働く単身女性の3人に1人が年収114万未満。――2014年1月27日に放送されたNHKクローズアップ現代「あしたが見えない~深刻化する”若年女性”の貧困」と、その続編として同年4月27日に放送されたNHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困~”新たな連鎖”の衝撃」は大変大きな反響を呼びました。
その後、日本社会の将来を左右する深刻な事態として認識されるようになった「女性の貧困」問題の、最初の一石を投じた2本の番組に、取材しながらオンエアできなかった内容や、登場した女性たちのその後などを盛り込んで書籍化したのが『女性たちの貧困』です。
本書の担当編集者は、原稿を読みながら、「これが現代の日本で起きていることなのか」と驚き、怒り、たびたび絶望的な気持ちになりました。でも、私たち一人ひとりにできることは、できれば目を背けたい現実をまず知ることだと考えます。
全6回のダイジェストでお届けする『女性たちの貧困』。第3回目は第3章「『母一人』で生きる困難」から、待機児童問題に苦しむ沙織さんの話です。
前回の記事:第2回「息子との食費は月に2万円──非正規シングルマザー茜さん・29歳」
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様々なシングルマザーの話を聞くために訪ね歩くうちに、待機児童問題に直結する「子どもを保育園に入れることができなかった」女性にも話を聞くことになった。関係者に取材をする中で、シングルマザーであっても保育園に入れられない場合があるとは聞いていた。仕事に子育てに一人奮闘するシングルマザーの子どもが保育園に入れないとは、本当に驚きで、かつ待機児童問題の根深さを感じざるを得なかった。
2歳の女の子を一人で育てる29歳の古川沙織さん(仮名)は、2014年1月に、東北地方のある町から東京郊外の町に引っ越してきた。元々は関東で結婚をし、管理栄養士をしながら子どもをもうけて、夫と3人で暮らしていた。しかし、夫の性風俗店通いに嫌気が差し、ほどなくして離婚。その後、東北の両親のもとに娘と共に身を寄せたが、栄養士の資格を生かす仕事がなく、もう一度仕事を探そうと上京してきたのだった。
沙織さんは、東北ではドラッグストアでパートの仕事をしていた。子どもを保育園に入れることができなかったことが上京のもう一つの理由だと語った。保育園へ入園の希望を出してはいたものの、パートの仕事をしながら両親と同居しているという状況では、順番は回ってこず、入園待機となったのだ。両親とも仕事をしていたため、沙織さんが子どもの面倒を見なければならない。そのため、パートの仕事の時間を増やして収入を増やすことができず、子育てに忙殺される毎日だった。このままでは来年度も娘を保育園に入れることができず、栄養士の仕事もできず、パートの仕事をこなす日々が続くだけだと焦りを感じて、沙織さんは東京で娘と2人、生活をしようと覚悟を決めた。
娘と共に東京に越してきた沙織さん。栄養士の専門学校時代の友人のつてで、中学校の調理員の職をなんとか得ることができた。勤務時間は朝7時から夕方4時、収入は手取りで月12万円ほどだ。元夫から毎月3万円の養育費も受け取っているため、児童扶養手当などを合わせると月20万円ほどで暮らしていくことができる。
しかし、娘を認可保育園に入れることは東京でもやはりかなわなかった。そのため、私立保育園やNPOでの一時保育、ひとり親家庭ホームヘルプサービス事業、ファミリー・サポート・センター事業などを組み合わせながら、東京で暮らしていくことになった。かかる保育料は全部でおよそ6万円。認可保育園に預けるよりもはるかに多い出費だ。
ただでさえ、ストレスがかかる新たな土地での生活。東京に来た目的の一つであった娘を保育園に入れるということが達成できれば、そのストレスは軽減できたかもしれない。しかし、その希望はかなわず、沙織さんは心が不安定になり、月2回心療内科に通っているとのことだった。先々の暮らしぶりがよくなるのかわからないという漠然とした不安から、夜になるといろいろと考えてしまい、眠れないまま朝を迎えることが多々あるという。4日間くらい連続で眠ることができないこともあったと語る。今は睡眠薬を毎日服用している状況だ。
沙織さんは子どもをなんとか大学まで行かせたいと考え、学資保険の積立を月々1万円ずつ行っている。しかし、そのためには毎日の食事を犠牲にせざるを得ないという。離婚前は毎日の食事を一汁三菜にすることを基本としていたが、今はご飯に何かおかずをつけるだけということが多くなった。また、自分が幼い頃にスイミングスクールに通っていたように、娘にもそうさせたいが、収入が少ないし、送り迎えでさらに負担が増すので、通わせられないと悔しそうに語った。
母子家庭であっても子どもを保育園に入れられない。これが日本の子育ての現実なのだ。
※第4回は5月14日(木)更新予定です
※書籍『女性たちの貧困』にはここで紹介した沙織さんほか、国の支援制度を使って保育士を目指す28歳の敏枝さんの、そこに至るまでの過酷な経緯など、シングルマザーとなった女性たちの“貧困の連鎖”の実態が掲載されています。興味を持たれた方は是非、書籍をお求めください。
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