「嫉妬がやめられないんです」
と、喫茶店でいきなり目の前に座った女は言った。
私はパソコンで仕事をしていた手を止めて、じっと相手を見た。
額の生え際の薄い、白い顔の女だった。両手を机の上に置き、握りしめながらこちらを見ている。額縁の細い絵のように、印象の薄い顔だ、と思った。
「これまでいろいろな職場を転々としてきたんです。その度に、そこにいる誰かに嫉妬してうまくいかなくなりました」
女は一息、息を吸い込むといきなりまくしたてた。
「最初の職場では、上司のお気に入りの同僚の女性Aさんに。次の職場では、仕事が早くて出世も見込まれているBさんに。最後の職場はパン工場でした。そこでも私は、ソーセージをパンに挟むのがうまいCさんに嫉妬しました。私の持ち場は揚げパンに砂糖をまぶすパートにもかかわらず、なぜかソーセージをうまく挟むCさんが褒められているだけで羨ましくてたまらない。気がついたら私は、嫉妬する醜い自分が嫌で仕事を辞めていました」
見た目からは想像できない激しさだった。女の目がどんどんつり上がる。話しながら興奮したのか、女の唾が飛び散って、テーブルの上のメニューに沁みを作る。…
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