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2004.09.01 公開 ポスト

第27回

空海とわたしの中国はな

  弘法大師空海が入唐したのは、804年12月21日だと記されています。私が生まれたのは、それから1167年後の1971年12月21日。偶然にも、空海の入唐記念日が、自分のお誕生日と重なっていた事に喜びを隠せない私。興味を抱く人物の年表に、自分のお誕生日と同じ月日を見付けた瞬間から、その人物に勝手な親近感を覚えてしまった訳です。そんな「12月21日」つながりの空海が、初めて中国大陸に足を下ろした年から、およそ1190年後の1994、私が初めて訪れた中国は、国際都市にまで発展した港町、上海でした。

友達と二人で、上海の大学に留学中の従兄弟を訪ねたのは、大学を卒業してから数年後のこと。母方の祖父が、上海の南に位置する折江省出身ということもあり、中国は精神的にも、肉体的にも惹き付けられる国でした。日本が大きな影響を受けてきた国、広大な土地と深い歴史を誇る国……。中国の底知れぬパワーは、どこから生まれてきているの? 幼い時期から、そんな素朴な疑問を抱えていた私は、初めて中国に足を下ろした日からそのエネルギーの渦にすっぽり飲み込まれてしまいました。

友達は、屋台のマンゴーでおなかを壊し、げっそり。私は、習い始めたばかりの中国語が一言も通じず、がっくり。しまいには、大雨に降られて、上海の街中は大洪水。ジーンズの裾を丸め上げ、裸足のまま上海の街を歩き回りました。結局、デパートでサンダルを購入して、運良くタクシーを拾ったのですが、予定していた上海雑技団の公演には間に合わず。初めての中国旅行からお持ち帰りした土産話は、スリリングな想い出ばかりでした。 

という訳で、初めての中国・上海は珍道中で終わり、次に上海を訪れたのは、約10年後。お仕事と上海蟹旅行を重ね、先日は4度目の上海を体験して帰ってきました。小さなリピーター気分が芽生えてきたせいか、今まで以上に、上海のエネルギーと上手にお付き合いすることが出来たような気がします。 

 今回は、杭州と上海をレポートするラジオの取材ロケという事で、まずは杭州の空港に到着。夏の猛暑は日本、そして杭州でもその威力を発揮していました。鼻から流れ込む空気は生ぬるく、湿気が含まれている。それでも「避暑地」として上海人たちが利用しているので、皆さんとってもHOLIDAYな感じ。そんなお休みモード、浮かれ気分な人たちが、杭州の夏をさらにヒートアップさせていたのかもしれませんね。 

私たち取材班はさっそく、最初の取材先、「雲隠飛来峰」に向かいました。

「仏像がたくさんいらっしゃるらしいよ」と聞かされていた仏像大好きな私は、雲隠飛来峰に行く日を心待ちにしていました。観光客で溢れかえる門を潜り抜けると、そこはもう仏像パラダイス! 三歩歩けば仏像に当たるとは、ここの事を言うのです。岩肌に彫られた大きな仏像や、東南アジアの仏像を思い起こさせるハッピーな仏像、山の上、洞窟の中に潜む石仏、さらには超ご機嫌なご本尊の弥勒仏。巨大なおなかと笑顔からは、幸せが零れ落ちてきそう……。中国の大自然と一体化している仏像たちと戯れる子供たちもすっかり、アドベンチャー気分です。体を使いながら、仏像と触れ合う広場。こんな仏像パラダイスが、杭州にあったなんて……。もう目からウロコ、目から仏像でした。

さて、パラダイスの次に訪れたのは、深い緑に包まれた山中の茶畑。杭州の名物、龍井茶は緑茶の一種で、その中でも最高級の茶葉は、鮮やかな若葉の色をしています。透明なグラスにお湯を注いでも、色は変わらず、温泉語で言うならば、「無色透明」の状態。お湯の中で茶葉がそっと開くのを確認してから、お茶の香りと楽しむ。すると、ふわっと鼻の下で、小さなお花が咲いているような、やわらかい香りが鼻をくすぐり、そのままお茶を口に運ぶと、さわやかで、ほのかに甘い香りが、口の中に広がっていきました。茶葉が沈むグラスにお湯を注いでいただき、二煎目を味わうと、あれ??? 色は変わらないのに、お茶の香り味がどっしり、舌に腰を下ろしてきました。

 驚く私を楽しそうに見ていた茶畑のお母さんは、そのまま三煎目、四煎目、五煎目と、お湯を注いでくださったのですが、私のおなかはもうちゃぽちゃぽ。帰る頃には、お茶が、おなかの中で大きな波の音を立てていましたよ。

 その夜、西湖の茶館で一服した後、西湖をお散歩取材。湖の畔は、すっかり観光地化され、深夜なのにもかかわらず、大勢の観光客が集まっていました。湖畔の灯りや賑わいに背を向け、夜空が西湖に沈んでいく様子を眺めていると一瞬、自分がどこにいるのか、わからなくなってしまうのですよ。墨の色一色に塗りつぶされた景色の中で、空と湖が溶け合う瞬間。電飾で縁取られた屋形船は、黒い宇宙をさまよっているようでした。

 翌朝、私よりも早起きしていたのは、西湖に浮かぶ蓮のお花たち。かっぱが傘代わりに差すのにちょうど良い大きさの葉の上で、眩しいピンク色のお花が咲いていました。蓮のお花は、目覚めと同時に「ポン」と音を立てると聞いたことがあります。その「ポン」を想像しても、西湖の蓮は相当大きな音を立てるに違いない……。私の顔と変わらない大きさのお花がポン、ポン、ポンと元気な姿を覗かせ、上海に出発する私たちを明るく見送ってくれました。

 誰もが想像する、近未来の世界だ……杭州から車で約3時間、気が付くと、私は「鉄腕アトム」に出てくるような近未来的なビルを見上げていました。漫画の世界に飛び込んでしまった気分にさせられる上海の建築物は、it's incredible!  すごい!

 商業用に建てられたビルは、世界各国を代表する建築家のデザインによるものらしく、どれも摩訶不思議な形をしています。ザ・国際都市の名を誇る上海は、以前にも増してにょきにょきと、その実力を発揮しているように見えました。

 さて、滞在期間一泊二日の上海。私は、必ず訪れるヨエンの南翔饅頭店で小龍包を食べまくり、梅や杏の乾物を買いまくり、骨董市で骨董品を物色しまくり、最後は中国式のシャンプーマッサージでリラックスしまくりです。何せ一泊のプラン、無駄な時間を過ごす訳にはいきません。取材しながら、自らの欲望を次々と満たしていく、私。最早、上海のエネルギーを自分の体内に吸収する方法を見付けてしまっていたようですね。

 晩御飯を兼ねた取材を終え、外に出ると、自転車を必死にこぐ上海人たちのカラフルなポンチョ姿が、目の前を猛スピードで走り去って行きました。雨脚は強まる一方……。川沿いの観光名所、ワイタンをお散歩ロケする予定だったのですが、急遽ドライブ編に変更です。車の窓から見えてきたのは、1920年代の建物が今も立ち並ぶ昔ながらの顔と、川の向こうに聳え立つ、新しい顔。新旧、二つの顔を持つ上海の町並みを見上げながら、空間と時間の距離を一気に走り抜けていきました。過去と未来って、意外に近いのかもしれない……そんな感覚に陥っていた私を他所に、上海は未来に向かって輝きを増して行くのでした。

 さすがの空海も、1200年後の中国の姿にwill he be surprised?

 

 

こちらが、ご本尊の弥勒菩薩さま。とっても陽気なほとけさまでしょう? ツーショット写真を撮るのに、長い行列が出来ていました……。

西湖に浮かぶ蓮のお花。「ポン」とお花が開く瞬間の音が、聞こえてくるようでした……。

さっぱりしたお料理が多いのが、上海料理の特徴。黒酢がとっても良く合います。今回のおすすめは、端金賓館というクラシックなホテルに入っているレストラン、「小南国」。何食べても美味しかったぁ!

大きな笑顔で迎えてくださった、仏像たち。ここはいいとろだね、仏像パラダイス。

今回は、屋台で食べる時間がほとんどなかったけれど、お散歩中で見付けた小龍包もかなり美味しそうでした……。

 

 

  

It's incredible!  考えられない!すごい!

Will he be surprised? 驚くかな?
I'msurprised...だと、自分が驚いた時に付ける言葉。例えば、I'm surprised that you're coming!  あなたが来るなんて、びっくり!

 

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トランシーバー。歩きながら話す、という意味もあります。

※本連載は旧Webサイト(Webマガジン幻冬舎)からの移行コンテンツです。幻冬舎plusでは2004/09/01のみの掲載となっております。

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はな

1971年生まれ。インターナショナルスクール時代から雑誌などでモデルを始め、CM、エッセイの執筆など幅広く活躍中。上智大学比較文化学科卒業。英語、フランス語など語学が得意。趣味はお菓子作りに仏像鑑賞。

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