<前編はこちら>
日本で売られる書籍は本体にカバーと帯がついているのが一般的で、とりあえずそれが完成形。でも、もうひと押し何かがあると売れ方が違う、という時に、新聞広告やテレビ、ラジオ、雑誌など媒体での紹介がものを言います。
そういった予定がなく、書店さんで本を動かす時に力を発揮するのが、POPやパネル。でも正式にデザインをどこかに発注し印刷に出すのは労力とお金がかかるので、作成出来るものは限られます。ではそれが出来ない時はどうしたら良いか。その場合は自分たちで手作りの「手書きPOP」というのを作成します。
ある日、ぽってりくちびる美人の若手編集者・Oちゃんが、「これをどうにか売りたいです…」と営業にやって来ました。それは数日前に見本が出た、女性向け小説の文庫版。ファッションビルのコピーを書いている方が、そのコピーを元に小説を書かれたもの。しかし文庫版のカバーが単行本のカラフルなそれに比べて色味が少ないことが気になっていました。
小説はとても読みやすく、仕事や恋愛に悩む女の子が読むと元気が出、前向きになれる上におしゃれなとってもいい内容なので、どうにかうまくそれを売場で伝えたい。すでにどこの書店さんに何冊という配本も決まっており、配本表を見るとパネルを置けそうなだけの冊数が入るお店が5店舗ほど。ちょうどそのコピーを使ったファッションビル内の書店さんも含まれている。
そこでお願いしたのがTちゃん。「とにかく女性ホルモンに訴えかけるパネルにしたい。ホルモンね、ホルモン。」というわたしの謎の注文に、絵を描き文字を書き、デザインしてくれて出来たのが①。
①の効果もあり、最初の5店舗の動きが良く版を重ね、他の営業女性社員の意見も取り入れ第二弾バージョンとして作ったのが②。
結局この尾形真理子さん『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』は、2014年2月に初版8千部からスタートし、作品の力とパネルの力がかみ合い2015年5月現在9刷7万2千部。今では幻冬舎文庫の定番商品となりつつあります。
その後、Tちゃんの芸術大学時代の同級生、落ち着きと気品あふれるF様というのも入ってきて(当然面接にはスクラップブック持参)、今では毎日電話に出つつ、伝票を打ち、その他雑務全般をこなしながら、営業マンたちの「この本を仕掛けたい」という気持ちと、わかりにくい説明を懸命に可視化しつつ、本の魅力を伝えるパネルを描いてくれています。徐々に二人の元にはわが社とは関係ない独立した絵の仕事も入ってきているようで、どんどん活躍してねと皆で陰ながら応援しているのです。その他、小説家、脚本家志望男子たち、ロック女子、2児の母、マスコミ志望就活男子、おしゃれ大好き女子、働き者の新人ガール、果てしなく穏やかで忍耐強い美女など、様々な個性のアルバイトたちがそれぞれの力を発揮し、幻冬舎営業局を支えてくれています。
話はわたしのアルバイト時代に戻りますが、例のとんちんかんコピー事件からちょうど2週間後、見城はわたしにとてもとても小さなことで、「ありがとう」と声をかけてくれました。その日帰宅し食事をし、お風呂に入った瞬間に、再びわたしは大量の鼻血を出したのでした。温まり血行も良くなっていたので、止血にかなりの時間を要しました…。落ち込みと緊張でがちがちな塊になっていたのが、一気にゆるんだようでした。
Tちゃん作『ペンギン鉄道なくしもの係』パネル
Tちゃん作『けむたい後輩』パネル
F様作『わたしたちはその赤ん坊を応援することにした』パネル
文字を作家の方が書き、そこにF様が絵と色付けその①
文字を作家の方が書き、そこにF様が絵と色付けその②
Tちゃん(豊田恵美さん)の作品
F様(久末芙実さん)の作品