開けてライブ当日、午前11時。美唄駐屯地内の体育館は、自衛官の御家族も合わせて500人の超満員です。敵、味方以前に、そもそもそんな大勢の観客に馴れていません。雰囲気に呑まれそうです。
さっそく、前日に渡されていた戦術マップ(席次表)と、会場の面々と照らし合わせます。
シブい客層だと聞かされていても、大げさに言っているだけで、実際行ったらそうでもなかった、というのはよくある話。かすかな希望とともに会場を見渡します。
苦虫を噛み潰したような顔の米森会長。「鬼軍曹」の岸本支部長に関しては、何も始まってないのに、すでに御立腹のご様子です。
無理無理! 怒ってる人を笑わせるなんて、そんなアホな。
そんなありえへんアウェーな環境で、会は始まりました。議員さんの挨拶、退屈なセレモニーが延々と続きます。誰一人クスリとも笑わず、重苦しい張り詰めた空気。
そんな中、ついに、僕の出番が迫ってきました。
しかし、頼みの綱である“盛り上げの特殊部隊”がどこにも配備されてないのです。
「どうなってるんですか!」
石田下士官に詰め寄ると、彼は体育館の後方を指差しました。
「第三中隊は――今お餅をついています」
「は?」
「今日は我々自衛官もホストなんです。彼らは、米森会長や岸本支部長がお召し上がりになられるお餅を一生懸命ついています。ですので、即時配備はできませんが、我々自衛隊を信じて下さい」
石田下士官の言葉に腹を括ったものの、一つ不安なことがありました。
彼らをいかにしてステージ最前線に配備するのか?
敵、いや観客はすでに席に着いている。衆人環視の中、へたに呼びだせばライブを盛り上げるサクラだとばれてしまうのではないか。そんなことになったら、鬼軍曹が黙ってるはずがない――。
しかし、石田下士官、やるときはやる男です。満を持したようにマイクを掴むと、作戦開始の合図を発しました。
「第三中隊、第三中隊、枯れた大地に水をかけよ」
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