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衰えません、死ぬまでは。

2025.04.05 公開 ポスト

第25回 迫りくる孤独と野菜 前半

パンを食べるのをやめたら、便通がよくなった!?宮田珠己

次から次へと迫りくる体調不良に悩まされる宮田さん。還暦を過ぎて61歳です。

*   *   *

硝子体剥離、セロトニン症候群など次々と襲い来る体の不具合に、新たに下腹部の痛みが加わり、次は何かと恐れつつ胃カメラを飲んだが異常なし。エコー診断でも何も見つからず、結局何かわからずじまいだった。そうこうするうちに歯が痛くなって歯医者に行ったら、知覚過敏と言われたりして、還暦を過ぎていろいろなところにガタが来ている。

このままどんどん衰えていくのかと思うと気が滅入る一方である。

 

ただ、不思議なことに昔よりよくなっていることもある。

便通である。

(写真:宮田珠己)

若い頃から下痢と便秘を交互に繰り返す体質だったのが、この数か月でそれが一気に解消した。

原因ははっきり思い当たる。

パンをやめたことだ。

今まで私は、朝食はパンと決めていた。パンは料理も必要ないから手軽だ。バターをたっぷり染み込ませたパンとフルーツと紅茶、たまにゆで卵程度というのが長年の習慣だった。

近年、家族からバター滲み滲みパン禁止令が出され、中性脂肪の数値が劇的に改善したが、今はさらにパンそのものをやめよという指令があり、従ってみると、便通が改善した。

朝から和食は面倒だし、ごはんは重いと、これまでずっと拒否してきたが、漬物や豆腐、納豆、ゆで卵などなるべく手間をゼロに近づけるよう工夫し(ゆで卵さえ面倒くさい)、ごはんも茶碗いっぱい食べないようにすると、なんとかそれでやっていけるようになった。

パンと紅茶の持つ、明るく優雅な感じが好きだったが、パン=明るい、というのは、考えてみるととくに根拠はないのである。そもそもバター滲み滲みパンを禁止され、はちみつきな粉パン、もしくは、カロリーハーフジャムパンにシフトした時点で、私のパン愛は萎(しぼ)む運命にあった。

世界一好きなパンは塩バターパンでいまだ揺るがないが、これはたまの贅沢時に食べるとして、そうでないパンにもう未練はない。

便通がよくなった原因は、もうひとつあるかもしれなくて、それは炭水化物を最初に食べないようにしたことだ。よく言われる話だが、朝であれ昼であれ夕方であれ、まず食物繊維から食べる。でなければタンパク質から。炭水化物は後半まで我慢、というのを徹底したところ、便通含めいろいろ目に見えて調子がよくなった。日中だらだらと眠い症状も収まってきた気がする。

眠いときは眠いから昼寝もするが、起きているときはちゃんと冴えて、メリハリがはっきりしてきた。これはもしかすると散歩の効果なのかもしれない。適度な運動が睡眠を深め、昼間の頭をシャキッとさせているとも考えられる。

そんなわけで、調子がいいのと悪いのが拮抗した、新しい自分に変わってきた今日この頃である。

(写真:宮田珠己)

そしてさらに、新たな改革も目論んでいる。なかなか進歩のない筋トレの効果を加速させるため、プロテインの導入を決めたのである。

プロテインという言葉を初めて知った頃は、味気ない粉としか思わなかったが、今やおいしいプロテインがどかどか登場しており、試しに飲んだら抵抗がなかったどころか、また飲みたいぐらいおいしかった。これまで何となく機会を逸してきたものの、実は前から気になっていたのだ。息子や娘が毎日飲み食いしているプロテインが。

わが家の子どもらのプロテイン愛はかなり重症で、うちには多くの種類のプロテインが常備されている。子どもらはそれを低脂肪乳に混ぜて飲んだり、料理に混ぜ込んだり、ケーキだのベーグルだのを作って、食べたりしている。その量たるや、ごはんよりも多く、ほぼ主食と言っていいほどだ。娘など将来はプロテイン会社に就職したいなんて言うぐらいで、いったいどれほどマッスルな人生なのか。

先日息子が風邪をひいて一晩寝込んだのだが、本人いわく、咳は1回で約2キロカロリー消費できるとのこと。しかも咳はインナーマッスルを鍛えるので、寝込みながら体をつくれると喜んでいた。風邪が治ったあとも、咳1回で2キロカロリーは効率がいいと、咳だけ引き延ばそうとしていたほどだ。アホなのではないか。筋トレとカロリー制限にハマり過ぎて、頭がおかしくなっている。

まあおかげで、私もいろいろと筋肉や食事について学ばせてもらっているので、文句は言うまい。

そんななか妻に指摘されて、愕然としたことがある。

それは、子どもが現在ふたりとも大学生であり、来年には息子が、再来年には娘が卒業してたぶん家を出ていくということだ。

(写真:宮田珠己)

え、もうそんな時期?

と思ってしまったが、そんなのはずっと前からわかっていたことであった。わかっていたけど直視しないようにしていた。

あらたまって考えると、寂しい。

よくおじいちゃんおばあちゃんのまわりに子どもと孫が集まって大家族で写真を撮っている家があるが、うちの家系はまったくそういう習慣がない。

たとえば私の両親には、子どもがふたりいる(私と弟)が、弟は独身なので、孫となると私の息子と娘ふたりだけである。この家族が全員集まったところで総勢6人。一家三代揃ったところで、大家族にならない。しかも父はとっくに死んでいる。

では私と妻を基点にして、その子と孫が将来集まったら大家族になるかといったら、そんなふうになる気もしない。

決して家族の仲が悪いわけではないのだが、それぞれが勝手に生きていく感じで、家族全員で旅行しようなんて考えることもほぼない。

宮田家はきずなが薄いのである。おじいちゃんおばあちゃんを囲んで集合写真を撮るような、親戚一同和気あいあいという家系ではないのだ。

そもそも私自身が関西の実家を出て、東京で就職してから、ほとんど家に帰ったことがなかった。当時弟から、たまには顔を見せに帰ってやれ、と叱られたぐらいで、最近たまに帰るようになったのは、父が死んで以降、独り身の母を気遣ってのことである。

おそらくわが息子と娘も、一度家を出てしまったら、滅多なことでは姿を見せなくなるにちがいない。孫が生まれたら顔を見せに来るかもしれないが、結婚するかどうかもわからない。

そう考えると、どんどん寂しくなってきた。

いつかはそんな日が来ると思っていたけれど、もうあと1、2年というところにまで近づいていたのだ。

(後半につづく)

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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