ヴィンテージです』のポスター。そしてたくさんのお花たちも。昔で言うところの“どこの馬の骨かわからん”、まあまあ“いい歳”のテレビ出てきたての女芸人に、本当にいろんな方がお花をお送りくださいまして。そんな中、ライブ後よく行っていた“みやこんじょ”という宮崎料理屋さんからの大きなお花も。このお店は、当時本当にお金がなかった私の救世主的存在。チキン南蛮を始め、お料理は全部美味しいし、ボリュームもあって。焼酎の割水も“水道水”で、と安くなるようにしてくださって。だから後輩なんかも連れてっちゃったりして。まあ“一人”限定でしたが。本当にお世話になりまくりました。そんな“みやこんじょ”さんが出してくださったお花がでっかく真ん中に置かれていた光景は忘れられません。ありがたや。

もう一つ、アルタの思い出。昔アルタに“ぶどうの木”というレストランがありまして。そこに生放送を終えた出演者の方がお昼を食べにくる、という噂が。それは“いいとも”だけではなく、「ライオンのいただきます」の皆様も。この番組はその後「ライオンのごきげんよう」になる枠で、視聴者から寄せられたお悩みをヒロシ&チーボーさんたちがコント仕立てでやる『いただきます劇場』など、生放送でやっていた。その出演者の中にABブラザーズさんもいらっしゃいまして。そうです、“ヒデちゃん”こと中山秀征さんのコンビです。その“ヒデちゃん”の大ファンだった、友達のアキコちゃん。ネットの無い時代に、その“ぶどうの木”に出演者がいる、という噂をどうやって知ったかは覚えていませんが、高校生の時、アキコちゃんと2人で13時過ぎ、“ぶどうの木”へ。もうすでに何人か、お店の前で女の子たちが待っていました。ただ我々は違います。お店の方へ「2人です」と告げ、中へ。そうです、“別に入り待ち出待ちとかじゃなくてただ普通に遅いお昼ご飯を食べに来た客”を演じたのです。アキコちゃんを壁側へ。“ヒデちゃん”が入ってきた時に見えるように。そして少しして入ってきた出演者の皆々様。そうなったらそうなったで私も、見たい。店員さんに「お水くださーい」なんて言いながら、後ろを振り返って何度もチラ見。もろもろ自然にやっていたつもりではありますが、今思えばバレバレだったろうな。

そんな思い出溢るる新宿アルタ。今回、トークライブ前に見に行った時には、まだ閉店後10日しか経ってないのに、アルタの文字は全部消えていた。聞くところによるともう翌日には撤去作業が行われたそう。たくさんの外国人がその左横にあるビルの、ネコが飛び出してくるように見える大型ビジョンの動画を撮っている横で、私はアルタの写真を撮った。一組だけ“アルタ前”で待ち合わせをしていた。いつの間にか、“ドリアン”を教えてくれた、隣の果物屋さんもなくなっていた。時代は流れているなぁ。
新宿アルタ、45年間、いろんな思い出をありがとう。

 

【本日の乾杯】以前千葉の方にキャンプに行った帰り、道の駅に寄って買った“鯵さんが餃子”。カリカリに焼いて、ポン酢をかけたたっぷりの大根おろしでいただく。普通の餃子も大好物ですが、鯵も超美味し。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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