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ときめいて大往生

2025.03.21 公開 ポスト

「薬を飲むくらいなら死んだほうがいい」大往生した93歳の女性帯津良一(医学博士)

「健康診断結果は気にしない」「毎日の晩酌は欠かさない」「お金はためるより使う」……。ホリスティック医学の第一人者で現役医師の帯津良一先生が実践する、人生100年時代を楽しく健やかに老いるコツとは。新刊『ときめいて大往生』より、一部をお届けします。

*   *   *

シニア世代は片思いがちょうどいい

私の女房は2009年に他界しました。先立たれて早16年。そんな私がどのように女性と向き合っているかというと、積極的に片思いをしています。

思いを成就させるとか、肉体的な関係を持つとかではなく、素直に「素敵だな」と思う。それが私が言うところの片思いです。

先日もちょうど、病院の職員食堂で昼飯を食べていたら、私が最近、素敵だなと思っている看護師さんがいたんです。そうしたら、彼女は自分のお皿に食べるものをのせて、なんと私の隣に来て座ったんです。これは悪くないですね。

何かあるごとに、あからさまに彼女を褒めているから、向こうもいい気分になってくれているのかもしれません。

私ぐらいの年齢の人間が恋の話をすると、「老いらくの恋」と揶揄されることがありますが、私はそれが気に入りません。若かろうが、シニアであろうが、人が人にときめくことは素晴らしいことだからです。

人によっては、片思いではなくて両思いを望むかもしれません。伴侶がいない場合はそれもいいと思いますが、私自身は、素敵だなと思える人はたくさんいたほうがいいので、片思いがちょうどいいと感じています。

「自分好みの異性はどこにいるんだろう」と思うだけで心がときめくし、運よく素敵な人と出会えて会話を交わせれば、もっと心がときめきます。

声をかけるのは勇気がいるかもしれませんが、その葛藤の中にすらときめきが宿っています。

それに、このくらいの年齢になると、ありがたいことに警戒されなくなります。だから安心して元気に声をかけて、片思いを満喫してみてはいかがでしょうか。

周りに「恋人」と思われていた93歳の女性

私より一回り年上の彼女は、とても魅力的な人でした。

日本のマザー・テレサといわれた福祉活動家の佐藤初女さんです。

彼女は全国様々な場所で講演を行っていて、私の病院がある川越でも年に1回スピーチをしていました。その懇親会に私も毎年参加して、交流を深めていましたし、彼女は日本酒が好きだったので、懇親会以外でも一緒に川越のうなぎ屋かなんかに行って、お酒をよく酌み交わしました。

そんな様子を見て、周りは「初女さんは帯津先生の彼女だ」なんて思っていたみたいですね。

そういう関係ではまったくなかったのですが、私は初女さんを尊敬していました。芯が強くて、生き様が凜としているからです。

ある年の懇親会のこと。

初女さんは90歳を超えているというから「今年もお元気だろうか。いやぁ、さすがに少し衰えているんじゃないかな」なんて心配しつつ、私はみんなより早く席につきました。

しかし、会場に入ってきた初女さんを見て、そんな杞憂は吹き飛びました。歩き方がリズミカルで軽やかだし、肌艶もよかったからです。

けれども、彼女はその後、乳がんになってしまいました。

あるとき、初女さんに呼ばれて部屋まで行ったら、彼女がいきなりおっぱいを出して、「先生、これ」って言うんです。

「えっ」って言って触ったら、大きな腫瘍がありました。

簡単に取り除けそうだったので、私は手術を勧めましたが、彼女は手術を受けるにしても、講演が詰まっているから2ヶ月後になると言います。2ヶ月も放っておいたらどうなるかわかりません。

けれども、初女さんにとって講演は生きがいそのものです。講演を通して一人でも多くの人を明るく照らしていくのが、彼女にとっての喜びであり、ときめきなのです。

だから「あなたは講演が大事なんだから、いいよ、それでも」そう答えて別れました。

2ヶ月後。

彼女が私の病院へ来て診察をしたら、鎖骨の上に転移がありました。

あぁ……と思いつつ、もはや腫瘍だけを取っても意味がないことを伝えて、ホルモン剤を飲むことを提案しました。

しかし、彼女は「薬を飲むくらいなら死んだほうがいい」と言います。彼女は子どものころに大病を患ったことがあり、薬が大嫌いだからです。薬を絶対飲みたくないなら、それはそれで仕方がありません。ずっとそうやって生きてきて、それが彼女の生き様なのですから。

「うん、わかった。それじゃあね、あとはかかりつけの先生に私のほうから頼んでおくから、できるだけうまくやってくれよ」と言って別れました。

それから1年ちょっとで、彼女は94歳の天寿をまっとうしました。

結局彼女は、手術をせず、薬も飲まず、亡くなる直前まで講演活動に打ち込んでいました。

手術や薬を取り入れていたら、もっと長生きできたでしょうが、彼女はただ長生きしたいわけではなかったのですから悔いはないでしょう。

ときめきを大事にして旅立たれた、見事な大往生でした。

関連書籍

帯津良一『89歳、現役医師が実践! ときめいて大往生』

「健康診断結果は気にしない」「毎日の晩酌は欠かさない」「お金はためるより使う」 ホリスティック医学の第一人者が教えるごきげんに長生きする秘訣

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ときめいて大往生

ホリスティック医学の第一人者が教えるごきげんに長生きする秘訣とは。新刊『ときめいて大往生』より、試し読み記事をお届けします。

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帯津良一 医学博士

1936年埼玉県生まれ。1961年東京大学医学部卒業。東京大学医学部第三外科医局長、都立駒込病院外科医長を経て、1982年に埼玉・川越に帯津三敬病院を開業。2004年に東京・池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設。主にがん治療を専門とし、西洋医学と中国医学などの代替療法を用いて、患者一人ひとりに合った診療を実践している。体だけでなく、心と命も含めた人間まるごとをみるホリスティック医学を提唱。88歳になる現在もホリスティック医学の実践、講演や執筆など精力的に活動。著書に『いつでも死ねる』(幻冬舎)、『素晴らしき哉、80代』(ワニブックス)、『人生100年時代を楽しく生きる』(春陽堂書店)など多数。

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