新聞や雑誌で長年健筆を振るい、端正な文章に定評があるコラムニスト・近藤勝重氏。早稲田大学大学院ではジャーナリズムコースの学生を相手に「文章表現」を教える授業を担当しています。そんな近藤氏が文章を書くうえで大切にしているのは、「3つ」を意識すること。これだけで入試や就職試験の小論文はもちろんのこと、ブログ記事も自分史も格段に書きやすく、読まれやすくなるといいます。
連載第1回である今回は、『必ず書ける「3つが基本」の文章術』(幻冬舎新書)に自らのメソッドをまとめた近藤氏からみなさまへのメッセージをご紹介します。
書くのが「苦」から「楽」になる瞬間、味わってみませんか
新聞記者の時代から「3つ」の文章術にこだわってきました。大阪、東京でそれぞれ20数年の記者生活を送っていますが、どんな出来事にも(1)目下の状況(現在) (2)その状況の素地、背景(過去) (3)今後どうなる(未来)――の「3つ」にこだわって取材しました。そのいずれが欠けても、出来事がちゃんと伝わらないと考えたからです。後輩を指導するポストについてからも「(1)(2)(3)にうるさい近藤さん」でした。
記者体験で得た「3つ」の文章術は、早稲田大学大学院のジャーナリズムコースで「文章表現」を担当して、さらに広がり、深まったように思われます。というのも、学生たちの作文や小論文で三重丸をつけた作品に次の「3つ」の共通点があることがわかったからです。
(1)個人的な体験が題材になっている
(2)その体験を通して気づいたことが書かれている
(3)その気づきがどう社会とかかわっているか、普遍的な意味合いを見出そうと努めている
(1)体験 (2)気づき (3)普遍性――の「3つ」のメソッドを身につけた学生たちが、作文、小論文の試験を突破して難関のメディアなどに入社していく姿を見るにつけ、うん、やっぱり文章は「3つ」が基本だ、と自信を深め、こうして一冊の本に著した次第です。
「3つ」といえば村上春樹さんも『村上さんのところ』(新潮社)でこんなことを言っています。
「情景描写と心理描写と会話、というのがだいたいにおいて、小説にとっての三要素みたいになります。この三つをどうブレンドしていくかというのが、小説家の腕の見せ所です」
何も村上さんの権威にすがるわけではありませんが、「3つ」というのは一体となったとき、その力を存分に発揮するものです。じっと胸の内を眺めても何も書けないとき、(1)遠景 (2)近景 (3)心模様――と景(眺め)に自分を託せば胸中を描出できるのです。
文章はしかつめらしく国語の勉強として学んでも、さして上達しないのではないでしょうか。要は自分をどう引き出すかです。それには、題材、場面に応じて書き分ける「3つ」のコツを知ることです。文章への苦手意識がなくなり、(1)(2)(3)とポイントをおさえていたら、あれ、書けた! となる喜び。この本で文章を書くことが苦から楽になる瞬間を味わってみませんか。
名コラムニストが明かす、文章の「3つの基本」
長年健筆を振るってきた名コラムニストが、自らのメソッドを明かした新刊『必ず書ける「3つが基本」の文章術』。ここでは試し読みや著者からのメッセージなど、本書がより楽しめる情報をお届けします。