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あなたの給料が上がらない本当の理由 日本資本主義の正体

2015.02.27 公開 ポスト

第1回 あなたの給料はなぜ上がらないのか?中野雅至

 

ちょっと前の日経新聞夕刊を読んでいて、あれっ?と思う見出しがありました。夕刊1面トップの記事で、一番大きい見出しは「賃金4年ぶり増 14年0.8%」。その左に小さい見出しで「物価上昇で実質は2.5%減」。
 実質では減少しているって、つまり、私たちの給料が下がっているということ?
そっちのほうが大事な話で、そっちが大きな見出しになるべきなんじゃないの?
 景気は悪いより良いほうがいいのはもちろんですし、株価も低いよりは高いほうがよさそうです。でも私たちサラリーマンにとってともかく重要なのは、私たちのお給料がこれからどうなるのか、ということ。
 新聞・テレビだけではなかなかわからない「本当のところ」を、バシっと説明してくれるのが、1月30日に発売になった神戸学院大学教授・中野雅至先生の『日本資本主義の正体』。これから全3回にわたって、本の読みどころを抜粋してご紹介します。
 第1回目は、多くの人が抱いている素朴な疑問についてです。

◇ ◇ ◇

「どうしてこんなに一生懸命に働いているのに、私の給料は安いんでしょうか?」という質問をよく受けます。特に、肉体労働の関係者が多いです。この実感は極めて正しい。
あなた自身はどうでしょうか? 自分の給料をどう評価しているでしょうか? アベノミクスで景気回復と言われているにもかかわらず、どうも上がっていない。そう思っている人が大半なはずです。

アベノミクスで株価上昇とマスコミは大騒ぎし、百貨店では高級品が売れている。同質性の高い日本社会では、こういう状況になってくると「そんなに景気が良いのか?」と疑問は差し挟みにくい。ただ、株価と自分の生活には何の関係もないというのが大半の人の本音だと思います。
 

国税庁の給与実態調査によると、バブル経済崩壊後、平均給与は年々減り続けています。給与のピークは平成9年の467万円で、それ以来ずっと給料は減り続けているのです。アベノミクスや大企業を中心とした賃上げもあって、直近の平成25年に関しては前年より5万円増えて413万円になっていますが、それでもピーク時にはほど遠いのが現状です。

「本当に前年に比べて給料は上がっているの?」と疑問に思う人が多いのは、円安や消費増税で物価が上がっているからです。所得が少し増える一方で、物価がそれ以上に上がればカネの価値は目減りするだけです。月給が5000円上がったとしても、ラーメンが600円から800円に値上がれば何の意味もないわけです。

実質賃金(名目賃金を物価でわったもの)は見事な右肩下がり。つまり、実際にあなたは経済的に豊かになるどころか貧しくなっているのです。マスコミ、市場や企業の影響を真に受けている自称エコノミストが「株価が上がった」と唸っていますが、庶民の生活は逆に苦しくなっているのが現状です。

給料が増えない大きな要因は、資本主義というシステムにあります。簡潔にいうと、労働者や労働力は単なる商品にすぎず、資本主義というシステムで生きている限り労働者は搾取されるのが宿命であるからです。

考え方としては、コンビニで売られているおにぎりと同じです。企業のトップは、おにぎりの値段、ラインナップを決められる権利があります。それに置き換えると、あなたが経営者や株主(以下「資本家」と呼ぶ)に使われる立場である限り、あなたの労働は商品であり、赤字が続けば人員を減らしたり給与を下げられることもある。一時的に利益が上がっても還元されないというのは、搾取されていると言ってよいでしょう。

しかも、今の日本の資本主義は労働者を搾取しやすい構造になっています。労働者は搾取されるべくして搾取されている。そんな当たり前のことにさえ気づいていないだけなのです。
世間には様々な職業があります。もらっている給料もそれぞれですが、給料の高低は偶然ではなく、少ない給料にはそれなりの理由があります。つまり、決してあなたの努力が足りないのではなく、構造的な問題だということです。

まず、自分の給料が増えない本質的な理由を知るべきです。その理由を知らない限り、どんな努力も無駄になってしまいます。しかも、日本は欧米と違った独特の資本主義ですから、そのことをしっかりと考える必要があります。
日本の資本主義は労働者を洗脳して搾取するシステムです。アメリカのように上位1%の人間が多くの富を搾取するわかりやすい強欲資本主義でないため、誰が誰から搾取しているのかがわかりにくいのです。

実際、アメリカでは金融業や株取引で大儲けしている上位1%に対する「反ウォールストリートデモ」が起こっていますが、日本では富裕層に対するデモなど起こっていません。それどころか、昨今の大金持ちはメディアに頻繁に出てきて、国民大多数から支持されているくらいです。なぜ、デモが起きないのか? それは、日本の資本主義システムは私たちが気づかぬほど複雑でわかりにくいということです。その謎解きをすることで、あなたの給料がなぜ増えないのかを解明するのが本書の目的です。

本書を読んでもらえれば、給料が増えない理由がよくわかります。逆に言うと、それさえわかれば、どうすれば給料が増えるのかも見えてくるはずです。
 

*****

次回はホワイトカラーエグゼンプションを紐解きます。第2回 諸悪の根源・サービス残業が合法化される? はこちらから。

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中野雅至

1964年奈良県大和郡山市生まれ。同志社大学卒業後、90年旧労働省入省。厚生労働省大臣官房国際課課長補佐(ILO条約担当)等を経て、2004年から兵庫県立大学大学院・応用情報科学研究科准教授、10年から教授、14年から神戸学院大学現代社会学部教授。経済学博士。『雇用危機をどう乗り越えるか』(ソフトバンク新書)、『ニッポンの規制と雇用 働き方を選べない国』(光文社新書)など。

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