20年間無敗の雀鬼・桜井氏と、「麻雀再強位」タイトルを獲得したサイバーエージェント社長・藤田氏が突き止めた39の“ツキの極意”を惜しげもなく公開し、話題になった本書。「流れの呼び込み方がわかった」「苦しい時ほど役に立つ」と、その実践的な方法にも大きな反響が寄せられた。
いまの梅雨空と同様、運気がどうも停滞気味……というビジネスマンのために、今回特別に、本書の貴重なノウハウをいくつか紹介。ウンザリするような負けグセ思考とおさらばし、人生の勝負強さをそろそろモノにしてみようではないか。
まえがきーー藤田 晋
僕が雀鬼(じゃんき)会の桜井章一会長と出会ったのは学生時代のことで、もうかれこれ20年くらい前になります。無敗伝説で知られる桜井会長は、当時から麻雀の世界では超がつく有名人でした。
その頃の僕は麻雀にどっぷりはまっていて、ほぼ毎日朝から晩まで雀荘に入り浸っていました。僕の青春は、ほぼ麻雀一色です。もっと麻雀が強くなりたい──そう強く願った僕は、「雀鬼」と呼ばれる稀代(きたい)の勝負師がどのような麻雀を打つのか、素朴な関心から東京・町田にある雀鬼会の道場に通うようになりました。
期間としてはわずか1年ほどでしたが、桜井会長から教わったことは、少なくありません。そして麻雀で培った経験は、いまでも仕事をする上で大きく活かされています。
そもそも僕がなぜ桜井会長とこのような本を出すことになったかというと、麻雀における運やツキの流れ、勝負勘といったものは、仕事に置き換えて解説できるのではないかという思いがあったからです。その点においては麻雀を知らないビジネスマンでも、勝負の世界に身を置いてきた桜井会長から学べることは多いと思います。
また、仕事や経営といったものが、成績がいい順に結果を出せるのであれば、猛勉強をしてきた大学教授やMBA保持者がトップに躍り出るはずですが、現実はそうではありません。頭がよくて才能もあり、かつ人一倍の努力をしても、運やツキといった目に見えない流れを読む勝負勘がなければ、それらをフルに活かすことはできないのです。
しかしながら、運やツキ、勝負勘といったものは、なかなか合理的には説明しづらいものです。そこでこの本では、「20年間無敗の男」とも呼ばれる桜井会長の言葉を、僕が主にビジネスマン向けに翻訳し、分析していくということを試みました。
実際、麻雀というものをつぶさに見ていくと、ビジネスの縮図のようなものがあちこちに垣間見(かいまみ)えます。要約すると次のようになります。
①どんな牌(パイ)が配られるかわからない「不平等」なところからスタートする。
②一定のルールにのっとり、配られた牌をもとに、いかに人より早く大きく上がれるかの「相対的な競争」になる。
③局の進行、相手との点棒差など刻一刻と状況が激しく変化する中で、冷静で素早い「状況判断力」が問われる。
④4人に1人しか上がれないため、大半の時間は「忍耐力」を要する。
これらの特徴は、ビジネスとよく似ています。ビジネスは「不平等」でありながら、「相対的な競争」であり、常に「状況判断力」が求められ、最後は「忍耐力」が勝負の分かれ目だからです。本書の中で多く触れていますが、僕はそれらの大半を麻雀から学んだといっても過言ではありません。
桜井会長から学んだことで、仕事や人生でとくに大きな影響を受けたものは何かと問われれば、「己を律する」ということ、それから「正々堂々と戦う」の2つだと思います。
麻雀が弱い人は、己の欲望に負ける人です。本書で桜井会長が「洗面器から最後まで顔を上げなかったものが勝つ」と述べているように、麻雀は我慢比べみたいなところがあります。
ビジネスにおいて早く楽になりたいと勝ちを急ぐ人も、負けが込んで挽回(ばんかい)しようと熱くなる人も、「己を律する」ことができない人は結局、欲に呑(の)み込まれて自滅していきます。
またビジネスをしていると、ズルをしたり人を騙(だま)して稼ぐほうが得をして、誠実にやっているほうが損をしているように見えることがあります。
しかし、卑怯(ひきょう)な手を使う側に回りたくなる誘惑に負けてしまったら、そこでおしまいです。人からの信用を失うばかりでなく、たとえ成功しても、幸せを感じることはできないでしょう。僕は「正々堂々と戦う」ことが、最後は一番強いと信じています。
僕は学生時代以来、遠ざかっていた麻雀を、最近また始めました。
すると、学生のときにはわからなかったビジネスとの類似点がたくさん見えてきました。そして自分が知らず知らずのうちに麻雀で学んだものを、仕事においても活かしてきたことに気づかされました。再び麻雀の魅力に引き寄せられた僕は、かつて雀鬼会に所属し、桜井会長のもとで学んだ頃と同じように、真剣勝負に取り組み始めたのです。
麻雀から遠ざかって20年近くたちますが、僕がビジネスの世界で培ってきた勝負勘は、今度は麻雀のほうで活きたようです。2014年、麻雀界の日本一を決める権威ある大会「麻雀最強戦2014」に出場し、並み居るトップレベルのプロ雀士を相手に優勝を果たしました。
いまの僕は経営者でありながら、現役の「麻雀最強位」のタイトルホルダーでもあります。そんなタイトルを持った経営者は前代未聞だと思いますが、自分の中では麻雀と経営が互いにフィードバックし合い、高め合う緊密な流れを強く感じています。
目に見えない運やツキの流れとは何か。それは仕事においてどのような形で表れ、活かされ、コントロールできるのか。本書からそのヒントを感じ取っていただければ、とてもうれしく思います。
連載第2回「ビギナーズラックが偶然ではない理由」は6月19日(金)更新予定です。