サーバルームでなんとか脱出を試みようとしている神谷たち。お台場の本社で状況を知った夏木理沙は、タクシーに飛び乗った。神谷たちが閉じ込められたデータセンタに行っても、何もできないことはわかっている。犯人の言う爆破時間までに、そこに着けるかどうかもわからない。しかし、ただ会社で時間が立つのを待つ気には到底なれなかった。
理沙はタクシーで首都高速湾岸線を飛ばしていた。
カーナビには、残り一時間半と書かれている。
行ったところでどうにかなるものでもないだろうが、じっとしている気には、とてもなれない。
何度も電話して、ようやく霞が関の監視チームにつながったものの、まったく頼りになりそうになかった。
現地の状況は、まるきり把握できていないらしい。
〈監視カメラには何も映ってないんですか〉
〈映っていません〉
〈そんなはずありません。うちの社員が、サーバルームに閉じ込められてるって連絡してきてるんです〉
〈ええと、こっちからは、クラウドエリアの状況しか見えないんですよ。ロックの解除もできませんし……〉
〈現場に人を送って、ドアをこじあけるとか、何かできないんですか〉
〈そういうことはできません。私たちはあくまで、クラウドを監視するチームですから……〉
〈それじゃあ、ビルの管理会社の連絡先を教えてください〉
〈それはこちらでは把握していなくて……現地に電話してるんですが、連絡がつかないんです〉
まるで他人事(ひとごと)だった。
そんなこんなで、理沙は会社までタクシーを呼び出し、飛び乗ったのだ。
自分でどうにもならない時間は、何ともイライラするものだ。
理沙は爪を噛んだ。
「すみません、もう少し急げませんか?」
理沙は、首を伸ばして、運転手に尋ねる。
「十分スピードは出してるんだけどね」
言いながらも、運転手はアクセルを踏み込んだ。
何があったのだろうと、ちらちらとこちらの顔をうかがっているようだが、気にしている場合ではない。人の命がかかっているかもしれないのだ。
銃か何かを突きつけられて、真っ青になって震えている神谷の姿が脳裏に浮かぶ。
神谷は暴力に対しては、からきし弱い。
いや、暴力だけではない。以前、職場にゴキブリが現れただけで失神しそうになっていた。
その時の神谷の顔を思い出すと、理沙は今の状況も忘れて笑い出しそうになる。
今ごろ恐怖のあまり気を失っているのではないだろうか?
ただ、神谷は思いがけないところで力を発揮することもあるのだ。
それに粘り強い。
誰もが無理だと思う場面でも、あきらめない。無理ですよと言いながら、結局やってのけたりする。
今回のことにしたって、電話も通じないサーバルームに閉じ込められている状況が分かったのは、神谷の機転のお蔭だ。
どうか無事でいますようにと心の中で祈りながら、理沙は道路の行く手を見つめた。
ーー神谷たちは無事に脱出できるのか? 閉じ込められたサーバルームで急にした物音は? 犯人の本当の目的は? 続きはぜひ本編でお楽しみください!
*本作はフィクションで、登場人物、団体等、実在のものとは一切関係ありません。
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