種田アート骨董品店店主・種田潤一
茶助がこの世で最初に会話する人物。古びたアーケードにある骨董品店の店主。もともとはサラリーマンをしていたが、入社3日目で風邪をこじらせて寝込んでしまったため退社。それからというもの全くついていない人生を送る……。(この経歴の続きは、映画の回想シーンでたっぷりお楽しみください)。
制作現場の直撃インタビュー、ラストは大杉漣さんです。SABU監督作品には欠かせない大杉さん。最後に監督も乱入(?)して、お二人の深い関係についても語っていただきました。(インタビュー撮影:吉田せいどう 文:編集部)
精神も疾走する物語
ーー「天の茶助」を初めに読んだとき、どう受け止められましたか。
大杉 正直言うと、どういう映画になるんだろうという感じでしたね。ストーリーはもちろん読めばわかるんですけど、それをどのように映像化していくのかとても興味がありました。随所随所にSABUさんらしさ—−—−疾走感ももちろんあるし、せつないところ、残酷な部分、いろんなものがちりばめられているなという印象でした。
SABU映画はいつもそうなんですけど、現場にきて演じるのが楽しみでワクワクします。監督は的確に演出されていますし、スタッフも一丸となってSABUワールドをどう形にしようか、すべてのパートがいい感じで動いている印象が、初日からずっとあります。
—−−何日か拝見しただけですが、いつも静かに微笑んでいる印象があります。
大杉 そうですね。怒鳴ったりすることもないんですけど、ただ和気あいあいというだけではなく、緊張感を保ちつつも実に清々しいいい現場だと思います。
—−−大杉さんは、SABU監督ともう何本もご一緒されてますね。
大杉 おそらく僕はSABUさんとお付き合いが、いちばん長いと思います。SABUさんが田中博樹という俳優の時代から20数年、監督としては『弾丸ランナー』からずっとです。でも僕もお互い馴れ馴れしくお付き合いしているわけでもなく、現場では監督と俳優の関係として向き合っています。
—−−大杉さんが感じるSABU監督らしさ、というのをもう少し言うと。
大杉 走る、ということにものすごく象徴されているように思うんです。走るというのは全力疾走だけじゃなく、常に〝精神〟が走ってる。『弾丸ランナー』はタイトルからしてそうですけど、『ポストマン・ブルース』は自転車で走っていますし、いろいろなものが走っていて、精神も走っている。今回も、生き急ぐということではないけれど、茶助という天から降りてきた男の気持ちの〝揺れ〟というのも面白い。それぞれのキャラクターの作り方も実に面白いですよね。こんなヤツいないはずなのに、ひょっとしたらいるかもしれないと思わされる。‘リアルファンタスティック’というか(笑)
種田という〝あきらめた男〟に秘めた熱
—−−大杉さんが演じる種田アート骨董品店の店主・種田は、茶助を見ているうちに、気持ちのほうがどんどん加速して変わっていく感じはありますね。
大杉 今回の映画に出てくる人たちの中には、器用な人が一人もいない。それこそ種田は50歳くらいまで役者をやっていたもののうまくいかず、そのあと親の力で骨董品屋をやるようになって、ギリギリやってこれたというかこれなかったというか(笑)そういう設定です。彼なりに、役者という道をあきらめた覚悟とか切なさみたいなものがあると思うんです。そういう匂いとか雰囲気を醸し出せるといいかなと思っています。何の役にも立たない男かもしれないけど(笑)
—−−ただ人生をあきらめているだけの男ではなくて。
大杉 年齢か何かはあきらめているわけだけど、でも彼なりに、生きるということに対する〝熱〟は何か持っていると思うんですよ。茶助という人物と出会って、自分の店に連れてきちゃうわけですから。
—−−茶助を動画で撮ってYouTubeに上げちゃったり。
大杉 そうなんですよ。アナログ人間かと思ったら、そういうイマドキな部分も持っていて。子供を助ける茶助の姿を、撮るだけじゃなくてYouTubeに上げちゃって、おかしいですよね。茶助もそれに対して怒るかというとそうじゃなくて、逆に人助けをどんどんしていってしまうわけです。そういう発想がSABUさんらしいなと思います。
1、2、3まできて、次の展開が4、5といくのではなくて、突然6に飛んだり、10に行ったりする。そういう品のある、疾走感や展開力が本当に面白いですよね。
(ここでSABU監督、ふらり登場)
大杉 もうしゃべりたおしました。これ以上、褒められないくらい褒めておきました(笑)
SABU (笑)
SABU監督との〝ジャングル風呂〟事件
—−− SABU監督と大杉さんの昔からの関係についてもうかがっていました。
SABU ゲイカップルです。
大杉 はっきり言えば、つきあってます(笑)
SABU 大杉さんとどこだっけ。湯布院か何か行ったとき、入った風呂が変だったよね。
大杉 部屋が一緒だったんだよね。そこにジャングル風呂みたいのがあって。
SABU あった、あった。
大杉 湯布院映画祭の時ですよ。「ポストマン(・ブルース)」で行って。楽しかったですね。
—−— お部屋が一緒になってしまったんですか……。
SABU そうそう。立派なスイートみたいな2人部屋。
大杉 部屋の中にジャングル風呂みたいのがあって、ベッドはこっちとこっちに分かれてあるんですけど、お風呂は一緒だった。
SABU (笑)
大杉 まあ男同士ですから。すべてが丸見えということです(笑)
—−− それで撮影は順調に進んでいらっしゃるとのことですが、沖縄ロケはしばらく続きます。
大杉 物語はここから希望というか、光のようなものにつながっていく、と理解しています。誰が書いたかわからないシナリオ通りに生きているのか自分は! と言って人生が終わるのではなくて、自ら変えていける力を信じたい。僕自身そう思って臨んでいます。
———今日は本当にありがとうございました。
大杉漣(おおすぎ・れん) 1951年徳島県出まれ。88年まで「転形劇場」で活躍。劇団解散後は、舞台、ドラマ、映画、多数の作品に出演。キネマ旬報、ブルーリボン賞、日本アカデミー賞など数々の助演男優賞を受賞。近年の出演作に、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ)、『ペテロの葬列』(TBS)、『ダークスーツ』(NHK土曜ドラマ)、映画『かぐらめ』、『バンクーバーの朝日』などがある。
映画『天の茶助』は公開まであと少し! それまで予告編をお楽しみください。
そしてSABU監督の初小説『天の茶助』(幻冬舎文庫)は絶賛発売中!! 試し読みは6月25日(木)公開です。監督の思いがつまった文字の世界も合わせてお楽しみください。