神奈川県の箱根山で活発な火山活動が続いています。火山性地震も頻発し、大涌谷付近を中心に地殻変動も観測されているようです。東日本大震災では日本列島が一瞬にして5メートルも東へ移動したといいます。いま、日本の大地で何が起きているのでしょうか? 世界が認める地質学の第一人者が解き明かす、地球科学の最前線――『地球の中心で何が起こっているのか』。この書籍の内容を全3回のダイジェスト版でお届けします。
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火山は、マグマが地表に噴出して作られる。私たちが「火山」と呼ぶ場合には、最も新しい地質時代(第四紀)の、つまり約200万年前より若いものを指す。このような火山が、日本には200個以上も存在する(図3―2)。
さてこの図を見てわかるように、日本列島には火山がない地域もある。
例えば近畿地方には、兵庫県の北部を除けば、大阪・奈良・和歌山・三重には火山は分布していない。また、火山が密集する東北地方でも、太平洋側(海溝側)には火山が分布しないゾーン(前弧)がある。
火山が数多く分布する沈み込み帯といえども、マグマはいたる所で作られるのではないようだ。そしてこの火山の偏在は、日本列島のみならず、地球上の全ての沈み込み帯で認められる。
杉村新神戸大学名誉教授は、私が最も尊敬する地球科学者の一人だ。その温和な人柄の奥には、驚くほど鋭い感性と恐るべき強烈な好奇心が潜んでいる。
日本列島で、ある所を境にしてそこより海溝に近い場所には火山が存在しないことの重要性にいち早く注目したのは、杉村先生だ。そして、それを「火山前線(火山フロント)」と名付けた。1959年のことだ。つまり、火山弧と前弧の境界は明瞭であり、それを火山前線と呼ぶのだ(図3―1)。
火山前線の出現は、なにも日本列島に特有な現象ではない。地球上のほとんどの沈み込み帯で共通に認められるものだ。つまり、なぜ火山前線が形成されるかという問題は、沈み込み帯のマグマ発生を考える上で、普遍的かつ重要なものなのである。
火山前線には、大きな特徴がある。それは、沈み込むプレートの深さとの関係だ。日本列島の近傍では、約2億年前に形成された太平洋プレートが、日本海溝からマントルへと沈み込んでいる。そのプレートの上にあるのが、東北日本だ。
図3―2を見ていただきたい。海溝や火山前線が不連続に変化する部分(沈み込み帯の会合部)、例えば北海道の西部や中部日本を除けば、プレートの深度が約110キロになった所の真上に、火山前線が位置する。
この火山前線の位置とプレート深度との関係も、他の沈み込み帯でも認められる一般則だ。沈み込むプレートの年代は多様だ。海嶺で作られたプレートは、年を経るとだんだん冷えてゆく。したがって、沈み込むプレートの年代の多様性は、プレートの温度の多様性でもあるはずだ。
それでもなお、火山前線が出現するのは、プレート深度が「110キロ」になった所なのだ。この事実は、沈み込み帯におけるマグマの発生には、圧力(深さ)に強く関係した反応が重要な役割を果たしていることを暗示している。
直感的には、プレートの温度がマグマを発生させる値に達すると火山前線ができると思ってしまうが、そうではないのだ。
なぜこのような特徴的な境界が形成されるのだろうか? マグマの発生メカニズムを考える上で、説明しなければならない最も重要な観察事実の一つだ。
※第3回は5月22日(金)更新予定です
地球の中心で何が起こっているのか
なぜ日本ではこんなにも頻繁に地震が起きるのでしょうか。世界が認める地質学の第一人者が解き明かす地球科学の最前線、幻冬舎新書『地球の中心で何が起こっているのか』より、一部を抜粋してお届けします。