アメリカのあの大都会をモチーフにしたカクテル、ニューヨーク。そのほんのりと紅い色から、甘口の優しい風味を想像しがちだが、その実、かなりヘビィな酒である。
ベースのウイスキーに、ライム果汁、グレナデン(ざくろ)・シロップ、そして砂糖をほんの少々加え、よくシェーク。これをカクテル・グラスに注ぎ、最後にオレンジ・ピールを絞りかけて仕上げる。
ニューヨークがモチーフと聞くと、いかにも新しいカクテルのように感じるが、これがけっこう古い。20世紀の初頭には、すでに誕生していたらしい。そして、あの禁酒法(1920年~1933年)の頃にはスピーキージー、つまりもぐりの酒場で、ずいぶんと飲まれていたようである。
なんでも当時のニューヨークには、もぐり酒場が3万軒以上もあったというから驚く。椅子もテーブルもない小さな酒場から、デューク・エリントンのフルバンドが入っていたあのコットン・クラブのような豪華な店まであって、派手に商売をしていたという。
古いカクテル・ブックの中には、ベースのウイスキーをカナディアン・クラブと指定してあるものがある。これは禁酒法時代、ウイスキーは、カナダからミシガン湖を抜けて密輸されたものを使用していたことの証明でもある。つまり、粗悪なウイスキーが氾濫していた時代、それらを使うことはまかりならんということで、どうやら当時は、ニューヨークは上等なカクテルだったようだ。
そんなことを思いつつ、淡い紅色が艶っぽいニューヨークを見ていると、バンド演奏の「A列車で行こう」にのって、チャールストンを踊る美女たちが目に浮かんでくる。金髪のボブ・ヘアに短いドレスで、むき出しの脚をリズミカルに跳ね上げて踊るチャールストン。ひょっとして、あの美女たちをモチーフに、高級スピーキージーで生まれた酒かも……。そんなことも想像させる粋で洒落たニューヨークである。
撮影強力 : 3rdラジオ (03-3402-2668)
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※本連載は旧Webサイト(Webマガジン幻冬舎)からの移行コンテンツです。幻冬舎plusでは2000/11/01から2001/01/15までの掲載となっております。