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映画『家族ごっこ』公開記念 原作『鈴木ごっこ』無料試し読み

2015.08.01 公開 ポスト

第1話-10(最終回)

女の決心木下半太(作家/「劇団ニコルソンズ」主宰)

木下半太さんの最新作、『鈴木ごっこ』が映画化!オムニバス映画『家族ごっこ』内の同名作品(出演:斎藤工さんほか)として8月1日(土)から上映!これを記念し、物語の発端となる『鈴木ごっこ』緊迫の第1話を、毎日カウントダウン公開。小説と映画で異なるラスト。あなたは観るのが先?読むのが先?

最初の記事:第1話-1 わたしはカップラーメンを食べない
前回の記事:第1話-9 “鈴木ごっこ”前夜

豪邸に集められた4人はこれから1年間、家族として過ごさなければならない。呼び名も決まり、いよいよ“鈴木ごっこ”を始める4人だが…。


*  *  *
 

「この家にある家具……前に住んでいた人の物なのですかね」

 カツオがリビングを見渡して言った。

 高級な家具の数々に目を奪われる。どう見ても金持ちの家だ。

「これ、けっこういいテレビだよね。プラズマとかじゃない? 冷蔵庫もちょーデカイし。人工知能でかしこく節電とかやりそう」

 ダンが子供みたいにはしゃぐ。だが、中学生には到底見えない。

「家事はどう分担する? 俺は料理とかしたことないけどな……」

 タケシがカップラーメンのスープを飲み干して言った。

「ウチがやるよ。あんたの作ったご飯なんか食べたくないし」

「あんたではない。俺の名前はタケシだ。気をつけろよ、小梅」

「はいはい」

 早くも夫気取りだ。鬱陶しくて仕方がない。

「やべっ。タケシさん、父親モードじゃん」

「おい、父親に対してタケシさんはおかしいだろう」

 からかうダンを、タケシが落ち着いた声で窘(たしな)める。

「今はいいじゃん。近所の人は誰も見ていないんだし」

「普段から慣れておかないと失敗するぞ、ダン」

「わかったよ、父さん」

 聞いているこっちが照れ臭い。わたしはこの男を何と呼べばいいのだろう。「あなた」なんて絶対に嫌だ。

「私たちの前に、住んでいた家族は、どこに行ったんですかね?」

 カツオの言葉にわたしの背筋は冷たくなった。人が生活していた匂いは残るものだ。

「この状態だと、夜逃げでもしたんでしょうか?」

「……知らんわ。他人のことなんて気にしてられへん」

「母さんは冷たいなあ」

 ダンが、無理やり息子になって接してくる。

「いなくなった人を心配してもしゃあないやんか」

「どこかで会うかもしれないじゃん。同じ家に住むんだからさ」

「会いたくないわ。一刻も早く、こんな気味悪い家から出て行きたいねん」

「一年間の我慢だ。楽しく過ごせばあっという間だよ」

 タケシが力のない声で言った。

「楽しく」なんて不可能だ。本当の家族でも、楽しい時間なんてほとんどないのに……。

「ごちそうさまでした」

 ダンが食べ終えたカップラーメンの容器を持ってキッチンへと運ぶ。タケシもそれに続いて席を立った。カツオはトイレに行き、わたしは一人で食卓に残された。

 お腹が減った……。

 でも、わたしはカップラーメンを食べない。一口だけで、あとは手をつけていなかった。食べてはいけない理由がある。明日から新しい家族のために、栄養バランスの取れた食事を作らなければいけない。いつか、美しい食卓で、娘と美味しいご飯を食べるため、わたしは鈴木小梅になるのだ。

 今日から、鈴木ごっこが始まる。

 
*  *  *

※『鈴木ごっこ』第1章はここで終了です。続きが気になる方は、是非書籍をお求めください。

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映画『家族ごっこ』公開記念 原作『鈴木ごっこ』無料試し読み

『悪夢のエレベーター』をはじめとする「悪夢」シリーズほか、次々とヒット作を生み出している木下半太さんの最新作、『鈴木ごっこ』が映画化!8月1日(土)からオムニバス映画『家族ごっこ』内の同名作品(出演:斎藤工さんほか)として上映されます。

これを記念し、物語の発端となる『鈴木ごっこ』緊迫の第1話を、映画初日まで毎日カウントダウン公開します。小説と映画で異なるラスト。あなたは観るのが先?読むのが先?

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木下半太 作家/「劇団ニコルソンズ」主宰

1974年大阪府出身。作家。劇団「渋谷ニコルソンズ」主宰。主な著書に『悪夢のエレベーター』『悪夢の観覧車』などの「悪夢」シリーズをはじめ、『アヒルキラー 新米刑事赤羽健吾の絶体絶命』『裏切りのステーキハウス』『極楽プリズン』などもある。『悪夢のドライブ』『サンブンノイチ』『鈴木ごっこ』他、映像化作品も多数。『ロックンロール・ストリップ』の映画化では、自ら監督も務める。『仮面ライダーリバイス』(テレビ朝日系列)の脚本も。

 

 

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