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男だけど、カワイイものが大好きだ。

2015.11.23 公開 ポスト

第12回

〈ニューヨーク〉「SEX & THE CITY」が言えなくて(中)ワクサカソウヘイ(文筆家)

現在、コラムニストとしてだけではなく、コント作家、脚本家、舞台のプロデューサーなど、多方面で活躍中のワクサカソウヘイさん。

そのワクサカさんの新刊『男だけど、』が、とにかく笑える、共感できると好評発売中です。刊行を記念して、本の読みどころを一部ご紹介します。

第12回は、真冬のニューヨーク。紙おむつを穿いて待ち続ける、タイムズスクエアでのカウントダウン・中編。
友人との会話で、性行為のことを何と言えばよいものか、頭を悩ますワクサカさん。ナチュラルに「SEX」と呼んでいいのは、土屋アンナだけだと思うし、「エッチ」は、マムシ酒をキキララのキャラクター包装紙でラッピングしているようなものだ。「情事」は団地感が強すぎるし、「愛し合う」ではジョンとヨーコ感が強すぎる…。

 

*  *  *

それから大人になり、僕は次に様々な女性に恋をするようになった。

ただ、女性に恋をする時でさえも、“女の子ちゃん”は全面的に恋愛ハンドルを握っていた。

 

付き合っている彼女が、少しでも仕事で忙しくなると、「どうして最近、会ってくれないの……?」などと非常にめんどうくさいメールを送るようになる。さらには相手が電話に出るまで何度も発信を繰り返し、彼女の着信履歴には僕の名前だけがずらっと秒刻みで並ぶという、もはやめんどくさいを超えてホラーな事態に。

彼女に別れ話を切り出されると、「やだ! そんなの、絶対に、嫌だ!」とイヤイヤみたいなポーズで身を揺すり、それでも別れることになってしまうと家に帰って部屋でひとり、机に突っ伏しながら「ワッ」と嗚咽する。

ある女性には「あなたと付き合っていると、彼氏と遊んでいるというより、女友だちと遊んでいる気分になる」という理由でフラれたこともある。

どうして恋が絡むと、こんなにも“女の子ちゃん”が全面的に現れてしまうのだろうか。

 

僕は、女性が好きである。もう頭の中は異性でいっぱい、みたいな男である。スケベと呼んでもらっても、まったく差し支えはない。

にもかかわらず、色っぽいお店に行ったことが一度もない。色っぽいお店、とわざわざぼかして書くほどに、「風俗店」というものに言葉からして嫌悪感を抱いているのである。

いや、嫌悪感というより、なんというか、ああいうお店が、なんか怖い。

だってお金払ったらすぐさま初見の女の人と部屋でふたりっきり、しかも互いに裸になるだなんて、逆になんでみんなあれが平気なの? という疑心を持っている。

 

それから、友人との会話の中で性行為のことをどのような呼称で表現したらよいものなのか、しばしば頭を悩ますことがある。

男らしく、ストレートに「SEX」などと呼ぶのは、なんだか抵抗がある。大きなリスクも感じる。会話の相手もきっと「こいつ、唐突にヘッドバンキングを始めた!」とばかりに驚くに違いない、と躊躇してしまう。

「SEX」の響きにはどうしても、いきなり感があるように思う。性行為のことをナチュラルに「SEX」と呼んでいいのは、なんだかわからないけど、土屋アンナだけだと思う。

じゃあ「エッチ」と呼べばいいのかというと、これも激しく違う。性行為を「エッチ」と呼ぶのは、マムシ酒をキキララの包装紙でラッピングしているようなものだ。ファンシーさで隠すことで逆に違和感が際立ってしまう。「エッチ」と発言していいのは、なんかわからないけど、アパホテルの女社長みたいな人だけだ。

ちょうどいい湯加減の性行為の呼称というものが、どうにも、ない。

「情事」は団地感が強すぎるし、「愛し合う」ではジョンとヨーコ感が強すぎる。「なかよし」などという呼び名もあるらしいが、これはちょっと糸井重里感が強い。丸みが、濃い。

学生の頃、男友だちに「恋人とラブホテルに行った」という自慢話を聞かされた。「へえ、スロットマシーンが部屋にあるんだね……」などと妖精みたいな声で受け答えをしつつ、僕は胸をドキドキさせていた。そういう話は、ついついウブに聞いてしまう。

「それで、その、つまり、キミは、あれかい? その……」

話の核心に迫ろうとして、僕は言葉選びに足を止めた。性行為のことを、いったいなんと表せばいいのだろう。そして僕は意を決し、とんでもない賭けに出てしまった。

「変なことをしたのかい?」

大失敗だ。

僕は地雷を踏んでしまった。「変なこと」って。これ以上ない、気味の悪い表現である。いまでもあの時のことを思い出すだけで、「ギャー」と叫びながら枕に顔をうずめたくなるような衝動に駆られる。

*  *  *

次回は11月25日(水)更新予定です。

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男だけど、カワイイものが大好きだ。

「カワイイ」は、女子だけのものじゃない! 新進気鋭のコラムニスト・ワクサカソウヘイによる、カワイイを巡る紀行。

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ワクサカソウヘイ 文筆家

1983年生まれ。小説からコラム、脚本までその執筆活動は多岐にわたる。またコント作家・芸人として、コントカンパニー「ミラクルパッションズ」にも参加。主な著書に、『今日もひとり、ディズニーランドで』(イースト・プレス)などがある。

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