『あの女』(真梨幸子著/2015年4月21日発売!)に登場する女たちの数はざっと数えて10人以上。それぞれ立場や環境が違えど女であることに変わりなく、その腹の中は、“あの女”への呪詛で溢れています。本編に登場する女たちの偽りなき本音を少しだけご紹介。「怖〜い」なんて言っているあなた! 本当はあなたの本音も混じっているのでは……。
●売れっ子作家・三芳珠美
「根岸桜子は小説家をしながらメーカーのOLをやっているが、なるほど、いかにもOLの制服が似合うタイプだ。ランチの時間、財布とポーチを抱えて気の合う同僚ときゃっきゃっとカフェレストランに向かう姿が恐ろしいほど似合う女。職場のおじ様にもかわいがってもらってるのだろう。しかし、その制服を脱げば――。いや、たぶん、それも計算のうちだろう。清楚に振る舞いながら、ちらりと胸元を見せるのも忘れない。それが、根岸桜子というキャラクターに違いない。実際、この西岡だって、彼女にこんなに肩入れしている。……あんなおばさんに。あんな、自意識過剰なおばさんに」
●売れない作家・根岸桜子
「三芳珠美なんか、無視すればいい。なのに、あの子のことが気になって仕方がない。あの子の評判を知りたくて仕方がない。三芳珠美を誰かが褒めれば、その人まで嫌いになってしまう。三芳珠美を誰かが貶めれば、無関心を装いながらもついついわくわくしてしまう。三芳珠美の悪口をネットで見つけたときは、その日一日気分がいい。三芳珠美なんか、いなくなればいい」
●病室の女
「恨みが、わたしを救うの? 恨みなら、もうすでにわたしの体に充満している。すでにわたしの中は恨みだらけだ。……わたしを、こんな境地に追い込んだやつを、細胞のひとつひとつまで、恨み抜いてやる。きっとそいつは、今頃、呑気に生活しているのだ。外の風景を見て、『ああ、いいお天気だ』などと、のたまっているのだ。そうはさせない。わたしは、このままでは終わらない」
●三芳珠美の同窓生・ウスイさん
「不幸も幸福も、一緒なんですよ。注目されれば。とにかく、人より目立てばいいんです。特別っていうのが重要なんです。一般的とか平均的というのはダメなんです。でも彼女は地方都市の一般的な家庭で、特に問題なく、ごくごく普通に暮らしていたみたいです。だからなんでしょうね、特別な自分史というのを作り上げちゃうのかも。私も小さい頃は妄想を楽しんでいましたけれど。でも、そんな妄想、せいぜい、小学校までじゃないですか。なのに、珠美さんは、二十歳過ぎても言ってましたよ。他の人が話題の中心になっているときに、決まってそんなことを言って、注目を自分に向けさせるんです」
●名刺の女
「わたし、さそり座の女なんですよね」
●フリーの編集者・奥村マキ
「彼女とはもう中学校時代からの付き合いで、家族よりもお互いの秘密を知っている。なのに、自分はそんな親友を利用しようとしている。いや、彼女が自分を利用しているのかもしれない。そう、それも昔からのことだ。だからこそ、自分は涼子のことが好きなのだ。涼子もたぶん、同じだろう。あちらもこちらも、無償の愛だの友情などという甘ったるいものは期待していない」
●喜多川書房の編集者・前原涼子
「まあ、私もたいがい、自意識過剰だけれど、彼女たちには到底かなわないわね。とにかく、あのナルシシズムは手がつけられない。そこらの女優なんかよりも、よっぽど深刻ね。女優はそれなりに上下関係があって鍛えられるけど、小説家は違う。基本、人間関係は編集者だけ。その編集者も、先生、先生と持ち上げる。どんな新人でも。どんなに普通の社会人していた人だって、デビューした途端、あんなにちやほやされたら、そりゃ、おかしくなるわよ。私を見て。私だけを注目して、私にはその価値がある。私は特別なんだから! そして、ちょっとしたことで、無視されたとか干されたとか棄てられたとか、愚痴を吐く」
ご紹介したのは、まだまだ女たちの本音の一部。
続きは『あの女』でお楽しみください。