今回から始まるインタビュー連載「わたしが挫折したときのこと」。その第1回にお招きしたのは、『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)で第153回芥川賞を受賞した羽田圭介さん。目下メディアに引っぱりだこの人気作家だ。17歳のときに『黒冷水』(河出書房新社)で文藝賞を受賞し、デビュー。そしてこの度、29歳という若さで芥川賞作家の仲間入りを果たした。経歴的には順風満帆にしか見えない作家人生だが……そんな羽田さんにも挫折の経験はあるのだろうか。(構成:清田隆之 撮影:菊岡俊子)
失敗しても当事者は挫折だとは思わない
「そもそも、挫折ってそんなにたくさんあるんですかね? 例えば困難な現実に直面したとしても、当人は『どうにかなる』という可能性のことを考えて、それを“挫折”という風には捉えないような気がするんですよ。もう可能性がなくなったとか、大きな失敗をしてしまったとかじゃないと、そういう風には思わないんじゃないかな。でも、他人のこととなると、『あ、この人は挫折したな』って思うかもしれません」
と、のっけからこう語る羽田さん。なるほど。挫折とは他人が認定しているだけのことであって、当人にその意識はない──。初回の冒頭から連載の根底が覆ってしまった思いだが……確かにそんな気もしてくる。
「ただし、『どうしたらいいかわからない』って状況ならあると思うんですよ。例えば芥川賞を獲る前は、自宅の最寄り書店に自分のハードカバーが並ばない時期が何年間も続きました。作品に関しては、やれることをやっていたし、自信もそれなりにあった。でも、売れない。売れないから書店に並ばない。本が売れるためには『王様のブランチ』に紹介されるか、芥川賞を獲るか、映像化されるかの3つくらいしかないんですが、どれも自分でどうにかできる問題じゃないんですよ。それで、どこからどう手をつけていいかわからず、どん詰まり感を抱いていた時期は確かにあった。リアルな苦しみというのは、そういう『先が見えない』とか『やりようがない』という場合に生じるんじゃないかと思います」
「他の作家に嫉妬心を抱くことはありませんね」
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わたしが挫折したときのこと
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