
こんなことってある!? と錦糸町で自分が信じられなくなる
マチャアキの歌で好きな曲がある。
マチャアキ? 巨匠? センセー? とにかく堺正章だ。
個人的に私が彼をはっきり認識したのは、1978年に放送されたドラマ『西遊記』の孫悟空で、以後、お正月のかくし芸と『ザ・トップテン』と『チューボーですよ!』と『発掘! あるある大事典』の印象が強い。レコ大の司会も長くやってた記憶。
「おかみさーん!」で、知られるテレビドラマ『時間ですよ』で天地真理や浅田美代子と共演していた頃は、子供すぎてリアルタイムでは観ていない。それより前になる「ザ・スパイダース」時代には、私はまだ生まれてなかったので、マチャアキの歌を聞いて育った「世代」ではない。
なので、私が好きなマチャアキの歌を、いつどこで最初に聴いたのかはまったくわからない。まったくわからないけど、不思議なことに聴いた瞬間から好きだ! ってなった記憶だけは残っているのだ。
『さらば恋人』である。
いやいや堺正章って、歌上手いよね? 上手いっていうか声に味があるよね? いや味もあるけど、やっぱり上手いんだよ。なんかこう声が特徴的だから、引っ張られるとこあるけど。不思議とあの声がなんかこう沁みるのよー。
などなど言いたいことはいろいろあるんだけども、『さらば恋人』はまた特別なものがある。
なにって間奏だ。あの2番が終わった後からラストへ繋がるところ!
♪チャンチャン、チャラチャラチャチャーチャー、チャンチャン、チャラチャラチャチャーチャー、チャンチャン、チャラチャラチャチャ― チャーチャチャチャチャ―チャー♪のとこね! ……伝わる気がしないけど。
最高。初めて聴いたときの胸がぎゅっとなった感じが、何十年経っても変わらない。切なくて苦しくてドラマティックが止まらない(C-C-Bじゃないよ)。
自分のなかの、同じようなドラマティック間奏良曲フォルダーには、森進一『冬のリヴィエラ』とか松田聖子の『チェリーブラッサム』とか久保田早紀の『異邦人』があるんだけど、『さらば恋人』は永遠の第一位なのだ。
というわけで、その何十年も思い続けてきた好き曲を、ぜひ生で聴きたい! というただそれだけの気持ちで、プレイガイドで「堺正章」を登録し、チケットを取ったのです。
いわゆるソロコンではなく、堺正章のほかにも6~7人出演する合コンのようだった。『さらば恋人』が大好きではあるものの、堺正章の楽曲をそれほど知っているわけでもないので、合コンでも全然OK。むしろワイワイ楽しそう!
セブイ-レブン発券だったので、当日立ち寄ってチケットを受け取って、向かいましたよ「すみだトリフォニーホール」! 初めて足を運ぶホールだ。最寄り駅は「錦糸町」。うちからだとちょっと遠い(玄関出てから1時間40分くらい)。
千葉方面へ向かう総武線に揺られながら(『さらば恋人』歌ってくれるかなー。いやいや歌わないってことないよね? だってソロ曲では最大のヒット曲……だよね? あ、『街の灯り』? いやいややっぱり『さらば恋人』でしょう。聴けなかったら泣く! いやいや絶対歌ってくれるはず!)などと期待と不安に心乱しながら無事錦糸町駅に着く。
地図を開きながら進むと、どうやらお仲間らしき方々の姿があり、後をついていくと徒歩5分ほどで現着。観客層的には布施明のときと似た感じ。

が! が! がー!
まず、え? と思ったのは、会場の通路に貼られているポスターに、マチャアキが写っていなかったのである。
大竹しのぶ、松崎しげる、未唯mie、小柳ゆき、サンプラザ中野くん、一青窈。
え? マチャアキは? と思いつつ、それでもまだ、あぁこの人たちをマチャアキが率いてやるってことだよね? 総合司会みたいな感じで? と思ってみたりもした。でも、チケットをもぎってもらって(紙チケなのでほんとにもぎられる)ホールの中に入ってみたら、ファンクラブの受付や、CDを含む物販のスペースにも「堺正章」の文字は見当たらない。
え? え? え?
これってもしかして……!?
そうです。私はどうやら間違ってチケットを購入していたのです。
こんなときに限ってそこそこ良い中列のセンター席についてみて、無料でもらえたプログラムを開くと、間違いはもう確定だった。マチャアキはいない! 出ない! つまり『さらば恋人』は歌われない! えぇぇぇーーーー!!!
じゃあこのコンサートが何だったのかといえば、ビルボードクラシックス フェスティバル(billboard classics festival)という、東京交響楽団の演奏のもと、複数の歌手が集う音楽イベントだった。
どうやら、堺正章の何かしらの合コンはまったく別物で、思うにその情報がこのビルボードクラシックスと上下して紹介されていて、私は勘違いしてこちらのチケットを購入してしまったのだな、と理解。
フルオーケストラで流行歌を聞く幸せ
マチャアキは出ないけど、セットリストには『ペッパー警部』『愛のメモリー』『あなたのキスを数えましょう』『大きな玉ねぎの下で』『ピンクレディ・メドレー』『一本の鉛筆』『愛の賛歌』など、おぉ、それは聴けるものなら聴いてみたい! と思わせる代表&名曲が並んでいた(一青窈は兵庫公演のみ出演)。加えて『もしもピアノが弾けたなら』を松崎しげるが歌うらしい。それはあれだ。去年の紅白で見たやつ! そして最後は全員で坂本九の『見上げてごらん夜の星を』。どうでしょう、このメンバー。ここに堺正章がいて『さらば恋人』を歌ったとしても違和感皆無ではなかろうか。思い込んで間違えてもしょうがなくはなかろうか(未練)。
でも、始まってすぐにそんな未練は吹き飛んだ。
フルオーケストラ71人+クワイヤも15人くらいいて、とにかく音が厚い。最初に出てきたサンプラザ中野くんは緊張感が漂っていたけど、誠実な歌で和んだし、めっちゃほそ! とにかくほっそ! な小柳ゆきはさすがの声量だったし、大竹しのぶへの歓声はひときわ大きく、なま松崎しげるはやはり黒く、未唯は華やかな衣装でザ☆スターだった。
一曲ずつ歌って、さらに各々持ち歌(とも限らないけど)2曲ずつ披露して、最後はみんなでスペシャルコラボ、という構成だったのだけれど、松崎しげるの『愛のメモリー』は、歌い出しの♪愛の~の3ワードで、会場中の耳がヒュッ! と舞台に惹きつけられたような感覚があった。大竹しのぶの『愛の賛歌』も、感情表現が凄まじく、ひとりミュージカルのようで、正面を見つめて歌いながら涙を流す姿に、「しのぶちゃんはやっぱり凄い女優さんねぇ」と観客のおばさま方が囁き、ため息を吐いていた。華やかな衣裳替えで観客をわかせた未唯は、私が子供のころに歌い踊りまくっていたピンクレディ時代のアイドル歌唱とは全然歌い方が違い、めちゃくちゃ上手くなってた。アイドル時代も上手かったけど、上手い方向が変わって本格的になっていたというか。何があったんだ未唯。気になるぞ未唯。カッコいいな未唯。
松崎しげるに「聴いていると胸がジンジンしちゃう」と言われていた小柳ゆきも、がむしゃらで声を張ってなんぼ、みたいだった若いころを過ぎて感情が歌に乗っていてとても聴きごたえがあった。客席のおばさま方も帰り道で「あの若くて細い子上手だったわねぇ」「小柳さんね」「小柳といえばルミちゃんも上手だったわよね」と昭和トークで褒めておられたし。あと、サンプラザ中野くんさんの「(こんなフルオケで歌うなんて)必死です!」とのMCに、「最高だよー!」の声がかり、「でも緊張しながらやるのは楽しいです」と応えていたのも印象に残った。確かにそうだろうなー、歌い手としても、これは特別なことなんだろうなーと胸が熱くなって、有吉くんの(猿岩石)応援歌だった、と紹介された『旅人よ』は、アレンジがめちゃくちゃカッコ良く、熱量も凄くていいものを見せてもらってる! と思えた。

クラシックに興味がないまま生きてきたので、オーケストラという存在に定期演奏会などがあるのは知ってはいても、それが果たして年何回あって、どれくらい集客できるものなのか考えたこともなかったけど、あぁなるほど、こういうコラボもあるのかと理解。
中野くんに限らず、出演者側もフルオーケストラで歌える機会なんてそうそうないだろうし、出演者のファンも音響のいいホールで聴ける幸せは別格だし、ヒット曲持ちの歌ウマな人ばかりで飽きないし発見も楽しさもあるし、いい企画だなーとしみじみ思った。
そうそう、布施明以来の「ブラボー!」もあった。
っていうか、この企画、やっぱりマチャアキも出演者としてぴったりだと思う。あの間奏、フルオケで聴いたら絶対かっこいいよ……!(まだ未練ある)
だらしなオタヲタ見聞録の記事をもっと読む
だらしなオタヲタ見聞録

20年以上、毎日300~500歩程度しか歩いていなかった超絶インドアだらしな生活だったのに、突然フッ軽オタ道を走り出したこの数年。もう「いつかそのうち」なんて言ってられん! 見たいものは見ておきたい! 寄る年波を乗り越えて、進め! ヨタヨタオタヲタ見聞録。