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ベトナムで起業したら、見えてきた。 アジア街角事情

2015.11.21 公開 ポスト

第14回

日本への留学を希望するのは日本フリーク層ばかり小原祥嵩(ハバタク株式会社)

親日国ベトナムは日本をどう見ているか?

高層ビルの建設が相次ぎ、地下鉄工事も着々と進み、ますます都市化に拍車がかかるホーチミンですが、大通りから路地を一本入ると長屋がひしめき合い、ローカルな人々の暮らしが今も息づいています。

路上にプラスチックの椅子を並べて夕涼みをする親父さん。子どもの手を引きながらよもやま話に花を咲かせる奥さんたち。天秤棒を担いで雑貨を売り歩くおばさん。道路に面した飲食店の軒先では大鍋が湯気をたて、昔ながらの家庭的なベトナム料理の香りが路地を満たします。

私もこうした下町に暮らしていますが、生活感のあふれる風景に居心地の良さを感じるとともに、都市の開発が進んでもこうした暮らしが残ればいいのにと勝手なことを思っています。

しかしながら、こうしたローカルな暮らしにも都市化の波は確実に訪れ、ひとびとの暮らしにも変化が起きています。例えば、これまで日用雑貨は近所の市場やパパママストアで買うのが普通でしたが、いまではコンビニチェーンに置き換わりつつあります。

また、路地裏の人々の生活圏にもベトナム料理以外の店舗が増えており、人々の食生活も少しずつ変わってきています。

ローカルな街並みに最近特に目につくのがベトナム人経営の日本食料理屋です。他の日本食屋で働いていたベトナムの方が独立するケースが多いのではと推測されますが、フォーや貝料理などのオーソドックスなベトナム料理屋の並びに赤ちょうちんを軒先に提げ、日本の風景写真やアニメのキャラクターをモチーフにした店舗が昔からそこにあったかのように納まっているのをよく見かけるのです。

以前から日本食レストランはベトナムにもありました。そしてそれは多くのベトナムの人々にとって高級で特別な日のためのレストランでした。それが今や人々が日常的に食事する場所として浸透してきているのですから驚くと同時に日本人として誇らしい気持ちも湧いてきます。

 

ベトナムの高校生たち

 

そんなベトナムは親日国としてよく知られていますが、実際のところ日本はどのように見られているのでしょうか。

私は高校生・大学生を対象としたリーダーシップ研修を行っており、そのためベトナムの高校や大学を訪問して講話・ワークショップを行うことがあります。その時には生徒たちに日本について知っていることを聞いてみることにしています。すると真っ先に飛び出すのはドラえもん、コナン、ナルトと言った漫画のキャラクターの名前です。日本の子どもたちが熱中している漫画はベトナムでも大人気です。それに加えて寿司、桜、相撲といったいわゆる日本を象徴する単語が出てきます。若い世代にも日本発のコンテンツや日本の風景の一端が知られていることを実感します。

こうした日々消費するコンテンツ、エンタメとしての日本人気は相変わらず高いのは間違いありません。

 

学び舎としての日本の人気は?

それでは、日本を留学先や就職先と捉えるとどうでしょうか。

ベトナムはアジアでも有数の教育熱心な国で、海外留学者数は毎年10数%ずつ増加しています。留学者数で見るとオーストラリア、アメリカに次いで日本はトップ3に入っています。現状日本への留学者数は中国がダントツ一位ですが、ベトナムは韓国を抜いて第二位に浮上しています。これらの情報を鑑みると留学先としても日本は人気が高く見えるのですが、残念ながら内情は異なります。

ベトナムの人々が進学先を選ぶときに最も重視するのは、何を学ぶかではなく、卒業後どのようなキャリアを歩めるかどうかです。もっと直接的に言うとグローバル規模の“いい会社”に入って“いい暮らし”が出来るか?が重要な要素なのです。

その観点でいくと英語圏の人気は不動です。ネイティブレベルの語学力を身につけることで、世界中どこの企業にもチャレンジできるようになります。

一方、日本に留学するとほとんどの大学では日本語で学ばなくてはならず、卒業しても日本企業に就職するほかに道はありません。また、日本の企業に就職すると昇進が遅く、朝から晩まで働き続けなければいけないというイメージが強いため、出来れば行きたくないという人が少なくありません。したがって、ベトナムで最も優秀な層はがむしゃらに勉強して奨学金を獲得し、欧米への留学を目指すのです。

では今日本に留学している人はどういう人かというと大きく3つに分かれます。

・日本の文化が大好きな日本フリーク層

・本当は欧米に留学したかったが学力あるいは金銭的な壁があったため、やむなく日本を選んだ層

・進学先として日本が最適だと判断して学びに来ている層

そして現時点で最も多いのはひとつ目の日本フリーク層だと思います。

先日、日本学生支援機構主催の日本留学フェアがホーチミン市で開催されていました。国公立大学や専門学校など多くの教育機関がブースを出し、留学希望者への説明を行う大規模なイベントです。

中を覗いてみると多くの学生で賑わっていました。(1,400名を越える来場者があったそうです。)

おそらく来場者の多くは前述の日本フリーク層だったと推測されます。実際に、参加している学生数名と話したのですが、留学を検討している理由は日本のアニメが大好きだから、日本の文化が好きだからというものでした。

 

日本留学フェアの会場

 

ブースを出している教育機関それぞれに思惑はあるでしょうが、日本の上位校はやはり優秀な層を獲得にきていたはずです。日本政府も2020年までに留学生を倍増させる「留学生30万人計画」を打ち出し、教育機関と連携して留学生の獲得に本腰を入れ始めています。そんな日本の教育機関がフリーク層だけでなく、自分たちの欲しい層を獲得していくためには、クールなコンテンツ提供者としての日本だけではなく、世界に通用する学び舎としての日本の価値を伝え、今は欧米に目を向けているトップ層に振り向いてもらうところから始めなければならないのではないでしょうか。

“クールジャパン”の意味や伝え方を再考してはどうでしょう。

それではまた!

 

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小原祥嵩 ハバタク株式会社

1982年兵庫県生まれ。ハバタク株式会社取締役・アジア地域統括。アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス株式会社(現・日本IBM)にて戦略コンサルティングとして複数の業界・業種のクライアントに対する業務・組織変革支援にたずさわったのち、独立、ハバタク株式会社を設立。現在は、ベトナム・ホーチミンを拠点に、ASEAN圏へのビジネス展開支援やベトナム現地企業に対するコンサルティングを行っている。著書に『ミャンマー経済で儲ける5つの真実』(幻冬舎新書)、共著に『ミャンマー・カンボジア・ラオスのことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版社)がある。

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