日本のゲームは、スペースインベーダーやドラクエに始まりWiiに至るまで、初心者もマニアも共に熱中させることのできる世界でも稀有な存在。このゲーム制作のノウハウを体系化したのが「ゲームニクス理論」です。
あらゆる分野に応用できる日本発の「おもてなしの知恵」で日本製品の魅力を見つめなおす、サイトウ・アキヒロ著『ゲームニクスとは何か』。その一部をダイジェスト版でお届けします。(全5回)
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前回の「ヒットは必然だ。ゲームニクス理論を支える四原則(前編)」でご説明した第一原則は「使いやすい」をテーマにしていて、第二原則は「なにをすればよいか迷わない」をテーマにしていました。そして今回ご説明する第三原則はまさに、「熱中させる」ことをテーマにしています。この3つの原則が相互作用して「夢中にさせる」効果を生んでいきます。
第三原則「はまる演出」と「段階的な学習効果」
~ドラクエで読み解く
第三原則には2つの要素が含まれています。「はまる演出」と「学習効果」です。これには抜きがたい関連性があります。
「はまる演出」とは、アニメーションや効果音などの演出をリズミカルに用いて、プレイヤーを飽きさせない工夫や、ものを集めたりレベルアップしたりすることで、達成感を味わってもらう工夫のことを示します。
「学習効果」とは、ゲームの難易度を次第に上げたり、新しい要素を自分で発見させていくなどして、プレイヤーのやる気を自ら誘発させ、ゴールまで導くテクニックです。
「はまる演出」だけでは、プレイヤーはすぐに飽きてしまいますし、「学習効果」だけでは学校の勉強と同じです。
ところが、これらを組み合わせることで、プレイヤーを熱中させる、という効果が最大限に引き出されることになるのです。
これについては、ロールプレイングゲームの名作「ドラゴンクエストⅠ」(=ドラクエⅠ)を例にとって紹介しましょう。
「ドラクエⅠ」の目的は、自分の分身である「勇者」を操作して、魔物にさらわれたローラ姫を助け出し、魔物のボスである「竜王」を倒して世界に平和を取り戻すことです。最初は弱い勇者も、魔物と戦って経験を積むうちに、だんだん成長していき、ついには竜王と直接対峙(たいじ)できるほどになります。
しかし、ただ敵を倒すだけでは、竜王の元にはたどり着けません。そのためには街の人から得たさまざまな情報を元に、アイテムを集めて謎をとかねばなりません。この「探索」と「戦闘」の繰り返しで、ゲームは進んでいくのです。
ゲーム内容もシューティングやアクションではなく、じっくり進めるロールプレイングと呼ばれるスタイルです。それだけに、飽きずに進めさせる工夫が、よりいっそう必要になります。
さて、この「探索」と「戦闘」の繰り返しが、まさに先ほどの「はまる演出」に相当していることに、気づかれたでしょうか?
戦闘シーンは派手でおもしろいけど、そればかりでは単調です。探索シーンも知的好奇心をかきたてますが、地味な点は否めません。ところが「戦闘」と「探索」を交互に繰り返すことで、ゲームにメリハリがつき、飽きにくくなるのです。
しかも「ドラクエⅠ」では、戦闘モードと探索モードで、画面構成やテンポを変えたりするなどして、細かいメリハリをつけ、アクセントや変化を演出しています。
このようにゲームプレイを通して、「緊張」と「弛緩」をくりかえしながらゲームの全体を構成することで、総合的な「はまる演出」を生みだしているのです。
続いて「学習効果」の例を見てみましょう。
「ドラクエⅠ」は、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を題材にしており、プレイヤーは様々な呪文を使うことができます。
この時、プレイヤーが覚えやすいように、呪文の名称が体系づけられています。弱い回復呪文は「ホイミ」、中くらいの回復呪文は「ベホイミ」、強力な回復呪文は「ベホマ」という具合です。
この名称の変化のルールは、その他の呪文でも同じです。そのためプレイヤーは、新しい呪文を覚えても、今までの経験から感覚的に呪文の効果が理解できます。その結果、数多くの呪文を使いこなす楽しみが得られるのです。
ゲーム展開においても、優れた配慮がなされています。
ゲームの冒頭でプレイヤーは王様から3つの目的を提示されます。「竜王を倒すこと」「ローラ姫を救出すること」「光のたま(特殊なアイテム)を取り戻すこと」です。
さらに冒険を開始すると、すぐにフィールド上に最終目的地である「竜王の城」が表示されるのです。
しかし、実際には竜王の城とは海峡で阻まれ、世界をぐるっと一周しなければたどり着くことができません。
このように、ゲームを始めるとすぐにゴールが明確にされるのです。
一方で竜王の城に行くまでには、モンスターを倒してコツコツと経験値をため、レベルアップを繰り返す必要があります。「竜王を倒す」ことが最終的な「大目標」なら、レベルアップは、目先にある分かりやすい「小目標」です。
さらに、秘密の地下道を発見したり、強力なアイテムを入手したりするなど、フィールド上にはさまざまな謎や仕掛けが配置されています。これが「大目標」と「小目標」をつなぐ「中目標」の役目を果たします。
実は、この「中目標」がうまくできているのです。「大目標と小目標」は「〇〇をしろ」という具合に、一方的に提供される情報です。ところが「中目標」に関しては、プレイヤーが自分で設定するように仕組むのです。「次はこれをしよう」と自発的に考えてもらうのがミソです。これによって、何をしたらいいか迷うことなく、いかにもすべて自分で立てた目標に向かって進んでいるかのような感覚を持ってもらうのです。
この「小目標」「中目標」「大目標」の連鎖が絶妙に配置されているからこそ、プレイヤーは飽きずに、どんどんゲームにのめり込んでくれるのです。
もちろん、ある目標を達成するために必要なテクニックが、次の目標を達成する上で手助けになるといった具合に、個々の要素が学習効果を持つように配置されていることは、言うまでもありません。
※次回「ヒットは必然だ。ゲームニクス理論を支える四原則(後編)」は3月26日(木)更新予定です
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