撮影まっ最中の2014年初夏——。スタッフが走りまくり、地元エキストラの方々も集まってクライマックスシーンを撮る超絶忙しい中、現場に押しかけた編集部。SABU監督のみならず、主人公の茶助(松山ケンイチさん)を助ける重要キャストの伊勢谷友介さんと、大杉漣さんにも突撃インタビュー!ゴールへ向かって疾走中のナマの声をお届けします。
トップバッターはSABU監督。作品が形になりつつある過程で、監督は何を考えているのか? 原作小説が誕生した意外なウラ話もお楽しみください。(インタビュー撮影:吉田せいどう 文:編集部)
その男は天から降りてきた。
たったひとりの女性を守るために……。
天界——。白い霧が漂い、どこまでも続くような広間。そこでは数えきれぬほど多くの脚本家が白装束で巻紙に向かい、下界の人間たちの「シナリオ」を書いていた。人間たちは彼らが書くシナリオどおりに人生を生き、それぞれの運命を全うしているのである。
茶番頭の茶助(松山ケンイチ)は脚本家たちに茶を配りながら、そのシナリオの中で生きている人間たちの姿を興味深く眺めていた。
中でも、口のきけない可憐で清純な女性・新城ユリ(大野いと)への関心には恋心にも似た感情あった。そのユリが車に跳ねられて、死ぬ運命に陥ってしまったことを知る茶助。ユリを救う道はただひとつ、シナリオに影響にない天界の住人・茶助が自ら下界に降り、彼女を事故から回避させるしかなかった…。
ロケ地・沖縄に何かが降りてきた
————今日の撮影は重要なシーンで、祭りの踊りもあり音楽もあり、衣装も色鮮やかで、見ていて本当に楽しかったのですが、監督は椅子に静かに座って、まわりにまかせている感じで意外でした。
SABU いつもそうです。僕は絵コンテまで描いたら、撮り方はスタッフに好きなふうにやってもらっていいんで。すべて自分の意図でやってしまうと、100点なんですけど、面白くない。
————現場にまかせると自分が思っていた方向と違うところに飛ぶことがある、それはありですか?
SABU ありですね。嫌いなものは嫌いなのではっきり言いますけど、でもなるほど、と思わせてくれることも多い。一人で書く小説と違って、映画はみんなで一つの方向に面白いと思うものがあって、各パートがそこに向っていくので、どんどん超えて行ける。今回、スタッフは気合いの入り方がものすごいですから。
————ストーリーは、天界の脚本家が書く奇想天外な人生に引っ掻き回されつつ、登場人物たちが七転八倒します。この物語を書き始めたとき、監督の中で、運命に抗ってやるというか、何か心の中でメラメラ燃える秘めた思いがあったのでしょうか。
SABU いや、まったく覚えてないんですよ、書き始めたときのこと。最初は小説からだったんですけど……。オリジナルの映画がなかなか撮れなくなっていて、原作のある映画ばっかり続いていたので、自分で小説を書こうと。でもどうやって書いたらええんかと悩んで。何人称とかもわからないし、書くのも苦手だし、でもムカついたら頑張るタチなんで、それでとりあえず冒頭に「私は」って書いちゃったんですよね(笑)。
————(笑)
SABU そこから「私」の話が続いて、縁とか偶然とか、そういう宗教っぽい話が大好きで。「偶然出会う」とかいう話も、本当は偶然じゃないと思ってるんです。
————出会うべくして出会った、とか。
SABU そうそう。ただ、カス野郎にはいいチャンスはこないと思うんです(笑)。やっぱりちゃんと真っ当に生きてたら、何かあるはずだと。チャンスに気づくか気づかないかは、その人の意識も関係してますし。たとえば、引っ越そうと思うと今まで見てなかったマンションの広告が急に目につくようになるし、役者になりたいと思ったら小さなオーディション募集の告知でもパッと目に入ってきたりするじゃないですか。そういうものもあって、常日頃、真面目に生きてて何か求めたら、チャンスや出会いがくる気がします。
————今の話をうかがって、さっき祭りのシーンで、スタッフの方が「沖縄は神様に近い」と話していたのを思い出しました。「天」とか「神様」とか、映画の舞台になっている沖縄もストーリーとリンクしていて、なるほどなと。
SABU このロケ全体もそうですね。撮影中の天気も、雨が去ってちょうどいい天気がきて、いいタイミングが全部きていて、すごいなあと思います。自分の力だけじゃなくて、土地とか、参加している全員のいろんな力を日々感じながら撮影してます。
監督のアイデアは妄想から生まれる!?
———今回の作品もそうですが、SABU監督の映画に出てくる人たちは、それぞれ懸命に生きて、その真剣さから生まれるおかしさがとてもチャーミングに描かれているように思うのですが、監督はもともと、人全般に興味があって、お好きだったりするんでしょうか。
SABU いえ。人見知りですし、奥さん以外の人はあんまり好きじゃない(笑)
———でもいろいろなキャラクターが出てきますし……人を観察するのはお好きとか。
SABU それはあります。観察はしますけど、キャラクターとしてというより、普段と違っておもしろいことに対してですね。あとは知り合いから聞いた話だったり、こうだったらいいなって想像しているものであったり。
本を書いたりするのって、俺にとっては、あのシーンはああなったら面白いなとか、こういう気持ちだったら面白いなといった〝いたずら〟に近い。映画づくりは思いっきりそうですね。どこでどう驚かすかとか、笑っちゃいけないところで笑っちゃったとかいうことが大好き。自分が普段の生活の中ではできない、そういうことを描くのがすごく楽しい。
———常に普段の生活で、こうだったら、ああだったらとか考えてる。
SABU 考えてます。前に歩いているヤツ飛び蹴りしてやろうとか、すごい妄想がわきますけど、こらえてます。でも映画の中で爆発してる。映画をつくることでストレス発散してるのかもしれない。
———なるほど。それでいろんなアイデアが次々と。
脚本と小説、両方書いてみえるもの
—−—同じ「本」でも、「小説」は今回初めて書かれたわけですが、「脚本」と「小説」の違いは何か感じられましたか。
SABU 小説はこれでいいんかなと思いながら書いているところはありました。たぶん、「音」で書いている部分もあって。おかしな言葉の流れって、「音」的におかしかったりする気がするので。担当の編集者さんに「この表現が…」と言われたりしましたけど、あとは面白けりゃいいというのを道しるべにしました。
—−−映像だと一瞬でわかることも、文字にするのは大変なのでは。
SABU 大変ですね。終わりがない。映画の脚本はやっぱり2時間超えるとちょっとヤバい。そこまでにおさめないといけないし、短すぎてもまずい。でも小説はそんなこと関係なくてどんどん膨らませられるので。
あと、キャラクターをちゃんと深く踏み込むということは、いままでしてこなかったので新鮮でした。役者さんで時々、この人物はどこでどう生まれて何人兄弟がいるのか、というようなことを真面目に聞く人がいるんです。いままでは、そんなこと聞いてどう変わるんだ、それじゃあ次はAB型でやってみろ、とか思ってましたけど(笑)、そういうことを深く考えるうえで、小説は面白かったですね。
だからこうやってキャラクターを認識して脚本を書いたら、さらにいいなと思いましたよ。でも小説を書き上げて、もういっぱいいっぱいやったはずなのに、こないだ読み直したら、書き直したいところがたくさんあって、終わりがないなという感じがしました。
——— 明日の撮影が終わったら、だいたい一段落ですか。
SABU そうですね。今回は回想シーンがめちゃくちゃあって、それが僕とスタッフとしては趣味の時間というか(笑)。ストーリーのクライマックスに向けての撮影もすごい大事なんですけど、登場人物の過去があきらかになる回想シーンがいっぱいあって、そこでいろんな実験をしてます。スタッフは〝ご褒美〟と言ってくれてますから。何して遊ぼうかっていう撮り方で、それがまたすごいんですよ。みんな俺なんかより全然、撮影が好きですからね。多才で、やりたいことがいっぱいあるみたいで。
———それは楽しみですね。
SABU そうですね。本当にいい案配できてますので。
———今日はお疲れのところ、どうもありがとうございました。
SABU(さぶ)1964年和歌山県生まれ。 91年、俳優として初主演映画『ワールド・アパートメント・ホラー』(大友克洋監督)で、第13回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。95年より自らの企画でシナリオを書き始め、翌年『弾丸ランナー』で脚本・監督デビューを果たす。監督第2作『ポストマンブルース』(97)はサンダンス映画祭を初め、多数の映画祭で好評を博し、コニャック映画祭では最優秀新人監督賞を受賞した。他に『アンラッキー・モンキー』(97)、『MONDAY』(99/ベルリン国際映画祭 国際批評家連盟賞受賞)、『DRIVE』(01/カナダファンタジア映画祭最優秀アジア映画賞受賞)、『幸福の鍵』(02/ベルリン国際映画祭 NETPAC賞)、『ホールドアップダウン』(05)、『疾走』(05/シラキュース国際映画祭最優秀長編映画賞受賞)、『蟹工船』(09)、『うさぎドロップ』(11)などを監督。国内外から熱い支持を集め続けている。今回の『天の茶助』は初めて書き下ろした小説を自ら映画化。
次回のインタビューは伊勢谷友介さん。記事公開は 6月18日(木)予定です。お楽しみに!!