パリ「シャルリー・エブド」襲撃事件で犯行声明を出した「アラビア半島のアルカーイダ」。ナイジェリア北東部を拠点に大規模な誘拐やテロを繰り返す「ボコ・ハラム」。そして9・11の「アルカーイダ」。これらはみな、「イスラム過激派」の組織です。
イスラム過激派とは、テロ、殺人、誘拐など、文字通り過激な手段を用いて行動するイスラム教徒のグループのこと。
「イスラム国」も「イスラム過激派」の一組織、それも比較的新しい組織です。この新興勢力が、なぜ短期間のうちに、世界中に脅威を与える存在になってしまったのでしょうか。そこにはイスラム過激派組織の、驚くべき拡大方式が……。
幻冬舎新書新刊『イスラム国の野望』(高橋和夫著)のなかから、1月30日の発売に先がけて、一部を公開します。
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イスラム国の最高指導者は、バグダディ(アブー・バクル・アル=バグダディ)という人物です。もともとバグダディは、イラクでアメリカの占領に反対する運動をしていました。
その運動にシリアから多くの人が参加し、シリアでも運動が活発化しました。その結果、イスラム国はシリア内戦で力をつけ、再びイラクに帰ってきたという経緯です。
やることがあまりに過激なため、イスラム過激派の代表格であるアルカーイダに破門されたという過去があります。アルカーイダは、バグダディ一派の活動すべてを否定していたわけではありませんが、自分たちと宗派が異なるシーア派というだけの理由でアラブ人を殺害したり、その映像を公開したりといった行動は、アルカーイダとしても、やはり目に余るものでした。
アルカーイダとは、後でもお話ししますが、アメリカ同時多発テロ事件を主導したイスラム過激派組織です。アルカーイダという組織は、言ってみればフランチャイズ方式をとっており、ある地域で独占代理店のような組織を決めたら、その組織のみが活動をするという方式で動いてきました。シリアでアルカーイダが代理店として認めたのはヌスラ戦線という組織で、バグダディ一派にもその命令に従うよう命じたのですが、彼らはそれに従わず、独自路線を走り始めてしまいました。
過激派の重要な資金源のひとつは、寄付金です。この点は、人道支援団体と似たところがあり、支援者からお金と人を集めて、集団を強化します。アラブの産油国には、自ら活動に加わらないまでも、彼らの主張に共感を寄せ、その活動を支援する富裕層がいます。
資金を集めるためには、やはりブランド力が必要です。これまではアルカーイダというブランド力をつければ、お金も人も集まっていました。しかし、最近アルカーイダは「仕事」をしていません。つまり、テロに成功していないわけです。
そうなるとブランド力が低下しますので、当然、独自ブランドを立ち上げようという勢力が登場します。そして、そのような勢力地図を見ながら、できるだけ費用対効果の大きい資金援助をしようと考える富裕層の中には、ちょっと目立ってきた新興勢力を支援する人が現れます。バグダディ一派はそうやってブランド力を向上させ、ついにイスラム国として、大々的に自分たちの暖簾(のれん)を出したというわけです。
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イスラム国の内情や、イスラム過激派のねらいなどについては、1月30日発売の本書で。