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ジワジワ来る猫猫

2012.06.01 公開 ポスト

その5 怒る コラム: 怒らない監督片岡K

 

猫の怒り度を の3段階に分けてみました。

 

「え? 似合わない?」

 

中「似合わないですって?」

 

に、似合わないだとおおお??」

 

注1)ただしその怒り度は、猫の口調と必ずしもリンクしません。
例えば同じ喧嘩のシーンでも、

 

 

「キサマ!もう一度言ってみろっ!」

 

 

「もう一度言ってみろやー」

       「おまえこそ言ってみろやー」

 

「あん?何?もう一度言ってみん?」

注2)まったく同じ口調でも、怒り度が違う場合があります。
例えばこれらは台詞のない「無言の怒り」ですが、

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 
それでは、怒る猫の姿を 弱 中 強 のマークとともにお楽しみください。

 

 

「ヒマだ…ヒマすぎる」

 

 

「あーヒマだあああああ」

 

 

「こんな格好させんなよ」

 

 

「ふざけんじゃねーっ!!」

 

 

「風呂は好かんのう」

 

「やめろ!シャワーかけんなっ!」

 

「やだあああ!! 風呂は絶対やだあああ!!」

「おい、メシこれだけ?」

「まさかメシがこれだけ ってことはないよな?」

 

「やだ。ここから出たくない」

 

「出せっ!早く俺を出せっ!」

 

「シャーッ! いつでもかかって来いやー」

「く…悔しいっ!」

 

強「食らえっ!!」

 

「ちょっ母ちゃん! 勝手に部屋開けんなって!」

 

「けっ、笑わせやがって」

 

強「ふははははははーっ! 笑わせやがって!」

 

強「ネットつながんねーじゃんか!」

 

強「あいつら 出来てたんかああああーっ!!」


あんまり猫を怒らせないでね。

 怒らない監督
片岡 K

 業界には「鬼監督」と呼ばれる人がいる。怒る理由がなくてもわざと助監督を叱りつける監督までいる。そうすると撮影現場に緊張感が走って、スタッフの気が引き締まるんだとか。何じゃそりゃ。
 ボクは撮影中、絶対に怒らない。助監督を叱ることもない。殴るなんてもっての他で、何か失敗したら思いっきり笑ってやることにしている。だからよく「片岡組は仕事してるのか遊んでいるのか、わからない」なんて言われるのだが、それでいい。面白いモノは遊びの中から生まれるのだ。仕事だと思うと、撮影してても楽しくない。緊張感がない生ぬるい撮影現場なので、体育会系の役者さんは慣れるのに時間がかかるらしいけど。

 この仕事についてまだ間もない頃のこと。モロに体育会系のディレクターがいて、ボクはその下で働かされた。人気のラーメン店やドカ盛りの定食屋を紹介するありきたりのロケVTR、それしか撮れない先輩ディレクターだった。そのくせ毎日何かにつけてボクを殴ったり蹴ったりする男だった。食事を終えるのが遅いと「いつまで食ってんだよバカ!」と殴られた。早けりゃ早いで「なに先に食い終わってんだバカ!」と蹴られた。思い出すだけでも辛い日々だ。
 偉そうにしてるワリにその先輩はいつもノーアイディアのワンパターンで、何を撮っても同じようなVTRにしかならない。やがて番組の定例会議でそのことが指摘されるようになった。一方、ボクはまだ右も左もわからないアシスタントだったが、会議では結構ユニークなアイディアを提案していたのでプロデューサーの評判も良かった。知識や経験では先輩に勝てない。だが、発想力に関しては絶対負けないと自負していた。先輩が「このネタどうやって撮ろう?何かいいアイディアはないか」と頭を悩ませることがあるかもしれない。そしたらボクがバシッと面白いアイディアを提案して、鼻をあかしてやろう。
 そう思っていたら、すぐ次のロケでいきなりそのチャンスが訪れた。ファミレスで昼飯を食った後、先輩が急に頭を抱え「あーどうすっかな」と一人言をつぶやき始めたのだ。ロケバスに乗り込むと、ボクの方を向いてこう言った。
「おい片岡、てめーもなんか面白いアイディア出せよ。次のネタどうやって撮ったらいいかわかんねーんだよ!」
 来た。ついにこの時が来た。ようし、面白いアイディアを出して、この男をギャフンと言わせてやろうじゃないか!そう思った。が…。
 会議で問題視されたことに苛立っていたのか、その日は特に先輩の機嫌が悪かった。朝、集合場所でボクはいきなり飛び蹴りを二発食らった。ウエストポーチの柄が気に入らないというよくわかんない理由だった。そのまま午前中だけで、返事が遅いとか声が小さいとか、何だかんだ理由をつけては十数発殴られていた。いつもの3倍ペースだ。
 人間というのは不思議なもので、痛めつけられたり虐められているとどうしたってネガティブになっていく。心が萎縮して大胆になれないのだ。そのどうしようもないほどブルーな気持ちの上に、突然訪れたチャンスに緊張したのだろう。さあ、先輩には思いつかないとっておきのアイディアを!と意気込むものの、なぜか何も浮かばない。落ち着け、いつもポンポン出てくるじゃないか。早くアイディアを出せ!そうやって焦れば焦るほど、頭の中が真っ白になっていく。結局、ボクは口ごもったまま何も言えなかった。
「なんだよバカ。使えねーな。まったく」
 先輩がボクを鼻で笑った。

 家に帰って、ボクは泣いた。悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。そして、その時に決めたのだ。いつかボクがディレクターや監督になってスタッフを使う立場になったら、絶対に下の人間を怒ったり叩いたりしないって。遊んでるぐらい楽しい撮影現場にするんだって。だって、そういう雰囲気なら、面白いアシスタントがボクの思いつかないとんでもないアイディアを提案してくれるかもしれないじゃないか。
 だからこうなった。片岡組では、撮影部や照明部はもちろん、美術やメイク、俳優のマネージャーや付き人にいたるまで、新人だろうが駆け出しアシスタントだろうが、面白いアイディアを積極的に提案してくれる。いいのがあれば、全部いただき。そしてもちろん、それは監督であるボクの手柄になるのだ。わっはっは、ざまあみろ。

 


本連載に掲載されている写真について、該当する著作権者がいらっしゃいましたら、
webmagazine@gentosha.co.jp 「じわじわ来る□□」係までご一報ください。

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