日本のゲームは、スペースインベーダーやドラクエに始まりWiiに至るまで、初心者もマニアも共に熱中させることのできる世界でも稀有な存在。このゲーム制作のノウハウを体系化したのが「ゲームニクス理論」です。
あらゆる分野に応用できる日本発の「おもてなしの知恵」で日本製品の魅力を見つめなおす、サイトウ・アキヒロ著『ゲームニクスとは何か』。その一部をダイジェスト版でお届けします。(全5回)
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前回の「ゲームクリエイターが教える、人を夢中にさせる技術」で、ゲームニクス理論には実現したい2つの大きな目的があることを説明しました。理論を体系化していくうえで、この目的を明確に持つことは、非常に重要なことなのです。
ここからは、この2つの目的を「実現」するために何が必要なのかを考えればいいわけです。私はそこで、そのために必要なものを次の4つの原則に分け、それぞれを具体的な「技術」として考えてみることにしました。
簡単に「ゲームニクスは、次の4つの大きな原則で構成されている」と思っていただければいいわけです。
第一原則 直感的なユーザー・インターフェイス(=使いやすさの追求)
第二原則 マニュアルなしでルールを理解してもらう(=何をすればいいのか迷わない仕組み)
第三原則 はまる演出と段階的な学習効果(=熱中させる工夫)
第四原則 ゲームの外部化(=現実とリンクさせて、リアルに感じさせる)
という4つです。
ヒットするゲームには、見事にこの四原則がバランスよく盛り込まれています。次の章で紹介する、任天堂の「Wii」や「DS」もこの原則を見事に生かしています。
ここでは、ファミリーコンピュータ時代の名作ゲームをとりあげながら、この四原則が具体的にどのように適用されているか読み解いていきましょう。
「ヒットするのは、必然だった」ということを、納得していただけるでしょう。
第一原則「直感的なユーザー・インターフェイス」
~スペースインベーダーで読み解く
「直感的なユーザー・インターフェイス」というと、なんだか難しい印象がありますが、つまりこれは簡単に言うと、「使いやすい」ということです。
これを理解していただくのに、ちょっと昔のゲームの話を引用してみましょう。
ファミコンのヒットはゼロから生まれたわけではありません。その先駆けとして社会現象を巻き起こし、日本にテレビゲーム産業が生まれる契機となったゲームがありました。業務用のテレビゲーム「スペースインベーダー」です。
このゲームは世界的なヒットとなりました。これは、プログラムによって繊細な調整が可能になった、日本で最初のゲームです。「ゲーム作りにおいて繊細な調整が可能になった」時点で、テレビゲームの主導権がアメリカから日本に移動したことを象徴している作品であり、当時の大ブームは40代以上の方ならばよく憶えていらっしゃると思います。
このゲームは、「どのようにして遊ぶものなのか」を直感的に理解させる作品としてもよくできていました。
「スペースインベーダー」の筐体(きょうたい)には、左右に傾けて操作する二方向式のジョイスティック(レバー)と、ボタンが1つ配置されています。ゲームの目的は画面下にある砲台を操作して、画面上のインベーダーをすべて破壊することです。
ゲームを開始すると、インベーダーはこちらに向かって弾を発射しながら、じわじわと近づいてきます。そう、本ゲームは世界初の「敵キャラクターが攻撃を仕掛けてくるゲーム」でもありました。
さて、このゲームはどのように遊べばいいのでしょうか?
答えは簡単ですね。ジョイスティックを左右に倒して砲台を動かし、敵の攻撃を避けながら、ボタンを押して弾を発射し、インベーダーを撃ち落とせばいいのです。
これを当たり前のことだと思わないでくださいね。何しろ、「スペースインベーダー」はほとんどの日本人が体験した、初めての本格的なテレビゲームだったのですから。
テレビ画面を誰もが自由に操作できる──。これはメディア史に残るくらい革命的な出来事でした。そんな時代だったからこそ「画面を見ただけで操作が分かる」ことが決定的に重要だったのです。
「スペースインベーダー」は、ゲーム機に100円を入れて遊ぶタイプの業務用テレビゲームです。にもかかわらず、思うように操作できずにゲームオーバーになったら、再度100円を入れたいと思う人はどれくらいいるでしょうか?
「たかが遊び」と思わないでください。「たかが遊び」だからこそ、ストレスなく操作できることが決定的に重要でした。
これこそ第一原則「直感的なユーザー・インターフェイス」の好例なのです。
第二原則「マニュアルなしでルールを理解してもらう」
~スーパーマリオで読み解く
続いて第二原則「マニュアルなしでルールを理解してもらう」について説明しましょう。これは、簡単にいえば「何をすればよいか迷わない」仕組みです。
ここではファミコンのヒットを決定づけた、名作アクションゲーム「スーパーマリオブラザーズ」(=スーパーマリオ)を例にとって説明します。
「マニュアルなしでルールを理解してもらう」というのは、ゲーム画面からだけではわからない、画面の奥に秘められたゲームのルールやシステムの理解まで、直感的に行わせる、ということです。
まず「スーパーマリオ」について良く知らない人のために、簡単にゲームの内容を紹介しましょう。
ゲームの目的は、主人公キャラクターのマリオを操作して、大魔王クッパにさらわれたピーチ姫を救出することです。
本ゲームでは、進むごとにゲーム画面がどんどん右側にスクロールしていきます。プレイヤーはマリオを操作して、敵キャラクターを避けながら、どんどん右側に進んでいきます。敵キャラクターは、上から飛び降りて踏みつけるなどして、倒すこともできます。
ステージのあちこちに配置されているアイテムを入手すると、マリオの体が大きくなって、一度のミスではやられなくなったり、火の玉を発射して敵キャラクターを攻撃できたりするようになります。ステージの右端にたどり着くとステージクリア。全36面あるステージを制覇すると、ゲームクリアです。
先ほどの「スペースインベーダー」と比べると、ずいぶん内容が複雑ですよね。裏ワザと呼ばれる秘密のテクニックや、ゲームクリア後に出現する裏ワールドなど、さまざまな謎や仕掛けも満載されています。まさに業務用テレビゲームでは実現できない、長時間遊ぶことを前提とした家庭用テレビゲームならではの、複雑で多様な内容を持った作品だったことが、大ヒットの秘密でした。
しかも、「スーパーマリオ」の非凡な点は、これらのルールが、ゲーム開始後のたった一分程度で理解できる点にありました。だからこそ世代や国境を越えて、大ヒットしたのです。
多様な遊びを実現している「スーパーマリオ」ですが、ゲームの基本アクションは、次の3要素にシンプルに集約されます。
①敵キャラクターを避けながら横(右)に移動し、一定時間以内にゴールをめざす。
②Aボタンを押してジャンプする。
③ブロックを壊してアイテムを入手する(アイテムを取るとマリオが大きくなったり、攻撃手段が増えたりする)。
これらの基本アクションが、ゲームを遊びながら自然に理解できるように、第1ステージの冒頭(なんと30秒~1分程度の間!)を工夫して、チュートリアル(操作方法の練習)的な要素をもたせているのです。
プレイヤーはこの短時間の間に、ほぼなにもしなくても、マニュアルを読まなくても、右に進むことを覚え、ブロックを壊してアイテムを取るということを理解していきます。まさしく、このゲームをする上で必要な基本アクションを自然と体験していることに、お気づきでしょうか? あの最初の面は非常によくできたチュートリアルとしての役割を果たしていたのです。
この基本となるルールやシステムが、遊びながら自然に理解できる点が、「スーパーマリオ」の優れた点だったのです。
※次回「ヒットは必然だ。ゲームニクス理論を支える四原則(中編)」は3月19日(木)更新予定です
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