「読後感が爽やか」「深海生物に会いたくなった」「秀逸な幻想文学」「元気になれるお仕事小説」――。2012年の発売以来、多くの読者を惹きつけた人気深海小説『海に降る』(朱野帰子・著)がこのたび文庫版になりました。有村架純主演での連続ドラマも放送中!(WOWOWにて2015年10月10日よる10時~〈全6回〉)ここでは『海に降る』文庫版がさらに楽しく読める情報をお知らせします。
『海に降る』の主人公・深雪は日本人女性初の深海調査船パイロットを目指す訓練生です。実際に日本人女性初のコパイロットとなった外崎瞳さん(JAMSTEC、現在は広報部所属)のインタビュー後編をお送りします。外崎さんが講演会の場で冷や汗をかくことに!?
――外崎さんは現在、広報課に所属なさっています。『海に降る』の主人公・深雪も広報課に異動になる場面がありますが、小説に出てくる広報課の描写についてはどう思いましたか?
外崎:広報課所属になった今、再読してみるとその詳しい描写に驚きました。実在するイベントが正確に描かれていますよね。
私も広報課職員として、小説に出てくるJAMSTECの一般公開を担当したのですが、ひとつのイベントを実現するためにたくさんの人に相談したりお願いしたりを繰り返して大変でした。
運航チームの頃は一般公開の日に「しんかい6500チームはあの場所で、こんな感じでよろしくね」と広報課に頼まれたことをやればよかったのですが、それを全部企画して手配している広報課は大変だったのですね。その苦労が小説にはうまく描かれていると感じました。
――外崎さんは女性初の深海調査船コパイロットとして、講演会やイベントに呼ばれることが多いそうですが、大勢の前で話をするのは大変ではないですか?
外崎:大変です……。私はどちらかというと人の陰に隠れて生きてきました。赤面症もあり、高校生まで普通に異性と話すことも苦手でした。それがこんなに大勢の前でお話しする立場になるとは……。学生時代にもっと、人前で話す経験をしておけばよかったと思いました。
広報課にいると講演活動は大事な仕事という扱いですが、運航チーム時代はメインの仕事ではありませんでした。先輩たちが作業着で忙しく働いている中、後輩の私はスーツを着て講演に行ってきます、というのはなかなかきつかったです。
しかも普段は運航チームの限られたメンバーと黙々と作業しているのに、急に大勢の前で大きな声で話さなければいけないわけです。こんな感じでいいのかな……と思いながら恐る恐る話して、やっぱり全然だめでした。緊張しすぎて声が出なくて、自分の名前すら言えなかったこともありました。終了後のアンケートに厳しいコメントを見つけ、このままでは役に立てないなと思いました。今は講演のための研修に行かせてもらったり、場数を踏んだことで、少しは克服できたように感じています。
広報課に移ってよかったことは、子供たちや深海ファンの方々と接する機会が増えたことです。キラキラした目や笑顔に触れて、初心に戻れました。今までは機械のこと、日々の乗船のことしか頭にない、がむしゃらに過ごした5年間だったので、「そういえば私もこういう目をしていたんだっけ」と思い出すことができました。
――それでは、外崎さんのこれからの目標について教えてください。
外崎:お母さんパイロットになることと、後輩の女性を増やすことです。講演に行くと、終わった後に「私もパイロットになりたいです」と話しかけてくれる女の子はけっこういます。とはいえ、残念ながら私に人事権はないですけど(笑)。
できるなら、女性も1人とは言わず、一度に2人ぐらい採用したほうがよいのではないかと思っています。私の場合は同時期にコパイロットになった若手の仲間が2人いて、3人一緒に成長できたのはとても励みになりました。私からすると技術的には2人とも先輩ですが、お互いの潜航後には「今日はこんな感じだった」「ここは気をつけたほうがよさそうだ」と情報交換をします。
深雪にも訓練生の同期がいたら、ひとりで闘わずにすんで、もう少し楽かもしれませんよね。これからパイロットを目指す後輩女性にも、男女問わず一緒に頑張る仲間がいるといいなと思います。『海に降る』の小説やドラマで、この仕事に興味を持つ人が増えてくれたら嬉しいです。
外崎瞳(とのさき・ひとみ)
1985年茨城県生まれ。2008年北海道大学水産学部卒業。同年よりJAMSTECに所属し、その後日本海洋事業に出向して日本人女性初の深海潜水調査船コパイロットになる。現在はJAMSTEC広報部に異動。
話題の深海小説を完全解剖!
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ここでは『海に降る』文庫版がさらに楽しく読める情報をお知らせします。