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教科書のない仕事の教科書をつくる

2015.04.09 公開 ポスト

『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』発売に寄せて

感覚を捨て、「数値」で表現するから、対象がよく見える
坂口孝則

4月9日に『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』を発売する坂口孝則さんは、本書のなかで、「自分だけの仕事の教科書」を作るために、先輩の打ち合わせを録音して質問の回数、タイミングを数えたり、資料作りのうまい先輩の資料を定規で測ったりしたエピソードを紹介してくださっています。なぜ、坂口さんがそこまで「数値」にこだわるのか? 定量化された「数値」の魅力とはなんなのか? その秘密を教えてくださいました。

分析という魅力

2012年5月27日。よみうりホールの片隅に座っていたぼくは衝撃を受けた。平成ノブシコブシ「御コント」で繰り広げられるお笑いライブがあまりに面白かった。これまでお金を払ったライブのなかでもっとも笑ったと思う。しかも、平成ノブシコブシの二人(吉村崇さん、徳井健太さん)は、ボケとツッコミを交互に入れ替えて開始直後から終演まで、観客を休ませずに盛り上げ続けた。すげえ。DVD発売とともにすぐさま買ってみた。

きっと、ここまではファンならやるだろう。でも、ぼくはノートを片手に観ていた。平成ノブシコブシの吉村さんと徳井さんは、それぞれ何回くらいお客を笑わせたんだろう。計測してみた。2時間で合計310回の笑いが起きたけれど、吉村さん192回(61.9%)、徳井さん118回(38.1%)だった。ぼくはこれを調べて何をしようとしたんだろう。いや、実に単に知りたかっただけだ。しかし運命とは面白いもので、平成ノブシコブシのお二人の前に立って、平成ノブシコブシ論をプレゼンする機会があった(日本テレビ『天才コンサル集団プラマイ』)。吉村さんは笑ってくれ、携帯番号まで交換してくれた。

 
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ある日、梅棹忠夫さんの『知的生産の技術』を読んでいた。梅棹さんは、漢字を減らすことを提唱なさっていて、古典と思えないほどひらがなが多い。なるほど、文章の読みやすさとは、感覚的ではなく、漢字量を把握すればいいのか。それならば定量的に評価できる。

しかし、問題は、梅棹さんの文章は、その提案が先進的すぎたゆえか、漢字が少なすぎて読みにくく感じた。するとあるとき、ぼくの大学の先輩でもある山田真哉さん(公認会計士)がラジオで、文章を書くときに漢字の目安は30%だ、とおっしゃっていた。驚いた。自分とおなじことを考えているひとがいたんだ。ぼくは、ベストセラーとなった本を買ってきて、それを裁断した。スキャニングしてOCR(文字認識ソフト)にかけた。さらにこのために、VBA(Visual Basic for Applications)というマイクロソフトオフィスのプログラムを勉強した。余談だけれど、ワードのVBAを指南する書籍はほとんどなくて、海外から取り寄せた。そして自作の「ひらがな抹消プログラム」にかけた。その結果、漢字比率を25~28%に抑えればいいとわかった。

ちなみに、文字にたいする漢字比率を測ってもいいけれど、改行が多かったり、空白が多かったりする場合は、漢字が多くてもさほど読みやすさに変化がないともわかった。だから、まず、その書籍が1ページあたり、縦何文字×横何文字かを計算し、そのなかに何文字の漢字が存在するかを試算すればいい。

この分析は、あくまで自分が知りたいゆえにやった。しかし、これまた運命とは面白いもので、分析していたお一人のうち、『週末起業』(ちくま新書)で有名な藤井孝一さんから講演を依頼されたことがあった。仕事術を講演せよ、とのことだったから、ぼくは迷わずに、藤井さんの文章分析結果を出した。そして、ぼくはかねてより、図で黄色塗りしている書籍が面白いと思っていたのだが、その漢字比率を説明した。

そして余計なことに「ぼくならば、藤井さんの文章をより読みやすくできます」といった。

会場は爆笑し、藤井さんは苦笑してくれた。「こんなことされたの、はじめてだ」と。それ以降、ぼくと藤井さんの交流は続いている。


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あるとき、お笑い論を聞いた。現在は視聴者の時間がない。テレビを見る時間は減少しているし、一瞬で笑わせないとそっぽを向かれる。チャンネルは変えられてしまう。だから、ドカンというお笑いではなく、お笑いはネタが小物になっていき、刻むようになる。

なるほどね。でも、ほんとうなんだろうか。ぼくはすぐに納得しないので、調べてみた。題材は、M1グランプリだ。前述の平成ノブシコブシの調査は、どちらが笑わせているかを見たものだった。今回は、小刻みな笑いを重ねているか調査した。そこで、笑いの種類を二通りにわけた。「大笑」は、会場のほとんどのひとが笑っているもの。それ以外は「小笑」とした。さて、ここではM1グランプリでの優勝者のラスト漫才を使ってみた。

はたして、小刻みになっているのだろうか。

ううん? え? そうだな……。小刻みどころか、むしろお笑い総数は減っている気がするんですけれど……。もちろん、これはM1のラスト漫才をサンプルにしたにすぎない。ネタ番組とかでは違った結果かもしれない。だけれど、漫才全般の傾向として"小刻み化"はいえないのではなかろうか。

ぼくは上岡龍太郎さんに心酔していたものだが、上岡さんは「ドラマは最近になればなるほど、タイトルが長い」とおっしゃっていた。上岡さんによると、"湯けむり殺人、女子大生が殺され、謎の美女が事件の鍵を握る"というように、視聴者が馬鹿になるにつれて、すべてを説明したタイトルになるというのだ。ただ、2時間ドラマシリーズのタイトルを連綿と見てみたが、その傾向を確認できなかった。もちろん、上岡さんのテレビ批評は鋭く、これにより鬼才の評価がぼくのなかでさがるものではない。ただ、尊敬するひとのコメントであっても、いや尊敬するからこそ検証する価値があるんじゃないかな。


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むかし、ぼくの尊敬する岡本吏郎さんの講義を聴いていると、「measurement(計測する)」ってのと「money(お金)」の語源はおなじだ、とおっしゃっていた。この真意はわからない。でも、この二つの語源がおなじだとしたら、それはなんだか示唆的だ。ぼくたちは、ほとんど感覚のなかで生きている。楽しい、悲しい、面白い、つまらない、上手くいった、上手くいかなかった……。でもそれって、"なんとなく"以上のものではない。

ぼくは、できるだけ感覚を捨てて、それを数値で表現したい。そして、なんらかの数値で「measurement(計測する)」のを通じて、対象をありのままに見る。ありのままに見るのが難しい。でも、そうすれば、他人とは違った観点から対象を分析でき、他人とは違った観点から改善策を導けると思うんだ。そうすれば、改善のメリットを享受できるし、それが自分や自社の利益=「money(お金)」につながっていくんだろう。

ぼくは「仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。」という本を出す。これは、ぼくが仕事を通じてどんな分析をやってきたか、そして、どう分析すればいいかを述べたものだ。「プレゼンの上手い人は、何文字で資料を作り、何分喋るのか?」「文章が上手い人は、一つの文章にメッセージをいくつ入れるのか?」「営業が上手い人は、一ヶ月に何回顧客に会いに行くのか?」「講演が上手い人は、何パターンネタを持っているのか?」。異常なほど数にこだわった、そして、細部にこだわった業務録でもある。同書では、ビジネスの現場で、すぐさま役立つ分析思考術・業務分析術をすべて書いた。

きっと面白いと思う。すくなくとも、笑ってしまうと思う。


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いや、やっぱり正直にいっておかねばならない。そもそも分析したら、仕事に役立つんじゃないかって思っていたわけじゃない。ただ、とりあえず分析をやるのが好きだったし、まずはなんでも測ってみるかと思ったにすぎない。

ぼくの本業はコンサルタントだ。前述したような、お笑い分析や文章分析などは本業とは無関係で、いわゆる余技でやっていたにすぎない。ただし、書いたとおり、不思議なもので、これを披瀝する機会に恵まれた。ぼくはこの他にも、本業に無関係な多くの分析をしているが、それを公開できる日があるかもしれない。いまから愉しみだ。

いや、非科学的なことをいうと、分析したのちに脳がそれを有効活用しようと動き出すのかもしれない。分析した対象になんらかの形で触れ合っているので、将来予想としても、そう記しておこう。

という意味でいえば、ぼくは「プレゼンの上手い人は、何文字で資料を作り、何分喋るのか?」において、小田嶋隆さんや、橘玲さん、永井均さんといった作家がたの文体模写もしておいた。もしお会いできる機会があれば、どのように分析したかをお伝えしようと思う。怒られなきゃいいが。

なにかを測る人間は、あらゆる事象をふくめて、いやこれまで自分が正しいと思っていた考え方に関しても、ついには信じられないかもしれないし、テレビや雑誌で流布される"俗説"を信じられないかもしれない。これはかなり苦しい(考えてみるに、流布している"俗説"をそのまま信じる素直さは生きやすさにつながるだろう!)。ただ、なにかを測る人間は、何かの事象を見たときに、その価値の奥側にある"誰も気づいていない法則性"に、途方もない価値を感じ、ふるえるだろう。

その法則が事実であれ、究極的な意味で間違っていたのであれ、自らが得た仮説と、仮説を考えついた偶然性に自分の存在する理由を発見するだろう。

見ているものは誰でも同じだが、自分だけ理解しているものがある、という愉悦がすべての仕事の力になる可能性がある。いや、それ以外の可能性を、すくなくともぼくは、もはや信じることができない。

 

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教科書のない仕事の教科書をつくる

ぼくは仕事をゲームと考えている。与えられた条件をもとに、いかに効率的にこなし、効果的に結果を残していくか。
では、ゲームをクリアしているひとたちは、他のひとたちと何が違うんだろうか。それは攻略法を知っているかどうかにあるはずだ。
本連載では、モチベーションややる気に左右されない誰にも使える具体的かつ定量的な攻略法を探っていく。

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坂口孝則

1978年生まれ。調達・購買コンサルタント、未来調達研究所株式会社所属、講演家。大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』『稼ぐ人は思い込みを捨てる。』(小社刊)、『製造業の現場バイヤーが教える調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。

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