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ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち

2015.04.04 公開 ポスト

最終回

ソーシャルメディアが呼び込む孤独高橋暁子(ITジャーナリスト、情報リテラシーアドバイザー)

SNSを避けて通れない現状とどう付き合っていくべきかを、元教員のITジャーナリストが独自の観点で解き明かす『ソーシャルメディア中毒』。その一部をダイジェスト版でお届けする、全5回の短期集中連載。

第3回では承認欲求の暴走、第4回ではネットへの依存と、SNSの負の面についてフォーカスを当ててきました。最終回となる今回は、“自己愛”という観点からSNSを改めて捉え直します。

*  *  *
 

 ツイッターにすべてを書き込む女子大生がいる。

 彼女のアカウントを見ていれば、それこそ何時の何両目の電車で学校に向かい、誰とどんなメニューのランチを食べて、どの教室で何の講義を受けたかまで手に取るように分かってしまう。それこそ遅刻したことや友達との喧嘩の原因、授業の愚痴まですべて書いてある。彼女のアカウントは、大学名も公開してあるし、アルファベットだが本名で利用している。人ごとながら心配になる使い方をしていたので、「名前を匿名にしたり、鍵をかけたりしたら?」とアドバイスしたが、あまり乗り気ではないらしかった。「それなら、せめて愚痴とか遅刻とかは書くのをやめたら?」と言ったところ、こう返事が来た。

「でも、息をするように書いてしまうんですよね。書かなきゃいられない」

 たとえ他人に見られると不利なことでも、彼女にとって実際にあったことは「書かねばならないこと」なのだ。彼女にとってはツイッターに書かなければ現実ではないし、自分で認識できず、自己としてとらえることができないのだ。

 このように、SNSに書いて誰かに見てもらわなければ自己認識、自己確認できない若者が増えている。ツイッターで見てくれている人は、彼女に一体何をしてくれるのだろう。一体誰に読ませたいのだろう。疑問が浮かぶが、彼女にとっては特定の人ではなく、不特定多数の誰かに読んでもらうことが大切らしい。

 このような話を聞くと、SNSは、承認欲求への飢餓をより加速させているのかもしれないと思う。彼女たちにとっては、不特定多数の見えない「他人の目」がすべてなのだ。

「ランチメイト症候群」をご存じだろうか。通称「便所飯」ともいわれ、学校や職場で一緒に食事をする友達がいないことに恐れを感じることを指す。

 一緒に食事をする人がいないということは、友人がいないということであり、友人がいない=魅力がない人間ということ。もし、一人で食事をしているところを周囲の人間に見られたら、友達がいない人間、つまり魅力がない人間だと思われてしまう。その瞬間、今まで築き上げた自分のポジションは崩壊してしまう、と彼らは考える。そこで、食事をする相手が見つけられない者は、トイレに隠れて一人で食べたり、食事自体を抜いたり、ひどい場合は退学してしまう者もいるという。

 しかし、一人で食事することはただ一人で食事したというだけのことであり、それ以上の意味はない。それ以上の意味は、頭の中で勝手に考えた妄想にすぎないのだ。

 ただ食事するだけの行為に意味を見いだし、他人の目を気にしすぎるあまり行動まで変えてしまうこの例は、まさにSNS上で見られる他人の目を気にしすぎる現象と同じといえるのではないだろうか。

 

自己愛の支配

「他人の目」の幻想は、人を支配する。それは、SNSの中でも同様だ。

 他人にどう思われるかによって自分の姿も変わる。他人の目に映る自分こそが自分だからだ。だからこそ、他人の目に映る自分を自分だと信じ、他人の目に映る自分になろうとし、理想以外の面を消し、理想の自己を演じるようになる人もいる。

 株式会社ジャストシステムの調査(2012年3月)によると、フェイスブックユーザーの7割がストレスを経験したことがあり、そのうち3割強が友人や知人のフェイスブック上での振る舞いに対し、違和感を抱いたことがあるという。

「無理に作っているような感じ」

「ネットと現実での振る舞いが全く違う」

「自分を良く見せようとしている」

「キャラを作っている」

 実際とは違う自分を演じる姿を見て、違和感を感じたというのだ。皆さんの中にも思い当たる人がいるのではないか。実際に、自分を良く見せようと演じ続けているうちに、理想の自分を本当の自分と思い込んだり、本来の自分を受け入れられなくなったりするケースもある。

「自己愛性パーソナリティ障害」というものがある。

 過剰に自分を素晴らしく特別な存在としてとらえる、パーソナリティ障害のひとつだ。米国では、きずな依存(ソーシャルメディア依存)の症状を、自己愛性パーソナリティ障害と比較した研究もある。

 自己愛性パーソナリティ障害には、次のような特徴があるという。

・自分を過剰に価値ある存在としてとらえる
・自らを特別な存在であると考えている
・理想的な愛や成功を夢見る傾向がある
・過剰な賞賛を求める
・人間関係において高慢な態度をとり、他人を自分のために利用する
・他人への共感力に乏しい

 多くの人が多少なりとも覚えがあるだろう。自己愛は誰にでもあるものだからだが、SNSはこの自己愛性パーソナリティ障害を悪化させる可能性があると指摘されている。SNSによって、このパーソナリティ障害の特徴がさらに強められる可能性があるからだ。

 他人の目に映る自分であろうとあがき、自らも信じた時、本当の自分は一体どこにいるのだろうか?

 

「求められるキャラ」を演じる子どもたち

 ここまでSNSの負の面にフォーカスを当ててきたが、もちろん、この人とつながるためのツールが単純に悪いというわけではない。SNSがあるおかげで、バランスがとれている子もいる。

 たとえば、中学2年生のE美は複数のアカウントで顔を使い分けている。

「普段は元気キャラ。グループに元気キャラがいなかったから、自分がやることにした。でも元気キャラでい続けるのは疲れるし、ネガティブになることもある。だから、SNSで本音を言ってる。本音が言えるのはSNSの友達だけ。アカウントは4つ使い分けている」

 このように、リアルの場では本音が言えず、ネットの中でだけ本音を言ってバランスをとっている例も多い。理由を聞くと、こんな答えが返って来た。

「クラスの友達に本音を言うと、他の人に知られてしまったり、面倒くさいことになるかもしれない。本音を言ってクラスに居場所がなくなると困る。でも、ネットなら匿名で言いたいことが言える。人間関係がこじれたら、匿名なら関係を切ることができるけれど、リアルはそうではない。だからリアルは気を遣う」

 E美の場合は、リアルで出せない素の顔をSNSで出してバランスをとっていたが、逆にリアルでは素の顔が出せるけれどSNSでは求められるキャラを演じてしまう、という子もいる。そのような子の場合は、SNSで「リア充」などを演じて疲れてしまうのだ。

 彼女たちは他人の期待に応えようとする。求められるキャラクターをリアルやSNSで演じ続けるため、疲れてしまうのだ。まさに第2回「“1”か“0”かの人間関係」で触れた役割演技といえるだろう。

 求められる役割通りの人はいないし、演じ続けると心身のバランスが崩れてしまうのは当然のことだ。本来なら、素の姿は家族や友達に見せてバランスをとるものだ。しかし、そのようなことができないと、本音や素の自分を出せず、バランスを崩して孤独に陥ってしまうことになる。SNSの利用が元で起きている心身の弊害も、原因は人間関係そのものにあるのだ。

 

※本連載は今回で終了です。興味を持たれた方は是非、書籍版『ソーシャルメディア中毒』をお求めください。

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ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち

全国でネット依存の可能性がある人は421万人、中高生は10人に一人といわれています。ミクシィの誕生から10年。SNSはコミュニケーションインフラと化した一方で、若者を中心に問題が後を絶ちません。なぜ事件は頻発するのか、なぜ依存してしまうのか。その危険性と不自由さを暴くと共に、SNSを避けて通れない現状とどう付き合っていくべきかを、元教員のITジャーナリストが独自の観点で解き明かす『ソーシャルメディア中毒』。その一部をダイジェスト版でお届けします。(全5回)

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高橋暁子 ITジャーナリスト、情報リテラシーアドバイザー

元小学校教員で、Facebook・Twitter・LINEなどのSNS、子どものネット・スマホの安全利用や情報モラル教育に詳しい。書籍・雑誌・Webメディアへの執筆のほか、学校での講演、社会人向けのセミナー、企業コンサルタント、テレビやラジオへのメディア出演など、活動は多岐にわたる。『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)、『ソーシャルメディアを武器にするための10カ条』(マイナビ新書、共著)など著書多数。

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