2015年のブレイクタレントランキングでは、堂々の3位。今やテレビで見ない日はない篠原信一さん。順風満帆な人生とは程遠く、金メダル確実と言われていたシドニー五輪では「世紀の大誤審」により、銀メダルに終わるという大きな挫折を経験しました。
しかし、そんな篠原さんですが、「人生の大体をご機嫌に生きてきた」と豪語。なぜ、彼はいつも幸せなのでしょうか?
「今のままの自分でいいんだと楽になった」「型どおりにはまらなくても、人生ってこんなに楽しめるんですね!」などと大反響の篠原本、特別に一部を無料公開します。
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はじめに
篠原ってデカいよね。そして顔が長いよね。
そう思っている方、多いと思います。
僕自身もそれはよーく分かっているんです。
小学校卒業の時から僕は、人生のほとんどを人よりも頭、というか顔2つ分くらい飛び出させて過ごしてきました。
デカいという理由だけで、気が付くと、まったく興味のない柔道の世界に引っぱり込まれていました。
勉強もできん、遊ぶことばっかり考えていた人間が、いつの間にか畳の上で投げられたり、押さえ込まれたり、絞められたりしている。なんなんこれ? と思い続けていました。
才能もセンスもまったくなかったけど、それでもやめずに柔道を続けてきたら、2000年のシドニーオリンピックでは100キロ超級に出場し銀メダルを獲得(決勝戦の判定は「世紀の誤審」と話題になったので、篠原と言えば、あの時の男と記憶している人も多いかもしれません)、現役を退いてからはロンドンオリンピックで男子日本代表の監督も務めました。
みなさんの中には「柔道家」とは汗水垂らして黙々と稽古に臨む努力家というイメージがあるかもしれません。柔の道を極めるためにストイックに心と身体からだを鍛え上げていく。僕の周りにもそんなふうに柔道に人生をかけている選手はたくさんいました。
でも僕自身はというと、実のところ柔道がまったく好きではありませんでした。ある時から稽古だけは死ぬほど本気でやったけど、柔道以上に楽しいことはあったし、タバコだってバンバン吸いまくってました。柔道に一生をかけようなんて少しも思ってもいませんでした。
なんか俺、柔道界からはみ出してへん? と思いながらも、周りの雰囲気に押し流されるように、目の前の目標に引きずられるように、柔道に向かっていました。
そして、もうすぐ40歳というある日、立ち止まって考えたんです。
このままだと残りの人生をなあなあな感じで過ごすことになる。元オリンピックメダリストというだけの(しかも金でもない)、どうしようもないおっさんになっている自分が浮かんできて、いやいや、それはあかんやろと思いました。
何か新しいことをしなければと決意して柔道界から離れ、自分で廃棄物関係の会社を立ち上げました。ビジネスのビの字も知らんような男が突然の起業。齢(よわい)40での華麗なる、というより加齢なる転身。
再出発にしては遅くないか? 自分でも突っ込みたくなります。
しかも廃棄物関係なんて、まったく柔道と関係ないやんけ、と。
でも新しいことを始めるのに遅いも早いもない。今までの自分にとらわれる必要もない。僕はそう考えることにしたんです。
さらに想定していなかったことが起こりました。テレビの世界からお声がかかるようになったんです。
スポーツ番組ならまだ分かりますが、バラエティーにまで篠原ちょっとやってみんかとお誘いをもらえるようになった。ありがたいお話ですので、できる限りやらせて頂くようにしています。
もちろん芸人でもプロのタレントでもないので、カメラの前で特段面白いことができるわけではありません。ディレクターさんの「そのままな感じでお願いします」というオーダーを言葉通りに受け取って、なるべく普段の自分のままでやっています。
テレビという厳しい世界の中で、いつまでみなさんに面白がってもらえるのかは分かりませんが、声がかかるうちは楽しくやりたいと思っています。
視聴者の方からは、なんでお前がテレビに出てんねんと思われているはずです。背がデカくて、顔が長い、元柔道家なだけやないか。
確かにそうかもしれません。僕もそう思います。
でも逆に言えば、背がデカくて顔が長い元柔道家だから、テレビに出られているんです。
僕の体格は言ってしまえば「規格外」だと思います。
「規格外」だからこそ、他の人にはなかなか体験できない「規格外」の体験をさせてもらった。今まで「規格外」に悔しいこともあったけど、基本的にはいつも「規格外」に幸せだと思ってきました。
そもそも人生に「規格」なんてあるんでしょうか?
あるはずもない「規格」に合わせようとするから悩んだり、苦しんだりするんちゃうか、と思います。
僕を見てください。こんないい加減で適当な僕でも、ぼちぼち楽しくやれてます。背がデカくて、顔が長い、元柔道家なだけなのに、けっこうご機嫌に生きてこれてます。
自分にとって何が大切かも長いことよく分からずに、好きでもないことに人生の大半を費やして、いい年してから突然新しいことを始めて、しかもこの先一体どうなるかなんてまるで分からない。こんな僕でもそれなりに幸せに生きているんです。
そこにコツとか秘訣みたいなものがあるのかどうか。
胸を張って大きな声で言うほどかは分かりませんが、こういうことなのかなと思えることがいくつかあって、この本を出そうと思いました。
篠原信一の「規格外」な人生を笑って頂きつつ、なんやそんなんでええんか! と楽な気持ちになってもらえたら嬉しいです。