90年代に一世を風靡した“食事デート”のバイブル本『東京いい店やれる店』。本書にオマージュを捧げつつ、アラサー女子の本音全開で注目を集めた連載「東京いい店やられる店」が、『かわいくおごられて気持ちよくおごる方法』とタイトルを変え、12月10日に書籍として刊行されました。今回は、発売を記念して、著者のはあちゅうさんと、TheStartup代表取締役で東京カレンダーWEBプロデューサーの梅木雄平さんに、食事デートの流儀について前後編で語っていただきました。2010年代、ディナーの数時間において「やれる/やられる」が決めるポイントとは一体どこにあるのでしょうか?
(構成:皆本類 撮影:牧野智晃)
◆食事デートのレストランはエクセルで管理する
梅木 僕は、『東京いい店やれる店』(編集部註:90年代にホイチョイプロダクションズが手がけ、一世を風靡した食事デートのマニュアル的書籍)を何度も読み込んだクチなので、今回の本のもとになった連載もおもしろく読ませてもらっていました。「デートの勝敗は席間隔に宿る」という話など、共感するポイントもいくつかありましたよ。僕もデートの場合、席の間隔はもちろん、「L字型」や「I字型」など、座る位置のポジショニングまで計算に入れますから。
はあちゅう ありがとうございます。ちなみに、たとえばどういうときにL字型を選ぶんですか?
梅木 ちょっとここでは手のうちを明かすことになるので言えませんよ(笑)。これは席の話に限らずなのですが、そもそも僕は自分と女性との関係と、相手の“レストラン偏差値”との変数で、食事をする店を決めます。ですから、まず席の間隔に関してはファーストデートなのか、口説きに持ち込みたい段階なのか、すでに付き合っているかどうかで話が全然違うと思うんですよね。
はあちゅう 「いい店知らない?」って唐突に聞いてくる人っていますけど、一緒に食事に行く相手との関係性やタイプなどがわからないと何とも答えようがないということですね。
梅木 そうです。でも、少なくともファーストデートでいきなり和食のしっぽり系の個室みたいな感じはダメでしょう。ビストロとかトラットリアのように若干騒がしいんだけれども、席の間隔が微妙に近くて、どさくさにまぎれて手を握れちゃいそうなお店などがいいんじゃないですか? 僕は2年前から、デート含め各ジャンルごとに「行った店」と「これから行きたい店」をエクセル上で管理して分析しています。見てみますか?
はあちゅう それはぜひ見たいです!
梅木 (エクセルデータを見せながら)料理ジャンルや価格帯など、既存のウェブグルメサービスにもありそうな情報以外にも、「C」がカウンター席、「T」がテーブル席のあるお店に、「R」はリピートした店につけています。特別によかったお店には「ベスト」の印も。これを作り始めたのは、飲食経験をデータベースとしてまとめ、自分のデートや人に尋ねられたときにお店をすぐ検索できるようにするため。マメでしょう?
はあちゅう 確かにマメですね……。グルメ情報はけっこう追いかけてる私も知らないお店がたくさん載っているし、売り物になるレベルの内容ですね。梅木さんが運営されている有料サロンで、これをもとにしたグルメオフ会とかをしても楽しそうですね。「グルメを楽しむ」という名目のもとに、ちょっとした男女の出会いの場にもなったりして。
◆1人の女を落とすのにそんなにコストをかけるの?
梅木 「郊外・地方のお店の知識の深さは、人生の深さ」という章も面白く読みました。経営者の知り合いから聞いたテクニックですが、彼は知り合って日が浅い女性にも、地方の日帰りデートを提案するそうです。「京都や金沢で美味しいもの食べない?」という誘いは引きが良く、「泊まりではない」ということを強調すれば意外と来てくれるみたい。たとえば京都から東京への新幹線の終電は9時半頃なので、夕食も現地でしっかりとれる。旅費も食費ももちろん男性が持ちますが。
はあちゅう 銀座で遊んでいるような人たちのお金の使い方ですね。私だったらその気がない人との京都旅行なんて気が重くて行けないです。付いていく女の子って、ちょっと面白い体験してみたいって思っているんでしょうか。あるいは、おごってもらえるというお金目当て?
梅木 お互いに割り切りですよね。実際、相手にとっての“ATM”なのかもしれないけれど、知り合って間もないタイミングで長い時間を一緒に過ごすことで距離が一気に縮まる可能性もある。男の下心として、飲んで終電をなして、じゃあ泊まっていこうか……、というような展開を期待している部分もあるのかもしれませんが。
はあちゅう でも、究極はセックスしたいからというだけで京都旅行というのはさすがにコストパフォーマンスが悪くないですか?
梅木 もったいない気がしますが、リッチな40代や50代がやるプレイとしてはアリなんじゃないですか。それに、一緒に行く相手は適当に選んでいるわけじゃないと思いますよ。そもそも、それなりにコストをかけてもいいと思える相手なんでしょう。
◆一回のセックスにいくらまで投資できるか?という「CPS(コスト・パー・セックス)」問題
はあちゅう この本のタイトルにもある男女の「おごり・おごられ」問題なんですが、一般的な男性は、落ちるかどうかまだ分からない段階で、女性にお金を出すということを実際どのように思っているものなのなんでしょうか?
梅木 これもとにかく相手と目的によるんじゃないでしょうか。是が否でも彼女にしたいと思っている女性だったら、僕だったら予算も何も気にせずに突っ込みます。
はあちゅう なるほど、「おごり・おごられ」は絶対的なものではなくデートする女性によって相対的に決まるのだと……。以前飲み会で、1回のセックスにいくら投資できるかという「Cost Per Sex(コスト・パー・セックス)」、略して「CPS」というネタが話題になりました。そこで男性が、「デート代2回分、ホテル代1回分」の7万ぐらいが“相場”ではないか、と言っていたのも印象的だったのですが。
梅木 デート1回あたり予算3万円ということですか。男性の金銭感覚にもよるとは思いますが、本命であればCPSが7万円なんて当然でしょう。むしろ7万円じゃ安いのでは? ただ、ワンナイト目的の相手にかける予算は自ずと減っていくとは思いますよ。たとえば、上限CPSが2、3万円で、カジュアルな焼き鳥屋などで済ませちゃってその日がダメだったらもう追わないみたいな。なんだか藤沢数希さんの恋愛工学の話みたいになってきましたけど。
はあちゅう 梅木さんは食事デートを極めようとされる過程で、ナチュラルに恋愛工学を実践されているような気がしますよ(笑)。
(後編に続く。12月15日公開予定です)