
トクリュウこと、匿名・流動型犯罪グループ。最近、ミャンマーやカンボジアでその拠点が発覚したが、実は台湾にもその大きな拠点がある。ジャーナリスト・花田庚彦が、台湾の「街頭」が仕切るトクリュウの現場に潜入取材し、誰も知らない闇バイトの恐るべき実態を暴いた『ルポ・台湾黒社会とトクリュウ』より、“スクープ”の一部をお届けします。今回は、台湾でトクリュウに関わった日本人男性・三上氏(仮)へ「ニセ大阪府警」についてのインタビューを。
シナリオは日本から送られていた
――近頃、リバトングループ事件を利用して、大阪府警を騙るトクリュウが増えていますが、このような関西弁を話す掛け子の部屋を見かけたことはありますか? そこはどんな感じの部屋でしたか?
「一般の掛け子は立入禁止の部屋があったんですが、そこからは確かに関西弁が聞こえていましたよ。部屋の様子は、立入禁止だったのでちょっと分かりませんけど。でも、最近日本人が増えているのは確かです。ベースとなる給料も、僕は月40万という契約でしたが、あとから来た人間では月50万だったりして、個々人で条件が変わっていましたからね。もしかすると、関西弁を扱える人間は優遇する、みたいなものがあったのかも知れません」
どうやら、王氏の組織においても、リバトングループ事件を利用したシナリオは、最新スキームとして取り入れられていたようだ。
――電話をかける際の設定、いわゆるシナリオを書いている人間に心あたりはありますか?
「多分日本からシナリオが送られていました。はっきりと分かりませんが、そのようなことは言っていました」
――毎日シナリオや狙う相手についての指示というのは変わるものなんですか?
「狙う対象については、『今日はこのエクセルの表に貼ってある人間を狙ってくれ』、と毎日指示が変わっていましたね」
掛け子が語る台湾トクリュウの現場
ここで、三上氏の具体的なトクリュウでの仕事ぶりについて、聞いてみた。
「初めの3カ月は有名人を使った詐欺が中心でしたね。FacebookやInstagramで広告を打ってDMを送ってきた人間をLINEに誘導して騙すという方法ですが、年配の人が多いFacebookのほうが反応良かったですね。これも最初のうちは面白いように騙されてくれましたが、7月には下火になっていて、ほぼ何もない日もありました。特別休暇の日もあるくらい暇な日も続いていました」
――なるほど。いわゆる「SNS型投資詐欺」に関わっていたのですね。でも、1回目の7月には下火になったのに、同じグループから再び9月に呼ばれることになったのはなぜですか?
「9月に台湾に渡航した時には、掛け子をやっていました。再び呼ばれた理由ですが、トークの際、次から次へと言葉が出ることを買ったと王さんは言っていましたよ」
三上氏も、言い方を選ばずに言うならば、トクリュウの“才能”がある人間だったということなのだろうか。続けて、台湾でトクリュウに関わっていた際の生活について聞いた。
――どんな部屋で過ごしていましたか?
「二段ベッドが3つある部屋に3人で過ごしていました。この3人1チームというのが、僕が行った現場の基本だったのですが、チームが3つ集まって、本部で電話の競い合いをしていましたね。この本部にはノルマ表が貼ってあり、1位のチームには褒美として週末にKTVに飲みに連れて行ってもらうことができたんです。それが楽しみで、みんな競って電話をしていました」
KTVとは、一般的には日本で言うところのカラオケボックスのことだが、いわゆるキャバクラのようなものや、性的な営業を行う店など様々な形態がある。
――ちなみに、そのノルマはどれぐらいの金額だったんですか?
「1チーム3000万円以上です」
――週に?
「そうです」
――それは達成できていましたか?
「そこはどのチームも余裕で達していました」
――お金を回収した時点で、ノルマが達成される?
「そうですね、回収は日本にいる人間の役割なので」
――詐欺1回あたり、最高金額はいくらぐらいだったんでしょう?
「僕は2000万円ぐらいですね。でも、同じチームには2億円取った人もいました」
――勤務時間はどれぐらいでしたか?
「朝9時から夜の7時までで、週に1回1、2時間の反省会があり、ノルマを達成したうち、最も成績が良かったグループは、その時間帯にKTVで女遊びしています」
――掛け子の年齢層はやっぱり幅広いのでしょうか?
「10代から、上は70歳以上の人もいたのかな。宿舎には入れ歯洗浄剤がありましたから。だけどその人仕事ができないので、1カ月で帰されていました。結局、こちらから話しかける内容についてはマニュアルがあっても、向こうからかけられる言葉へのレスポンスは個々人のセンスですから。予想外の返答が来た時、咄(とつさ)嗟に返せず口ごもってしまうような人間は、やはりこの仕事に向いていませんよ」
――よくニュースなどで、こうしたトクリュウの闇バイトに応じて現場に行ったら監禁されたとか、パスポートを取られて帰れなかったという報道がされていました。三上さんの場合はどうでしたか?
「そういう記事や報道をネットで見て、皆で笑うぐらいには快適な環境でしたね。王さんも、『経費を抑えてやろうとする組織は、ああいう待遇になる』と言っていました。僕らもパスポートは預けていましたけど、逃げようと思えば逃げられる環境にいましたね、台中の市内までタクシーで20分くらいの場所に宿舎がありましたから」
――三上さんが帰国する時点では、掛け子はどのくらいの人数がいましたか?
「20~30人だと思いますよ、毎日誰か帰国するし、毎日誰か来ますから」
――人員の入れ替わりが激しいわけですね。新しく来た人っていうのは、即戦力になるものなんですか?
「初めの3カ月は見習いです。報酬は出ますがボーナスはもらえません、基本給だけです。次からの3カ月でノウハウを覚えて稼げるようになります。僕も1回目は120万円だけでした」トクリュウにも試用期間にあたるものがあったとは驚きだが、三上氏がインタビュー冒頭で告げた1回目と2回目の稼ぎの差は、歩合の他にも、こうしたボーナスの有無部分も影響しているのかも知れない。最初の渡航でうまい思いをしてしまった人間は、「次はもっと稼げる」と考え、再びトクリュウに手を染めてしまうような構造になっているということだろう。
――日本をはじめとした他国のトクリュウでの逮捕者を見ると、最近では女性も増えつつある印象があります。三上さんのいたグループには、そうした女性はいませんでしたか?
「会ってはいないけど、女性の金の運び屋は雇っていましたね。日本で2泊3日の安いツアーに参加して一般の旅行客に扮して来ていたそうです」
――それはプロではなく一般人?
「同じくXとかで応募してきた女性だと思います」
――そういう運び屋も結構集まるものですか?
「Xでの募集以外に、スカウトが街中で声をかけた子を連れてくる場合もあったと思います。中には、モデル並みの子もいると聞きました」
先程、三上氏の発言や、筆者の経験から、台湾の出国における荷物検査が厳しくなったということを紹介したが、王氏の組織はそうした問題への対策も行っているらしい。
一人旅で同じ国への出入国を繰り返した場合、税関から怪しまれてしまうケースが多く、台湾も例外ではない。しかし、ツアーに参加するという方法を取ると、ある程度は誤魔化しが利くのだろう。
こうした金の運び方について、一番安全なのは海外送金ではないかと考える読者の方もいるだろう。しかし、手数料が想像を超えるほど高いうえ、100万円以上の海外送金は税務署に報告されるなど、違法な金を送金する上では、損失やリスクが大きくなってしまう部分がある。100万円を送るのに半分近くの手数料を取られた上で、場合によっては関係当局に報告されることを考えると、1人あたり10万~20万円で運び屋を雇った方がリスクも手数料も低いのだ。
例えば、1回のツアーで3人の運び屋を雇い、その人間が1人1000万円を運ぶと想定した場合、3000万円を約30万~60万円の手数料で運ぶことができる、行きも帰りも空港へ送り迎えが付いているツアーなので、運び屋が逃げるリスクも個々人でやらせるより少なく、運び屋サイドから見ても、運んだ金をちゃんと渡せば、報酬をもらった上で、あとは自由にしていいのだ。万引きと同じく、こうした犯罪を繰り返していると次第に麻痺してきて、旅行付きの割のいい話に思えてきてしまう、というのも、こうした運び屋稼業を行わせる人間が枯渇しない理由なのかも知れない。実際は、犯罪が露見した場合、重い罪が待っているのだが……。
「他にも、こちらはあくまで噂ですけど、特定の街頭はCAにこうした運び屋業務をやらせているという話も聞きましたね、本当かどうかは分かりませんが」
三上氏はこう付け加えたが、過去にCAやパイロットなどの客室乗務員を使った密輸事件は多く発生している。それだけに、単なる噂に留まらないリアルさを感じてしまった。火のないところに煙は立たぬということわざ通り、何かしらのグループが、こうした犯行を行っていてもおかしくないだろう。
筆者は、話を聞き進めるうちに、三上氏がトクリュウの一員として、有名人を使ったSNS型投資詐欺や、現在問題になっている警察官を騙った詐欺にも加担した人物であるのだということを強く実感することとなった。正直、このまま警察に付き添って、自首を勧めることも考えたが、彼を紹介してくれた友人、そして何よりも貴重な情報をくれた三上氏本人に対する筆者なりの仁義の通し方として、あくまでも話を聞くに留めることにしたのである。
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この続きは幻冬舎新書『ルポ・台湾黒社会とトクリュウ』でお楽しみください。
ルポ・台湾黒社会とトクリュウ

トクリュウの拠点は、台湾にあった!
トクリュウこと匿名・流動型犯罪グループの大きな拠点の一つは台湾にあり、日本の暴力団は完全に台湾黒社会の下請。
そんな情報を仕入れたジャーナリストが、台中のアジトに潜入取材した。
現地でトクリュウに励む10代から70代の日本人の勤務は9時から19時までで土日休。報酬は月約40万円。一見ホワイトな現場に近づいた彼は、犯罪チームに勧誘される。断ると「腕を千切る」と脅され、必死の逃亡劇が始まった――。
トクリュウ、闇バイトの恐るべき実態を暴いた衝撃のルポ。