CDの即売会イベントを1時間前に控えた楽屋でのこと。我々東京プリンの二人を楽屋に残したまま、マネージャー小橋の姿が見当たらなくなっていた。
「マッキン、小橋どこ行ったか、知らない?」
「俺もさっきから、気になってるんだよね。あいつ、どこ行ったんだろう。電話してみた?」
「そうだな、ちょっと電話かけてみよっか」
早速僕は、小橋の携帯電話に電話をかけたが、コールはするものの、やがて留守番電話に切り替わった。
「出ないなあ……」
通常ステージに上がる直前まで、我々の傍を離れることは片時もないだけに、何かあったのではと二人は心配になった。
「そういえばあいつ、朝からすげえ疲れた顔してなかった?」
牧野が神妙な顔つきで言った。
確かに、今朝エイベックスで顔を合わせた時から、小橋にはいつもの元気がなかった。話かけても、どこか上の空で目もうつろ。普段イベントの前には必ず連発する、我々オヤジたちを鼓舞する発言も見受けられなかった。最近レコーディングの作業が続いていて、寝不足なのかとさして気にかけなかったのだが、諸々の状況を顧みるに僕は妙な胸騒ぎを覚えた。
「あいつ、どっかでぶっ倒れてるんじゃないだろうな。俺、ちょっとその辺見てくるわ」
「わかった。何かあったら携帯に連絡して。こっちも、もしあいつが戻ってきたら電話するよ」
楽屋を出た僕は、広いショッピングモールの中を各店舗はもちろん、トイレ、喫煙所、エレベーターに至るまで虱潰しに探したが、そのどこにも小橋の姿を見出すことはできなかった。途中、携帯にも何度か電話を入れてみたが、留守番電話に切り替わったことを知らせるメッセージがむなしく聞こえてくるだけ。どうしたものかと思いあぐねていたところ、「クイックマッサージ」の看板が目に止まった。
(まさかな……)
立ち止まり、しばらく店内の様子を伺っていると、朝とはうってかわってスッキリとした顔つきの小橋がやおら出てきた。
「おまえ、こんなところで何やってんだよ!」
僕の声に驚いた小橋は息を呑み、直立不動に。
「俺、ずっと探してたんけど。おまえ、何こんなところで油売ってんだよ。本番前だろ」
僕は人目を憚ることもなく、声を荒げた。
「違うんですよ、洋介さん。験をかついでたんですよ」
「えっ、何それ」
僕は顔を顰めて尋ねた。
「いや、最近マッサージやった後って、必ずいいことがあるんですよ。だから今日もマッサージやったら、CDたくさん売れるかなって思って」
明らかに今浮かんだと思われる言い訳に、僕は思わず吹き出してしまった。
「もういいよ。マッキンも心配してるから、早く楽屋戻ろう」
ちなみにこの日売れたCDはアルバム、シングルを合わせて103枚。これまでの即売会における最高を記録した。
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