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男だけど、カワイイものが大好きだ。

2015.11.13 公開 ポスト

第8回

〈ベトナム〉やっと、カワイイの国へ(前)ワクサカソウヘイ(文筆家)

現在、コラムニストとしてだけではなく、コント作家、脚本家、舞台のプロデューサーなど、多方面で活躍中のワクサカソウヘイさん。

そのワクサカさんの新刊『男だけど、』が、とにかく笑える、共感できると好評発売中です。刊行を記念して、本の読みどころを一部ご紹介します。

第8回目は、タイでのパワースポット参拝を経て到着した、カワイイが溢れる国ベトナム・前編。バイクの集団を抜けてたどり着いた、公園の茂みで目にした衝撃の光景とは。

 

*  *  *

さて、タイでの寄り道を終えた僕は、今回の旅の本願であるところの、ベトナムへと飛び立った。

タイでのパワースポット参拝を経て、“女の子ちゃん”もすっかり覚醒、「カワイイ・センサー」も感度ビンビンである。黛さんが言うところの「カワイイ! が溢れている」国、ベトナムとは、果たしてどんなところであろうか。

バンコクを飛び立った飛行機は、ベトナムはホーチミンのタンサンニャット国際空港という、なんだか舌足らずの名前の空港へと降り立った。

 

空港の外に出て、驚いた。

ベトナム人が、黒山の人だかりとなって、到着ゲートから出てくる人々を待ち構えている。すわ、客引きか? と思いきや、彼らは特にこっちに声をかけてくることもなく、ただただじっと到着ゲートから歩いてくる人たちの顔を凝視しているだけである。

あれは一体なんなのか、空港前で乗ったタクシーの運転手に尋ねてみた。彼の話によれば、あれは海外に行った親戚の帰りを待つ人の群れだという。ベトナムの人たちは、血縁の者が海外に行くと、その帰りを親戚一同でこぞって空港まで迎えに行くというのだ。

変だ。ベトナム人は、なんだか、変である。しかし、たったひとりの者の帰りを空港まで親戚一同で迎えに行くとは、考えようによっては、なんだかカワイイ。早くも「カワイイに溢れている」ベトナムに期待感の持てる光景に出合うことができ、僕は心のチェックシートに「+1Pt」と書き込む。さあ、ここからは「カワイイ」と「カワイクナイ」の真剣勝負である。ベトナムを土俵にした闘いは、どちらに軍配が上がるのであろう。

 

ホーチミンの中心部に位置するベンタイン市場、その前のロータリーにてタクシーから降りた。ブロロロロロ……。噂には聞いていたが、ベトナムのバイクの交通量というのは、想像の上をゆく多さである。まるで巨大なひとつの生き物が、うなり声を上げて駆けていくようにも見える。ロータリーを横切ろうとすると、ナウシカの王蟲を思わせるバイクの集団が、ゴゴゴゴゴゴと行く手を阻む。そのバイクの塊の隙間の中に、ひとつの攻略道を見つけながら、まるで縫うようにして道を渡る。

ベトナムは、本当にバイクが多い。そしてその反面、車はとても少ない。空港から町へ出ると、タクシーの姿もほとんど見かけない。

なぜこんなことになったのか。ざっくりとした流れで説明すると、

 

(1)ある時期、ちょっとしたバイクブームが起きて、ベトナムではバイクに乗る人が増えた

(2)バイクが多くなってきたので、すこし車が走りづらくなってきた

(3)なので、車よりもバイクを選ぶ人がさらに増えてきた

(4)ますます車は走りづらくなってきたので、乗る人が激減した

(5)みんなバイクに乗る。バイク圧勝。バイク最高。バイク天国となる。五マス進む

 

みたいなことらしい。

ちゃんと調べたわけではないのではっきりとしたことは言えないが、にしても、ベトナム人、やはりなんだか変である。

そしてやはり、なんだかカワイイ。

「これ以上バイクが増えたら、車が走れなくなっちゃうよ~。バイクを減らせばもっと交通はスムーズになるのに~。ああ~、でも現状としてはバイクが便利だから、どうしてもバイクを買っちゃうボクがいるのさ~」

と困っているベトナム人を想像してみてほしい。とても、カワイイ。上手く想像できない人は、ハチミツを食べすぎたら太っちゃうからもうハチミツの甕を棚にしまおうとしているんだけど結局食べちゃう自分に悩んでいるコグマの図を思い浮かべ、そこに先ほどのベトナム人のセリフをハメ込んでみてほしい。

ああ、とってもカワイイ!

 

そんなことを考えながら道を渡りロータリーの中心部分である小さな公園のようなところに立つと、茂みでなにやら蠢くものがあった。

その影をよく見ると、女性の尻であった。

藪から棒ならぬ、藪から尻である。

茂みでベトナム人女性が、それもちょっとキャリアウーマン風のスーツでビシッときめた女性が、なんと野糞をしていたのである。

アジアでは、人が街中で野糞をしている風景は、特段珍しいものではない。いや、珍しいものであってほしいとこちらは強く願っているのであるが、なかなか需要と供給のバランスが上手くいかない。野糞の風景は供給過多気味に、タイの高速道路の高架下や、タイの寺院の裏、ラオスの朝市の陰や、タイの川沿いなどで、多く見かけることができる。ほとんどタイばかりではないか。そういえばタイでは一度、公衆トイレの横で野糞をする人も見かけたことがある。その公衆トイレの個室は全て空いていたのにもかかわらずである。どうなっているんだ、タイ。

しかし、その野糞のどれもこれもは、男の人によるものであった。

女性の野糞、しかもなんだか自分よりも高学歴っぽい女性による野糞を見たのは、このベトナムが初めてであった。

 

通常、旅の街角で野糞の風景に出くわすと、“女の子ちゃん”が大騒ぎし、(不潔! とにかく早く目をそらさなくっちゃ!)ということになる。ところが今回のケースに関しては、相手が女性だということもあり、“女の子ちゃん”は判断に困っているようだった。これは、目をそらすべきものなのか、それとも凝視すべきものなのか……。いや、凝視は明らかに間違っているので、ここは目をそらすべきだろう。しかし、もうひとつ、ジャッジに困る案件が潜んでいる。つまりこれは、「カワイイ!」なのか、それとも「カワイクナイ!」なのか……。

野糞なんて、普通は「カワイクナイ!」にカテゴライズされるものである。どう考えても、そうである。しかし、ここまでのベトナムの、変でどこかカワイイ姿を背景に考察するに、この「ロータリーの中央でキャリアウーマンが野糞」という突拍子もない風景は、もしかしたら「カワイイ!」に当てはめて然るべきものなのではないだろうか……?

そんなことを考えているうちに、その女性はサッとパンツを引き上げ、カバンを肩にかけ、カツカツカツとハイヒールを鳴らしながら、バイクの波の中へと消えてしまった。僕はしばらく悩んだあげく、心のチェックシートに「ドロー」と書き込んだ。

 

どうもベトナムの「カワイイ!」には、僕が今まで見てきた「カワイイ!」とは違うルールが潜んでいるようだ。そして黛さんが言っていた「ベトナムのカワイイ!」はこういう枠のことではない気もしてきた。

*  *  *

次回は11月16日(月)更新予定です。

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男だけど、カワイイものが大好きだ。

「カワイイ」は、女子だけのものじゃない! 新進気鋭のコラムニスト・ワクサカソウヘイによる、カワイイを巡る紀行。

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ワクサカソウヘイ 文筆家

1983年生まれ。小説からコラム、脚本までその執筆活動は多岐にわたる。またコント作家・芸人として、コントカンパニー「ミラクルパッションズ」にも参加。主な著書に、『今日もひとり、ディズニーランドで』(イースト・プレス)などがある。

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